第43話

ドラゴネスト天上国


「ダランマ殿、我々は一旦本国へ帰還しようと思います」


「な、なぜじゃ。奴らは確かに悪魔に与している筈じゃ」


「ええ、確かに悪魔に与していましたが、我々の予想を遥かに越える規模と見られ、今の人員では対応しきれません」


「なるほど、つまり援軍を呼びに行くのじゃな?」


「そうです。悪魔を利用する奴らは必ずや滅ぼさねばなりません」


「あいわかった。帰りの船は手配しておこう」


ドラゴネストに派遣された打ち祓い師達は、当初地球圏やスチームーが悪魔を利用しているという情報をあまり真に受けていなかった。


理由は単純で、第1魔術文明圏の魔術レベルであっても、悪魔の対となる天使を呼び出す事は困難で、国家をかけたプロジェクトとなるのに、非文明圏と機械中心のスチームーにそんな事は不可能と考えていたからだ。


しかし、スチームーとの国境で見た対空攻撃、そして地球圏の商船船団の煙突から吹き出る魂の残りカスを見て、疑念は一転確信となり、これほどの規模で悪魔を抱え込んでいる場合、今回派遣された数十人規模の打ち祓い師では太刀打ちできない可能性がある。


魔術通信で報告は可能だが、増援を要請するとなると一旦帰国して手続きを踏まねばならない。


ケールの打ち祓い師は、悪魔を倒すべく、動きを加速させていく。



ヨアピス大陸南西端 "森のエルフ"


ヨアピス大陸南西端の沿岸では、アメリカ軍の上陸作業が進められていた。


LCACは何度も往復し、工兵は物資を降ろす桟橋を整備していた。


「まずはエルフの市街地へ続く戦車が通れるぐらい広い道が必要だ」


「地形調査を行う。道を通すのに適した場所、起伏、地質、調べるものは沢山あるぞ」


兵士達は上官から通達された命令をすぐに理解し、すぐに行動に移していく。


チェーンソーで木を斬り倒し、重機が根っこを引き抜き道を作っていく。


「凄いものだな・・・」


監視塔からその様子を遠巻きに眺めていた数人のエルフ達は、アメリカの手際のよさと建設能力の高さに驚いていた。


「魔術をフルに使っても、あの太さの木はそう簡単に切れないのに、凄いな・・・」


「あの鉄の怪物の力は恐ろしいな。根っこまで掘り出している・・・」


"森のエルフ"は、いわゆる外交的接触というものを長い間経験してこなかった。


森に迷い込んだ人や、探検家、冒険者等と接触する事はあったものの、そう言った者は幻惑魔術だったり、猟師なり同業者を装ったりして方角を教え、里の存在は隠しつつ森の外へと誘導していた。


しかし、どれだけ隠し通そうとしても、秘密はいつか漏れる物だ。


ファストナ帝国はヨアピス大陸の征服計画の中で、豊富な森林資源を有する"森のエルフ"が住む森を有力な林業都市建設地区とし、地形や気候、出没する魔物の種類等の基本地理情報の収集の最中に、"森のエルフ"と接触したのだ。


無論"森のエルフ"はいつも通り森の外へと誘導しようとしたが、エルフの人口の少なさが災いし、多方面から同時に地理調査を行うファストナ帝国に対応しきれなかったのだ。


ファストナ帝国は服従を要求し、世界樹を守るために生きてきた"森のエルフ"は当然これを拒否、そのまま紛争状態となったのだ。



ロシア連邦 南ロシア地方


「第1陣は形になったな」


「えぇ、既に第2陣の訓練の大半は彼らに任せています」


スチームー帝国向けの戦闘機部隊の第1陣の訓練は完了し、彼らは第2陣の訓練科目の大半を代行できる程度になっていた。


実戦を考えると未だ新兵といわざるを得ないが、戦闘機La-7Sの操縦桿を握り、離陸から着陸、空戦の基本はできている。


相手が700km/h以上の高速か、または曲芸飛行を楽々行うような圧倒的な機動力を持つような相手でもなければ、十分に対抗できるだろう。


「それにしても彼らの航空機への執念は凄いものだな。よほど痛めつけられ続けたと見える」


訓練施設の滑走路には、La-7Sの複座型、La-7SUTIが並び、その近くを第1陣訓練生に率いられて第2陣訓練生が隊列を組んで走っている。


「あと少しで第1次生産は終了予定だ。あちらで土を固めただけの滑走路になるようだが、前線飛行場の建設が順調に進んでいるそうだ」


スチームー帝国は、迫る戦争の雰囲気に、度重なる軍拡で対応しようとした。


帝国陸軍、帝国海軍、そして帝国空軍の3軍は、加速した経済発展のおかげで予算が増え、地球圏から入ってくる先進的な軍事思想や理論、ドクトリンは彼らの軍の構造改革を大きく後押しした。


