第39話
ハニス島 ギルド本部
「すぐに討伐者部門のマスターを呼び出せ!緊急だ!」
「は、はい!」
会談を終え、ハニス島のギルド本部に戻った最高幹部達は、すぐに事態の把握と問題の解決に取りかかった。
相手がどうであれ、こんな事をやっていてはギルド全体の信用にヒビが入ってしまう可能性がある。
ギルドは後ろ楯に超大国ケールが居るが、各国や各地域がギルドを受け入れるかどうかは別だ。
これまでギルドは長年の実績・・・魔物の退治から流通に至るまで多方面にわたる様々な実績と、それによって得られた信用によって成り立っているが、信用というのは得るのにかかる時間と、それを失うのにかかる時間は反比例の関係だ。
何か不祥事が明るみに出たら最後、信用失墜、その後は疑いの目を向け続けられるだろう。
本当に任せて大丈夫なのだろうか?取引はきちんと遂行してくれるのだろうか?
企業というか、利益集団は基本的にそんなものだが、ギルドというのは極めて特殊な経歴で生まれた国際的な組織だ。
ギルドは第3魔術文明圏と非文明圏を世界の中心第1魔術文明圏と繋ぐパイプの役割を持っている。そのパイプの建設には途方もない時間がかかっている。もう一度同じことをやるのはギルドができた頃から遥かに時代の進んだ今では難しい。
「グランドマスターの方々がお呼びです」
この言葉を聞いたとき、討伐者部門の幹部は疑問をもった。
特に悪いニュースは聞いていない。どこかで魔物の異常発生などが起こったという報告は聞いていないし、討伐者がどこかで大きなトラブルを起こしたという報告も聞いていない。
何か大きな不正をしたやからが現れたのか・・・?
ともかく行って話を聞かなければなにもわからないと、マスターは一般職員の言葉に従ってグランドマスターたちのもとへと向かった。
「討伐者部門、マスターです」
「入れ!」
ドアを開けて中に入った討伐者部門マスターの目に写ったのは、苦い顔を全面に出していたグランドマスターたちだった。
「この依頼書に、見覚えがあるな?」
それは非文明圏の新種の魔物・・・正確には地球圏の乗り物の討伐依頼書だった。
「それは確か、非文明圏の列強、クタルからの依頼でしたな」
その言葉に確かに偽りはない、依頼の報酬は全てクタルの資金だし、依頼書の印刷元はクタルから届いたものだ。
「沖合いに現れた巨大船のことは知っているだろう」
「ええ、そやつらと何か関係が?」
「関係も何も、この新種の魔物とやらは例の巨大船を持つ国家群・・・地球圏の使役している魔物だそうだ。お前はどう考える?」
討伐者部門マスターの内心はかなり悪くなっていた。
巨大船は自分も見た。立地のよいギルド本部からは港が一望できる。
あんな巨大船を作れる国家・・・群に喧嘩を売る、いや、すでに売ってしまっている?
地球圏は単にたまたま仲のよい国家の連合でありながら、ギルドを受け入れないというバカな事をした愚か者・・・のはずだった。
あんな巨大船を作れる国力があるとは微塵も思っていなかった。
そんな事を抜きにしても、国家が使役している、すなわち財産となるものを討伐するなど言語道断である。
「す、すぐに依頼をとりさげさせまs」
「依頼の取り下げなら、もうこちらでやった。それとだが、この依頼主のクタルは、もう滅亡したそうだぞ」
「は・・・?」
クタルは毎日どこかの国が滅び、どこかで新しい国ができる戦国時代の非文明圏の国家だったが、一応列強と呼ばれる程度にはあの中では強かった。
それが滅んだ?討伐者部門ギルドマスターの自分に情報が届く前という短期間で?
