第44話
"森のエルフ"の里
「一体どのように動いているのだ?」
「ゴーレムとはまた大きく違うな・・・」
「一体どんなからくりなのだろうか」
幾人ものエルフ達がアメリカ陸軍のハンヴィーに群がり、考察を展開する。
「まいった。エルフ達はこういうのに興味津々なのか」
世界樹の有りかを隠すために、森の奥深くに引きこもざるを得なかったため、長い間代わり映えのない光景しか見てこなかった彼らは、外の世界からやって来た物に興味津々だった。
ヨアピス派遣アメリカ軍の士官たちは、"森のエルフ"から地理情報等を聞き出す為に里へと向かったのだが、里の入り口付近でこのざまというわけだ。
「ほぉれお前たち、よってたかってないで仕事にもどれ!」
初老のエルフが声をあげてハンヴィーに群がる者達を仕事に戻らせる。
「すまんな、アメリカ軍の方々、我々は新しい物に目がなくてな」
「攻撃されたわけではないから大丈夫ですよ」
ブルルゥン・・・
ハンヴィーは入り口をくぐって老エルフ達のいるツリークライミングハウスの元へと向かう。
「本当に魔力を使っていないのだな・・・」
そこらの倒木より明らかに重いであろう金属の塊が、重低音を鳴らしながら自力で動く姿は驚きだ。
どのような原理で動く力を作り出し、それをどうやって移動に変えているか、疑問はつきない。
里の連中が仕事をほっぽりだして見に行くのも頷ける。
「長老!アメリカ軍の方々がいらっしゃいました!」
「おや、何事ですかな」
「近隣地形について情報を頂きたく」
アメリカ軍の士官はハンヴィーに護衛の兵士とドライバーの2人を残し、ツリーハウスへと入っていった。
ファストナ帝国 "森のエルフ"征伐軍駐屯地
"森のエルフ"の住む場所は文字通り森だ。しかも、かなり深く、そして身軽なエルフにとっては有利に戦え、あらゆる場所がキルゾーンとなる。
征伐軍にはこれまで相手は辺境に隠れていた貧弱なエルフに過ぎないとし、少ない戦力での攻略を強いられていたが、大陸の統一が近づきつつあることと、エルフが思いの外大きな勢力であった事が判明したことで、兵力と装備が大幅に増強されていた。
しかし、何度もエルフに苦汁を舐めさせられてきた士官や将校達は一種の疑心暗鬼になっており、兵士には過酷な訓練をかし、度々偵察部隊を投入し入念に地形調査を行っていた。
「やはり一点を攻めるより面で攻勢をかける方がよいだろう」
「奴らを見つけられたのも面で地理調査を行った結果だからな。奴らの勢力は当初思われていたより大きかったが、それでも少数には違いない」
今までは兵力の少なさから兵力を集中させざるを得なかったが、今は違う。敵の戦力を集中できなくし、攻勢発起点の特定も困難となるローラー作戦なら、エルフも戦力を集中できず、まともに抵抗できまい。
「地形調査と訓練過程を終了次第、攻勢だ!」
ファストナ帝国は、大陸征服という目の前に迫りつつある目標を達成するべく、邁進し続ける。
"森のエルフ"の里
「~!~~!?」
「何事だ?」
老エルフ達が長年貯めてきた周辺の地形についての説明を受けていたアメリカ軍の士官は、外で口論が発生していることに気づいた。
「何かあったのですかな」
老エルフたちも気づいたらしい。地図から目を窓へと向ける。
アメリカ軍の士官は窓の側へ行き、声の出所であろう場所に目を向ける。
「何をやっているんだ!?」
彼の目に入ったのは、ハンヴィーをに対して怒りの表情を見せてハンヴィーを半包囲する者達と、それらにOGPKを旋回させてM2重機関銃を向ける護衛の兵士、そしてハンヴィーを守るように怒りの表情を見せる者達とハンヴィーの間にも何人かエルフが並んでいる光景だった。
「あれは一体!?」
「彼女らは世界樹の巫女達だ。囲んでいるのは・・・風精霊の巫女か?」
「とりあえず止めなければ、彼女達は一体何のつもりなんだ」
アメリカ軍の士官と老エルフはツリーハウスを出てハンヴィーの元へ階段を下りていく。
「何があった?」
「こちらを囲んでいるエルフに攻撃されました。装甲を突破はされませんでしたが。こちら側に立っているエルフが後から割り入って今の状況に」
OGPKの装甲板の中から護衛の兵士が答える。
「攻撃してきただと?」
とんでもないことだ。ハンヴィーを囲む緑色の刺繍が入れられた服を着ている風の巫女とやらは立場をわかっているのか。
というか、そもそも敵ではない物を攻撃する動機は一体何なのか。
「穏やかな理由で無さそうだな・・・」
士官は念のために腰の拳銃を手に取り、安全装置を解除しておく。
風の巫女とやらの方にハンヴィーから目を移すと、老エルフが仲裁に入ったのか、攻撃体制を崩して話をしていた。