彼らが目指したのは総力戦体制の確立だった。


部隊を分散させ、縦深を形成し、戦略予備の足の速い機動部隊を常に後方で待機させる。


各部隊は常に連絡を取り合い、リアルタイムで情報を共有し、必要な所にはいつでも増援を投入可能な体制を整える。


増援のための予備兵力を常にプールするために、徴兵システムの円滑化と、予備軍が手に持つための武器を大量生産する工場と資源生産体制の強化。


スチームー帝国は、今まで殴り散らかされてきた国土と国民を二度と以前のようにしないために、前進を続ける。



アメリカ合衆国海軍 アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦


カリブ海で廃船と対峙しているアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦には、それまでとは違った装備が載せられていた。


アーレイ・バーク級は転移以前、コストの関係から、スペースは確保しておくものの、ハープーンを搭載していなかったが、転移後あらゆる状況を考慮し、搭載を行っていた。


しかし、相手となりえるのは帆船や前弩級戦艦の親戚程度であり、対艦ミサイルの中でも、性能面で高いと言いきれない程度の性能しかないハープーンでも過剰性能であり、仮に相手が帆船であっても長距離から攻撃でき、かつポンポン撃ってもいいぐらいに安いミサイルを求めた。


主砲を代替にしてもいいじゃないかとも思うだろうが、過去の戦艦には40kmを越える射程を持つ砲を装備する艦もおり、またこちらにはまだまだ未知の部分が多い魔術というものがある。


できる限り長距離からの攻撃能力を望んだ米海軍に納入された新兵器は、RIM-116、俗に言うRAMを改造し、対艦ミサイルに作り替えられたRGM-159 SASM(小型対艦ミサイル)だった。


「発射試験を開始する」


「ミサイル、発射用意」


三角形のミサイルキャニスターに入れられたSASMは、ハープーン1発とあまり変わらない容積に3発を入れることが可能だった。


「発射!」


担当官が発射命令にあわせて発射ボタンを親指で強く押す。



バシュゥゥゥゥゥゥ!!



三角形の一角から、カバーを切り裂いてミサイルが発射される。


「やはり小さいな・・・少々迫力に欠ける」


ミサイルは正確に誘導され、廃船に命中し、対艦ミサイルというには多少心もとない程度の爆発を見せる。


これでもSASMの速度と威力は帆船にとって大きな脅威だが、普段より大迫力かつ大火力の兵器ばかり見てきた彼らには少し物足りなかった。



旧黒海


アメリカが極めて安価な長距離の火力としてSASMを開発する一方で、未だ海賊に悩まされるウクライナはまた違ったアプローチで同じような極めて安価な長距離火力を取得しようとしていた。


外海にはボスポラス海峡をこえ、さらに地中海を越えねばならなかった黒海は今、完全に外海とかしていた。


ウクライナが開発したのは152mmの自動砲システムであった。


152mm砲弾の寸法は陸軍の使用している物と同じ物として生産設備の変更を不要にしコストを下げ、前例のない78口径という長砲身を採用することによって、ロケットアシスト弾でなくとも30km近い射程を実現した。


当初装填装置の開発に手間取り、上手く理想の発射速度を実現できなかったものの、設計チームの絶え間ない努力により、同様に152mm砲弾を使用する自走砲のムスタ-Sと比べても遜色ない10発/分まで高められた。


そして今回、陸上からなものの、移動目標への射撃試験が行われることとなった。


「試験準備よし」


「標的移動始め」


「レーダー、標的を捕捉、追尾開始」


「12番試作砲、現状異常無し」


「発射用意!」


「発射用意よし!」


「撃て!」



ドォン!



152mm砲弾の大きな発射音が鳴り響く。



ひゅぅぅぅぅぅ・・・ドォォン!



「射撃成功!標的破壊!」


「砲に問題は?」


「事故判断システム上では一切なし!」



パチパチパチパチパチパチパチパチ



開発メンバーたちは拍手して試験の成功を祝う。


ウクライナにとって一応は初めての艦艇用自動砲の開発は、暗礁に何度も乗り上げながらも成功した。


AC-152と名付けられた本砲をウクライナは以後建造される艦艇の多くに搭載した他、海外輸出も行われ、いくつかの海外艦艇にも搭載される傑作砲となった。

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