第35話
リンクセン 南正門前
「あの鉄の化物をどかせ!」
「大砲が当たっても無傷なんだぞ!」
リンクセンの南正門とその周辺を防衛していたクタル兵は、T-14とAPCを盾に射撃を浴びせてくるロシア軍に追い詰められていた。
「クソ、後退、後退だ!」
複雑にいりくんだ町中なら奇襲や一撃離脱など、他に有効であろう戦法がいくらでもある。
銃を持ち、身に付けられるだけの弾薬を持って姿勢を低くし、頭を前に向けて走る。
「クソ、もう入ってきたか!」
門から先程とは鉄の怪物・・・K-17IFVが歩兵と共にリンクセンの中へ侵入する。K-17は30mm機関砲とコルネット対戦車ミサイルを装備する無人砲塔を搭載している。今回は対戦車ミサイルは使用機会がないとされ装填されていない。
「あの野郎、瓦礫を物ともしてないぞ!」
「蒸し焼きにしてやる!」
K-17は瓦礫を押しのけ、歩兵の通り道を作りながら前進するK-17に対して、建物の中から1人の魔術師が炎魔術を放つ。
K-17が炎に包まれ、それを見た兵士は歓声を上げる。
ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!
炎の中から30mm機関砲弾が数発魔術師の元へと飛んでいく。魔術師は部屋ごと吹き飛ばされ、炎が消えるとそこからは傷一つついていないK-17が現れる。
「そ、そんな馬鹿な!」
門周辺のクタル兵が取り除かれると、後続の部隊が続々とリンクセンへ侵入する。最新鋭のT-14等に並んで、BTR-80やBMP-2、シルカ等が歩兵と共に続いて侵入する。
リンクセンは複雑な工業製品を生産するために工業施設が増築に増築を繰り返した都市であり、その都市構造は誰も把握しきれていないとまで言われている。
ロシア軍は複雑すぎるその道を軍用車両で破壊しながら突破する。
クタル軍はあちこちに潜んだものの、センサーによる探知と徹底的な銃撃で制圧されていく。
「クリア!」
「クリア!」
リンクセンの最後の銃声がやんだ時、空から見たリンクセンの道は、ロシア軍の侵入前より広くなっていた。
マキーヌ 北部統治局
「クソ、下級と無人ごときが。生意気に」
今マキーヌは反乱軍の包囲下にあった。駐屯軍5個と中央軍1個を撃破し、それらが配送してきたマキーヌに対し、連日反乱軍の砲撃によって破壊されて行っていた。
アメリカ合衆国から供与されたM3榴弾砲の改良型。M3A1 105mm榴弾砲の継続的な砲撃が行われ、マキーヌの城壁と軍事施設が破壊しつくされつつあった。
「城壁はどうなってる?」
「ほぼ破壊されています。もはや城壁としての体をなしていません」
「救援はどうだ」
「予定日はとっくに過ぎています」
「クソ!」
反乱軍の兵力自体はそれほど多くはない。しかし、その装備はクタル軍と比べてはるかに強力であり、そして明らかに高度な訓練と組織化を受けた軍隊だった。
反乱軍兵士達は統一された規律に従い、統一された装備品を装備し、統一された指揮機構によって指揮されている。
おかしい、反乱軍がなぜこれほどまでに準備ができている?そしてなぜここまで先進的な装備を大量に運用できているのか?
疑問は尽きないが、ただはっきりしているのは自分たちが追い詰められている事だけである。
「鉄の化け物だと歩兵だ!」
「奴ら、ついに総攻撃か!」
数日間にわたる砲撃によってマキーヌの防衛設備を完全に破壊したと判断した反乱軍・・・各独立運動組織の連合軍は包囲を行う部隊を総動員し、M8装甲車の改良型、M8A1装甲車が25mm機関砲を各所に発射しながら歩兵を率いてマキーヌへ突入していく。
グリースガンを乱射し、スプリングフィールドで壁の裏に潜む敵を打ち抜き、建物1つの敵をBARで制圧する。
敵が潜むであろう部屋には手榴弾を投げ込み、魔術師が確認された場所にはM8A1が駆けつけ、装甲と火力で魔術師と取り巻きの一団を粉砕する。
「突入!突入!」
ついにクタル軍の本殿、北部統治局へと兵士が突入していく。ここがマキーヌ最後の突入地点である。手榴弾を派手に使って確実に敵を排除していく。
「北部統治局を制圧!」
連合軍の司令部で連絡員が叫ぶ。その瞬間、司令部内の士官達は歓声を上げる。ついにクタルの抑圧の象徴の1つを打倒した。アメリカから武器弾薬や物資を供与してもらい、訓練もアメリカによって指導されてはいるが、自らの手で抑圧者を押しのけたことに違いはないのだ。
アメリカ合衆国 ホワイトハウス
「連合軍はマキーヌの攻略に成功しました」
「海兵隊、陸軍双方が準備位置につきました。ロシア軍は移動を開始しています」
「よし、敵首都ケルヒャーの攻略に取り掛かるぞ」
連合軍がマキーヌを攻略し、魔都ケルヒャーへの道を切り開いた。海兵隊と陸軍は合流し、既に南方からケルヒャーへの街道上に並んでいる。ロシア陸軍は西のリンクセンからケルヒャーへと進軍中である。
