第37話

メキシコ 某所


「最近あの~討伐者ってか?あいつら、いつになったらやめるんだ?沿岸警備隊はサボってるのか?」


「沿岸警備隊は大忙しだ。衛星とかなんとかの乗法を解析したら、1国あたり数百隻もこっちにやってきてるらしい」


「あんなちっちゃい船が不規則な航路で数百隻もか・・・そりゃ止めきれんな」


上陸しては乗用車にバスにトラックにと襲い、そして警察官に逮捕されるという光景が繰り返し起こっていた。


ギルドの提示した高額な報酬は、多くの討伐者をなびかせるに十分であり、我先にと危険性を理解しやって来なくなった海賊と入れ替わるように地球圏へと突撃していた。


おかげで沿岸の都市では警官の暇は一切なくなり、相手が多すぎて警官も対処しきれなくなった所では一般市民による自警団が結成され、沿岸部のパトロールを行うまでに事態が悪化していた。


「もうお手上げだ!自警団も押さえきれないらしい。相手は中世の武器とはいえ、誤射を気にしなきゃならんからな」


警察の負担の増加は指数関数的に増加しており、各地で結成された自警団も押さえきれなくなりつつある。海賊同様、しばらくの間取締りすれば無くなると各国政府は考えていたが、海賊をも遥かに上回る母数と、ギルドという後ろ楯と実力から来る自信、そして実際に地球圏の武力・警察力に当てられた者の多くは刑務所にいたため、いつになっても減らない討伐者という状況を作り出していた。


「大元を叩かねばなりませんな。このままでは何が起こるかわかりません」


今は剣を持った野蛮人もどきが数名のグループ単位で襲撃をしているが、各地からの情報によれば、無数の討伐者とやらの中でも屈指の実力を持つ者は、1人でも強力な魔術を使えるらしい。


そんな連中が送り込まれたら、被害は大きなものになるだろう。SWATなどの警察重装部隊が到着するまでに魔術を連発されれば、それだけでひどいことになる。



アメリカ合衆国 フロリダ


討伐者の被害を特に受けていたアメリカとカナダ、メキシコの各代表が集まり、討伐者問題の解決策を話し合う会議が実施された。


「各種情報筋によれば、討伐者はギルドに所属し・・・」


「主にギルドに依頼された魔物とやらの討伐や巣の破壊を行う。ここまでは全員知ってのことだろう」


出席した大勢の者達が相づちをうつ。


「そして、国交を結んでいる各国に派遣している現地諜報員等からによれば・・・」


少し間をおき、


「ギルドからだされた依頼の中に、地球圏の"魔物"・・・すなわち、車両を討伐するものが発見された」


「なるほどな」


どうして車両ばかり狙うのか。答え合わせの結果はあまりにもあっさりとしたものだった。


「どうする?ギルドとやらに抗議でもするか?」


「受け入れる可能性は?」


「ゼロに限りなく近いな、きっと」


「口での解決が無理なら・・・」


「銃を額に突きつけるしかないな」


出席者の1人が手を拳銃の形にして前に伸ばしながらの言葉に、固い表情で何人かがうなずく。


「それでやつらの本拠地は・・・これまた厄介なところにあるな」


ギルド本部の所在地は第3魔術文明圏のスイコマス諸島、非文明圏のはしっこの方であるフィルタ大陸からさらにさらに東側である。


「遠いな・・・」


距離自体は大して長いわけではない。が、この覇権主義蔓延る世界という事を考慮すれば、あまりにも長い距離だ。


非文明圏では割と静かに通過できたが、それは非文明圏の覇権主義が、生き残るための覇権主義であって、生きていくのに必要以上の覇権を唱えるという考え方が薄かったからだ。


一方で、各情報筋によれば第3魔術文明圏は文字通りの意味の方の覇権主義である。途中でどんないちゃもんをつけてくる厄介者が出てくるかわからない以上、船でスイコマスまで行きたくない。


