第38話

第3魔術文明圏 スイコマス諸島ハニス島沖


「なんだあの巨大船は!?」


「でっけー!どれだけの人が乗ってるんだろう?」


「どこの船なんだろうな?」


スイコマス諸島を構成する島の1つ、ハニス島の沿岸部は野次馬でごった返していた。


その原因は数時間前に現れた数隻の巨大な鉄船の艦隊である。


100mを超え、その上に金属でできている船など、この世界では第1魔術文明圏と機械文明圏の大国しか持っていない。


この船はどちらの文明圏からやってきたのだろうか?どういう目的でやってきたのか?


そんな疑問を持ち、絶えず議論を行う野次馬たちは、腹が空いてくる昼食事時になるまで沿岸から消えなかった。



ハニス島行政庁


「あの船団は一体なんなんだ?」


「今衛兵が臨検に向かっている所です。詳細はまもなく判明するかと」


「せめて一体どこの船かすぐにでも知りたいところだが、記録に似た船はないのか?」


「全体的な雰囲気は機械文明圏の鉄船に似ていましたが、明らかに違う点が多く、別物だと思われ、第1魔術文明圏とは全くといって一致する船はありませんでした」


「うぬぬ・・・」


ハニス島の行政を取り仕切るハニス島行政庁は、沖に現れた巨大船への対応に苦慮していた。


野次馬同様、彼らも巨大船がどこからどういう目的でやってきたのかわからないのだ。


「長官、衛兵が船団と接触したそうです」



アメリカ海軍 ワスプ級強襲揚陸艦


「あれじゃしばらくは接触は避けた方が良さそうだな」


「流石に野次馬が多すぎるな・・・」


ギルド本部が存在するというハニス島へと到着した艦隊だが、上陸に際して思わぬ強大な敵と相対した。


沿岸部を固める防衛ラインの名は野次馬。これでは港から少しはなれた浜辺にLCACで向かったとしても機動防御戦術野次馬の行動力で海に叩き落とされてしまうだろう。


相手もこの防衛ラインを突破しての接触は難しいと考えたのだろう。連絡船は昼が近くなり、野次馬が撤退していってからやってきた。


「連絡船がやってきたな」


「エンジンが付いてるわけでもなさそうなのに速いな。なんかの魔術を使ってるのか?」


「さぁ?妨害はしていないので使えはするでしょうが、いかんせん我々にはわかりませんからね」


ほどなくして連絡船が接舷し、甲板から縄梯子が下ろされ、乗っていた数名の兵士とおぼしき人間が甲板へと上がる。


「まるでバチカンのスイス傭兵ですね」


「見たことがあるのか?」


「写真でですがね」


乗艦した兵士・・・というよりは衛兵といった感じの彼らはバチカン市国に残るスイス衛兵の制服と同様、ルネサンス期の派手な配色の服に、上半身と上腕にだけの簡素な鎧と突起部のあるヘルメットという装いである。


梯子を上りきった彼らは甲板で待機していた外交官と話し始める。


「うまく行けばいいですね」


「うまくやってもらうさ。そうでなきゃここまで来た意味がない」



ハニス島 ギルド本部


「なに?行政庁から?」


「はい、なんでもすぐに来てほしいと」


「ふむ、何かギルド構成員とトラブルでも起こったか・・・?」


ギルド本部のグランドマスターたちは、行政庁から呼び出されたと聞いて馬車に乗り込み、行政庁へと出向く。


ギルド各部門を担当する幹部では対処できなかったり、複数部門にまたがってしまったトラブルや問題の解決には彼らギルドのグランドマスターが対処する。


ギルドには決まった最高責任者はおらず、最高意志決定機関としてギルド会議が存在し、グランドマスターと呼ばれる人は会議に所属している。


会議の下に設けられているギルド各部門のトップはマスターと呼ばれ、それぞれの部門を管轄している。


魔物討伐部門に、各種職人部門と、内包する組織はヨーロッパの封建制時代の各種ギルドや、日本で見られた"座"などと似ているが、こちらはスイコマス諸島と同様、神聖ケール王国などによって国際化されており、ヨーロッパなどで見られたギルドに比べ単位が大きく、大規模な組織成長していた。