航空偵察と衛星写真によれば、敵軍は国外に展開していた部隊の一部を呼び戻してケルヒャーとその周辺に再配置し、守りを固めているようだ。
総兵力は30万に上ると見られているが、爆撃と砲撃で相当量を減らせるだろう。いわゆる戦闘ストレス反応によって脱走兵を続出させ、早期に防衛線の瓦解を狙うのだ。
「存外長くかかったな・・・我々の価値観で奴らの思考を図っていたのが問題だったか」
ここまで事態が大きくなってしまっては、後始末も面倒も面倒だ。フィルタ大陸の諸国に関する問題が一旦の解決を見るまでは激務が続くだろう。
クタル東部 ケルヒャー
「これだけの中央軍が居れば、いかなる敵も押しのけられるはずだ」
ケルヒャーの周辺に展開している部隊はすべて中央軍であり、さらに34万の兵力を持つ。全兵力1000万を優に超えるクタル軍としては小部隊に見えるが、この1000万のうち半分近くは奴隷、さらにそこから300~400万人は駐屯軍に分類され、残りが中央軍なのだ。
それを考えれば、30万を超える中央軍が一か所に集まるというのは前代未聞であった。
「それにバウアー軍も居ます」
バウアー軍はクタル最高の精鋭部隊であり、かつて第3魔術文明圏の大国との戦争が起こった時に編成された寄せ集めの部隊が源流となっているが、てきが技術的により優れていたために、優秀で経験豊かな精鋭兵ばかりが生き残り、最終的に精鋭部隊が形成されたという歴史を持つ。
「おい、なんか変な音が聞こえねぇか?」
「そうか?何も聞こえない気がs」
ボォォォォォォォォォォォォォォ!!
防衛ラインを形成する中央軍の上空をF/A-18E/FとF-35Cが猛烈な爆音を上げながら通過する。
バガァン!ボゴォン!ブガァン!
Mk.84 500ポンド爆弾があちこちで爆発し、兵士や大砲が吹き飛ぶ。
「敵だ!ワイバーンを飛ばせ!」
クタルのワイバーンが空に飛び立ち、次々にホーネットとライトニングⅡへと向かっていく。
バァァァァァァァ!!!
20mm機関砲弾をバルカン砲がビームに見えるほどの射撃速度で放たれ、ワイバーンが血まみれになり、ギャアギャアと悲鳴を上げながら撃墜されていく。
「そんな馬鹿な!ワイバーンが!」
前線からはわずか1日でワイバーンの大半が失われ、各中央軍は3日間の爆撃に悩まされるようになった。
「今日も奴ら来ないのか・・・?」
「やっと終わったのか・・・?」
運よく生き残った兵士達が細い声で会話を紡ぐ。爆撃は昨日から来ていない。ようやく終わったのか・・・そう思っていた彼らはこの日の夜、また地獄へと振り落とされる。
バァン!バァン!バァン!バァン!バァン!
今度は爆撃ではなく砲撃である。北、西、南の三方から激しい砲撃に見舞われる
「今日は何人残ってる?」
「半分は残ってますよ。おそらく」
「そうか・・・」
クタル軍は連日の間接攻撃により、アメリカの目論見通り死傷者のみならず脱走兵も続出していた。クタル軍の兵力は10万を下回り、戦力の低下はとどまるところを知らなかった。
キュルキュルキュル、ギィ!
「て、鉄の化け物だ!」
ボォン!
「うわぁ!!」
ロシア陸軍のT-14数両が歩兵やAPC、IFVを伴って現れ、クタル軍の防衛線の突破にかかる。手榴弾、機関銃、30mm機関砲、様々な火器を使用し次々にクタル兵たちは制圧されていく。
同時刻、アメリカ軍と連合軍も構成を開始し、各軍はクタル軍を突破し、ケルヒャーへと迫っていった。
「全軍で迎撃させろ!バウアー軍もだ!」
次々に第二防衛ラインを形成する予定だった部隊が臨時駐屯地から出撃する。その様子をバウアー軍司令官、リュセッド・ニルバムはケルヒャーが見える小高い丘から眺めていた。
「もう我が国も長くないか・・・」
彼の眼には、死にゆく祖国の首都が映っていた。厳格すぎる階級主義と膨大な奴隷、そして考えきれない癒着と腐敗の元発展してきたケルヒャーは、もはや風前の灯と化していた。
バウアー軍は北に配置された。最も敵が多いため、精鋭部隊が配置されたということだ。
「発射!」
クタル軍の頭にある戦列歩兵の防御戦とは、圧倒的な弾幕でもって突撃してくる敵の兵士を殲滅する事だが、今回は相手の訳が違った。
M8A1装甲車はたやすくマスケット銃の弾を弾き、大砲の爆発に耐え、魔法をも振り払う防御力を持つ。それに続く歩兵はなかなか倒れず、逆にクタル軍の方が追い詰められていく。
「あの旗は・・・バウアー軍か!」
「バウアー軍だろうと構わん!叩き潰せ!砲撃!」
M3A1 105mm砲の砲撃がバウアー軍に刺さり、兵士が何人も吹き飛ぶ。M8A1の同軸機銃の銃撃でバタバタとバウアー軍の兵士も倒れていく。
第3魔術文明圏のその先の第1魔術文明圏にもその名をとどろかせたバウアー軍の最後はあまりにもあっけないものだった。
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