「頼むぞ、できればまともな会話の出来る連中であってくれ」
これまで相対してきた連中は言葉は通じても、話が通じない者が大勢いた。
護衛の兵士によればいきなり攻撃を受けたとの事だ。あの風精霊の巫女とやらは何かろくでもないことを言い出す予感がする。
「どうやら話がついたようだな」
数分の間老エルフと口論していた風精霊の巫女は、強い不満の顔を見せつつもどこかへ去っていく。
ハンヴィーの側に立っていた者たちもそれを追っていく。
アメリカ軍の士官は老エルフのもとに向かい、事情を聞く。
「風精霊の巫女の言い分によれば、この鉄獣の出す空気が風精霊にとって嫌いな物らしく、破壊せねばならないから攻撃したそうだ・・・」
「こちら側に立っていた者達は一体?」
「彼女らは火精霊の巫女だ。客人の乗ってきた物を壊されてはいけないと、風精霊の巫女と対峙したそうだ」
老エルフは苦い顔をしていた。
巫女というには宗教的な立場を持っており、"森のエルフ"全体への影響力は大きいのだろう。
せっかく色々と苦労して安全保障条約を取り付けたのに、実際に部隊まで派遣された後に宗教的な問題で一方的に蹴るというのは、あまりにも失礼というものだ。
それに、最早"森のエルフ"の兵力では増強されたファストナ帝国軍を止める力は無く、滅ぼされないためにも現実を見なければならない。
「熱心な信徒か・・・厄介だな」
ハンヴィーに乗って臨時の橋頭堡に戻る最中、士官は呟く。
熱心な信徒程、戦争で面倒な相手はいない。妄信的に「神の教え」を信じる連中は、破壊目標を与えれば例え必ず死ぬと決まっていても破壊すべく戦う。
今もなお熱心なムスリムが大勢居る中東に介入を繰り返したアメリカはその事を最もよく知っている。
ムスリムは近代文明を持っている。交渉では言葉も話も通じる。しかし、こちらでどのような事を言われるかは未知数だ。最悪、神の名の元に自分たちの主張以外認めないという態度を取りかねない。
"森のエルフ"ファストナ帝国軍監視所
『定時報告、ファストナ帝国軍に大きな動きなし』
「了解、監視を続行せよ」
"森のエルフ"は隠密に長け、情報収集を専門とする者達を森の各所に放ち、常にファストナ帝国軍の動きを警戒していた。
監視所、と呼ばれているこの地下拠点は、"森のエルフ"の里から20km程離れた森が途切れる地帯が見える場所に作られたエルフの拠点である。
「ファストナ帝国の斥候は増えているが、まだ斥候に過ぎないか」
「そのようです。兵力の増加は収まったようですが、近いうちに侵攻してくるでしょう」
「だが、その頃にはアメリカ軍の準備が整っているだろうな」
監視所の者達はアメリカ軍をよく知らなかったが、長老達が苦労し、頭を捻って安全保障条約を取り付けることができた相手だ。
ファストナ帝国を退けられるだけの軍事力があるのだろう。
"森のエルフ"の里
老エルフ達と風精霊の巫女の交渉の結果、風精霊の巫女たちはとりあえず話し合いをすることに同意し、ヨアピス派遣アメリカ軍との話し合いの場がもうけられた。
相変わらず風精霊の巫女は不満たらたらの顔を見せながら、里に作られた交渉場に並んで座った。
アメリカ軍の士官が話を切り出す。
「君たちは我々のハンヴィーを攻撃したそうだが、なぜ攻撃したんだ?」
「風精霊様は貴様らの鉄獣の吐く息をひどく嫌っている。ゆえに殺さねばならない」
アメリカ軍の士官は頭を抱える。しまった、風精霊とやらは過激派エコロジストか!
「貴様らは多くの鉄獣を使役しているそうだが、風精霊様の為に全て殺さなければならない。今すぐに」
「君たちは今の状況と立場を理解しているのかね?」
アメリカ軍の士官に話を切られ、風精霊の巫女は一瞬ぽかんとする。
「現状、"森のエルフ"はファストナ帝国の侵略を受け、このままでは押し負けるとして合衆国に援助を要請した。風精霊とやらの機嫌を伺う理由は我々にはないのだが」
「正気か!?風精霊様に嫌われれば、風属性の魔力は貴様らを避けるようになり、一生風属性のマジュツヲ使えなくなるのだぞ!」
「あいにく、我々は魔術を使っていないのでね。君たちの命令に従う必要はない」
「なっ・・・!?」
風精霊の巫女は驚愕する。彼女らは全くもってアメリカ軍の士官を説法できていなかった。
これ以上は反論できない。魔術を使っておらず、仮に4属性の精霊に嫌われようと関係なく生きていくことができ、そもそも自分たちが守られている状況という事を彼女らは忘れていたのだ。
結局、彼女らはとぼとぼと逃げ帰るしかなかった。
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