トントントン



ギルド本部から行政庁へとやって来たギルドのグランドマスター達を案内役がつれいき、行政長官の居る部屋へとつれていき、ドアを叩く。


「ギルドの方々をお連れしました!」


「入れ!」


多少の焦燥感を帯びた声が部屋の中から聞こえ、ギルド最高幹部達は少し困惑する。


案内役はドアを開け、ギルドのグランドマスターたちを部屋へと入れる。


「来てくれたか、早速だが、沖合いの巨大船の話は聞いているか?」


「ええ、聞いていますよ。もしやそれ関連で?」


「ああ、西の・・・非文明圏の方から来たらしいが、艦上でのギルドとの会談を望んでいる」


「ふむ、どのような内容ですかな?」


「具体的な内容については教えてもらえなかった。だが、重要な内容だとは聞いた」


「うーむ・・・」


ギルドのグランドマスター達は、渋々ながらも会談に同意した。


巨大な鉄の船が数隻もやって来ているのだ。相手は相当な国力をもっているはず。


変な意地をはって印象を悪化させるよりかは、多少面倒でも印象はよくしておいた方がよい。



ハニス島 港湾施設


「あれが・・・彼らの船なのか?」


彼らの目の先にあるのはアーレイ・バーク級3隻とワスプ級強襲揚陸艦1隻のアメリカ艦隊であった。


彼らは金属製の船なら何度も見たことがある。主に機械文明と第1魔術文明圏の船は金属製である。


しかし、その見た目はどちらとも似ておらず、またこれ程大きくない。


「考えていたより立派ですな・・・」


「ああ、かなり大きい。巨大船と言われた理由がわかったな・・・」


ギルドのグランドマスター達は、小高い所に置かれている港の倉庫群から、桟橋のところへと向かう。


「確か、連絡船がやってくる筈ですな」


「その筈ですな。一体どんな船が来るのやら・・・」



スーーーー・・・



「水切り音ですな、近くに来たようです」


「あれか・・・?」


見えたのはハリケーンH733複合艇。アーレイ・バーク級その他アメリカ海軍艦艇で広く使用されている複合艇である。


ハリケーンH733は水しぶきを上げながら最高速度39ノットで航行可能であり、18名が搭乗可能である。


「速い。しかも連絡船まで鉄製か・・・」


RHIBは桟橋に接岸し、ギルドのグランドマスター達を乗せ、来るときとは違って20ノットほどの比較的低速でアメリカ級へと向かう。


「しかし、一体どこから甲板に上がるのだ?」


「どこにもそのような場所は見当たりませんな」


RHIBはワスプ級の後部へ向かい、ウェルドックから艦内に入る。


内部にはLCACが1隻泊まっていた以外には特に何もない。


しかし、まさかこんな方法で乗艦することになろうとは思っていなかったギルドのグランドマスター達は度肝を抜かれ、言葉を失っていた。


やがて水が抜かれると、同乗していた海軍士官が彼らを先導してウェルドックから艦内部を通って会談場である甲板へとギルドのグランドマスターたちを連れていく。


甲板では、十数名の外交官がテーブルを挟んでパイプ椅子に座っていた。テーブルの反対側には、同数のパイプ椅子が配置されている。


「こちらにどうぞ」


ギルドのグランドマスターたちはその言葉に従い、パイプ椅子に座る。


「今回は、我が国、アメリカ合衆国と、同盟国カナダとメキシコで発生しているギルドの・・・討伐者の問題について話し合うためにやってまいりました」


「討伐者の・・・問題?」


「そうです。現在、3国に多数の討伐者が押しかけ、我が国で使用されている機械馬車や、機械馬を攻撃しています」


「我々の機械馬車や機械馬は魔物ではありません。にもかかわらず、なぜか攻撃されている。その原因を探った結果・・・」


「ギルドにおいて、我々の機械馬や機械馬車が魔物であると詐称され、莫大な報酬金がかけられていることがわかりました」


ギルドのグランドマスターたちは頭が痛くなった。これは大変な事になった。これほどの国力を持つ勢力の所有物を魔物であると詐称し、攻撃を仕掛けている部下がいる。


ギルドの信用低下を招きかねいことだ。すぐに解決しなければならない。

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