しかし、どれだけ面倒とはいえこれは解決しなければならない問題である。


こんな世界だからこそ、多少の強引さは必要であるとして、アメリカ海軍の通常の遠征打撃群から揚陸艦を強襲揚陸艦1隻にし、弾薬の消費を考慮して補給艦を追加した艦隊でもってギルド本部にカチコミを掛けることとなった。



フィルタ大陸東部 セリール


「また討伐者との問題か?」


「はい、魔物ではないと説明してるのですが・・・」


「クソ、これからという時に・・・」


サヴァール共和国臨時政府へと変貌を遂げていた独立連盟の悩みの種となりつつあるのは、討伐者との問題であった。


地球圏と違い、ここフィルタ大陸には無数の魔物が生息している。


軍で対処していてはすぐに国家が破綻してしまう程の数がいる為に、ギルドという組織があり、それに所属する討伐者がいるのだ。


だが、その討伐者は最近軍のジープやM8A1装甲車を攻撃しているのだ。


何度もこれは軍の所有物であり、そして魔物ではないと説明しているのだが、ギルドが魔物の専門家であり、そして彼らはそのギルドに絶対の信頼を寄せているために、全く聞く耳を持ってくれなかった。


「参ったな・・・」


有用な解決策は見当たらず、ただ無駄な時間が流れていくのみ。


「少なくとも、この光景を見れただけ僥倖だな」


フィルタ大陸各国は地球圏各国の資本、技術が少ないとはいえ入ってきており、戦争による物的、人的被害が少なかった為に素早く復興が進んでいた。


国連の指導の元、より良い経済と確固たる国家の建設を進めるフィルタ大陸の各国の市民の生活は、様々な障害に阻まれながらも着実によくなっていた。


そのような好景気の時にこんな厄介事である。軍の車両は頑丈で、剣で切りつけられてもそうそう使用不能にはならない。タイヤは別だが。しかし復興支援、建設支援の国連PKOの工事車両や輸送車両も狙っており、各種スケジュールに遅れが生じている。


「どうしたものか・・・」


大陸規模の新たなスタートという巨大な事業をやっているフィルタ大陸の市民を導くという彼らの仕事は、日に日に難しくなっていた。



第3魔術文明圏 ノラウィク王国


「すごい売れ行きだな・・・」


「最近、ギルドで西方で発生した大量の魔物を討伐する依頼が出ているらしい。それでこんなにも売れてる」


第3魔術文明圏のノラウィク王国は特段大きな国ではないが、存在するコムス大陸が細長くて全体的に起伏が激しく、さらに中央部に山脈が走っている為、大陸内での戦争は山脈によって分断された地域ごとに行われ、それぞれの地域に統一国家ができたのち、外へと勢力を拡大しようにも山脈によって別地域への進出が困難であり、外海への進出を目指し別の大陸よりも早くから造船技術が発達していた。


長い歴史の中で、コムス大陸人々の高い造船技術は貿易に有利であり、一時期文明圏全体の6割の貿易を握った時代さえあった。


現在はそれほどではないが、有力な海軍、高度造船技術保持国家群として知られている。


そんなコムス大陸の国家の中でも、荒れる外洋にも長期間耐えられる頑丈な船が建造されていることで知られているノラウィク王国の造船所は、最近になって大忙しだった。


ギルドの依頼により討伐者の遠い非文明圏までの移動に大きな需要が生まれている為に、飛ぶように遠洋旅客船が売れていた。


「そういや、西の非文明圏び方で巨大な鉄の船を使ってる連中がいるって聞いたんだが、あり得ると思うか?」


「んなわけないだろ!どうせ機械文明圏のやつと見間違えたんだろ」


「やっぱりそうか・・・」


基本的に熟成する食べ物は、いわゆる生物等を除いてより長い期間熟成される方が味や風味、様々なものがよくなる。


それと同様に、陰謀もより長い期間熟成されて積み上げられたものの方が厄介で、そして解決には長い時間を要する。


さらに、何らかの強い意思をもって実行された陰謀はなお厄介だ。油断も隙も小さいのだから

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