まて、例の依頼書では新種の魔物、いや地球圏の使役している魔物の生息範囲とされていたのはクタルと・・・クタルから西に行った場所、部下である各地の討伐者部門ギルド長から聞いていた地球圏の場所だ。
頭の中の地図の上をなぞる指が震える。クタルを滅ばしたのは、もしや地球圏か?あれほどの巨大船を作る国力なら、クタルを滅ぼすことは可能だろう。
だとしたら、この依頼は・・・クタルが討伐者を敵国である地球圏にけしかけているようではないか。
ギルドの国際的な立場は基本的に中立だ。ギルドに大きな被害をもたらすような事をしていたなら別だが、地球圏からは特に被害はもらっていない。
ギルドの信用に関わる大きな失態だ。左遷は確実だろう。
ギルド内部での処理は次の日までにとんとん拍子に行われた。
討伐者部門のマスターは討伐者部門の資料室長に左遷され、例の依頼について、ギルドを受け入れなかった事に私怨でもって強く推進した各地各部門のギルド長たちも左遷された。
アメリカ海軍 級強襲揚陸艦
「思っていたよりも早く終わりましたな」
「相手が賢くて偏屈者じゃなかったからな」
外交官たちからすれば、今回の交渉は楽だった。とにかく。
相手が素直に非を認めたというか、どうやら上ではなく下の方が暴走したようだ。
やからが暴走した詳しい理由はわからないが、解決したからには御の字である。
「失礼します。外交官殿」
「どうした?」
「我が国と外交交渉を行いたいという勢力から接触を受けました」
外交官たちの顔色は、一気に苦いものになった。
まいったな。面倒ごとが舞い込んできたぞ、と。
甲板に上がった外交官たちをまっていたのは、古代ギリシャ風味のある服に身を包んだ女性1人と、革の鎧を身につけた男性2人。
一見すると普通の人間だが、注意深い観察眼を持つ外交官たちはすぐに普通の人間とは違う箇所を発見した。
耳が長く、とがっている。
(これは・・・エルフか?)
外交官たちは3人の前にならぶ。
「我々への用件はなんでしょう?」
「単刀直入に申し上げます・・・私たち、森のエルフをファストナ帝国から救ってほしいのです」
「救ってほしいとは?森のエルフというからには森に住んでいるのだろうが、森を破壊されてるのか?」
「いえ、ファストナ帝国は、私たち、厳密には私たちの守る世界樹を狙っているのです。ファストナ帝国はヨピアス大陸内で勢力を強め、今まで不可侵であった世界樹と私たちを狙い始めたのです」
「その世界樹とやらはなんなんだ?それを知らなければ我々も動くに動けない」
「世界樹とは世界各地の精霊の力の源です。世界の環境の秩序を守る精霊の力の源の世界樹がもし破壊されれば、海は荒れ、砂漠が広がり、世界は衰退してしまうでしょう」
急にファンタジーな内容が出てきて、外交官たちは面食らう。
世界樹の時点でかなりアレだが、そこからさらに精霊だとか、力の源だとか、よくわからん事を言われまくったのだ。
「・・・どちらにしろ、今ここであなた方を救うかどうかを決めることはできない。ただ一つ、対価なしに我々が動くはないと思うべきだとは言っておく」
どのような事を言われようとも、彼ら外交官たちに今そのようなことを決定する権限を持っていない。
危機だとか、なんだとかも、踏むべき手順を踏まなければうんともすんとも言わない、それが現代国家だ。
外交官の返答を聞いて森のエルフとやらたちは帰っていった。少し期待はずれと言った顔で、強襲揚陸艦までやってきた船に戻り、陸地の方へとこぎだしていった。
「また厄介な物を抱え込んでしまったな・・・」
動乱の続く世界において、1つの動乱を乗り越え、一定の地位を獲得した地球圏に次に降りかかるものは、平穏ではなく、さらなる動乱であった。
動乱が常識と化していた世界は、巨大すぎる新参ものの登場で新たな形態の動乱へと突き進んでいく。
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