第34話

マキーヌ 北部統治局


「報告!複数の地域で反乱が発生!」


「駐屯軍に対応させろ。ここいらの連中にはそれで十分だ」


「それが・・・局長、駐屯軍は・・・」


フィルタ大陸北部と言われる地域の中では南方に位置する都市、マキーヌに設置されている北部統治局は大混乱の渦の中にいた。


一斉に各地で武装蜂起した反乱軍は、付近の駐屯軍基地をどこから持ってきたかもわからない大砲と重火器で殲滅し、市民の支持を得ながら支配地域を急速に増やしている。


「一体どこからやつらそんな武器を持ってきたんだ!」


「すでに2個駐屯軍との連絡がつきません!」


敵がどこにいて、どれくらいの規模か、どの勢力の部隊かすら、わかっていない。


「仕方ない。中央軍に対応させろ!とっとと鎮圧しろ!」


どのような組織であろうとクタルに逆らうことは許されない。すぐに鎮圧しなければならないのだ。



クタル北部 バラング


かつてボルジェン王国という国家の首都であったバラングは、アメリカの指導の元組織されたボルジェン独立軍が市民の歓迎を受けながらメインストリートを行進していた。


彼らの武器は、かつてこの都市の目の前で全滅した時から様変わりしていた。


歩兵が手に持つのは槍か長剣から数種類の銃に変わり、腰にかけるナイフは拳銃になり、騎兵の馬はバイクへと変わっていた。


最初町に入った時、大戦期アメリカ陸軍の軍服を着ていてどこの誰かか気づかれなかったが、旧ボルジェン王国の旗を掲げた兵士が入ると、彼らが独立軍とわかった市民達は、次々に顔を出していった。


「ボルジェン万歳!」


長い期間彼らはクタルによる同化政策のもとで生きてきたが、強引にクタルの文化と慣習を染み付けようとしたが、不完全な官僚システムと不正などが重なり、それらの同化政策は中途半端であった。


その結果、パトリオティズム、愛国主義が発達していき、それまで市民にとって戦乱の中コロコロ変わる存在であり、忠誠の対象でなかった国家という単位が反クタルの旗印になっていってしまったのだ。



アメリカ合衆国 ホワイトハウス


「計画は概ね順調に進んでいます。北部と北西部において武器供与と訓練を受けた彼らは急速に支配地域を増やしています」


ホワイトハウスはクタルを瓦解させる計画の第一段階が完了したことを確認すると、次の段階へと駒を進めた。


これまで供与してきた物は、最も複雑な物でもバイクが関の山だったが、これからは航空機とあまりにも複雑怪奇な物を除く多数の兵器を供与する運びになっている。


「ここからは、単純に戦うだけではなく、戦後を見据えた政府の形成も必要になるな」


かつてソビエトが二次大戦中から戦後にかけて、東欧で現地共産主義勢力や亡命してきていた現地共産党員等からなる組織を立ち上げ、その国の政府としている。


これをフィルタ大陸でもやろうということだ。


組織内で高階級の者たちに臨時政府を作らせ、アメリカの支援のもと独立したアメリカ陣営の民主主義国家として独立させる。


厄介者のクタルを解体した上で、それ以上に厄介であろう更に東の勢力の防波堤としても利用可能であり、単なる市場としても期待できる。


当初とっとと手を引いて終わりにする予定だった地域だ。余計な経費がかかった分、もうけさせて貰わなくては。



クタル南端部 キーブ港


「よーし、降ろせー」


フィルタ大陸で最初に占領されたキーブ港に、白く塗られ、大きくUNと書かれた建設機材が運び込まれていた。


国連軍南部フィルタ大陸独立支援ミッションと称され、これまでロシア陸軍とアメリカ陸軍及び海兵隊により占領した地域の独立支援、行政等を行う名目で編成、ロシア国家親衛隊と変わるように投入が開始された。


PKOの形を取っているこれら部隊に対し、前線のロシア・アメリカ軍はその所属が国連軍へと変更された。


「我々の名前は変わったが、やることは変わっていない。敵の国家基盤を破壊し、解体することだ」


ロシア陸軍が向かっている都市は衛星写真の解析の結果工業が発達した生産拠点と見られ、敵軍の補給において重要なものと考えられ、クタル軍の戦力を低下させ、同時に工業製品の供給を滞らせることにより経済の停滞を引き起こすことも可能であり、1日も早くクタルを降伏させるために必ず占領しなければならない。



クタル南西部 リンクセン


クタルの首都であるケルリャーを超える非文明圏最大の工業都市であるリンクセンの駐屯軍は、首都と同様の4個が配置されており、巨大な敷地を要求する工業の都市を陸上部隊だけで十分に監視する能力と防衛する能力を備えていた。


さらに、万が一の外部からの攻撃に備え、小型艦だけであり、小規模ではあるものの海上部隊と、常時100体ほどのワイバーンも配備されている。


「地上警戒を厳となせ!どこから奴らが出てくるかわからん」


彼らワイバーン隊は、今南部から北上してくるであろう武装組織をいち早く発見するための早期警戒網の最も外側に位置する部隊となっている。


敵が近くまで迫っている場合は、1秒でも早く敵を見つけ、厳戒体制に移らなければならない。


「こちら側は異常はなさそうd」



バァァァァァァァァァァァァ!!!!



ブチャバァガチャ!!



8体のワイバーンの編隊に23mm弾が猛烈な勢いで襲いかかる。


毎分1,000発の発車速度をほこる23mm機関砲を4門搭載し、場合によっては砲塔後部にMANPADSを装備する事もできるZSU-23-4M4 シルカからの射撃により、ワイバーンはなすすべなく血みどろの肉片になって墜ちていく。


「目標撃墜、思ったよりも高速でしたな」


2両のシルカが茂みから姿を表し、砲塔と後部に取り付けられた円形のレーダーを回す。


これまでシルカが相手をする位置にまともな航空戦力とであったことが無いためと、軽装甲であり万が一破壊される危険性があるために野戦には出されなかったが、ワイバーンという最初の航空目標を相手に完全勝利した。


リンクセンは既に砲兵の射撃範囲に入っている。奇襲によって都市の戦力を混乱させてやるのだ。


「発射!」



バァン!バァン!バァン!バァン!



シューシューシューシューシューシュー!!



152mm砲弾とロケット弾がリンクセンへと放物線を描きながら飛んでいく。



バガァン!ボォゴン!バギャン!



着弾。リンクセンの城壁と駐屯地、港を含む各所が破壊される。


「先の攻撃による被害はどれほどだ!?」


「南側の城壁が不規則に損壊。港の桟橋が焼け落ち、使用不能です」


「3番弾薬庫に敵砲弾が命中、引火で使用不能です」


「クソ、敵はどこから攻撃してきたんだ。城壁の兵士は砲炎を見てないのか?」


「そのような報告は一切・・・」


リンクセンの駐屯軍はロシア軍が期待したほど混乱しなかったが、物的被害は大きかった。


城壁が使い物になら無くなり、弾薬庫のひとつが吹っ飛び、ただでさえ複雑で分かりにくい通路が瓦礫で寸断され、活動は大きく制限された。


砲撃から10時間後、南側に小分けした部隊を多数配置し待ち伏せの構えを見せていた駐屯軍は、遂にロシア陸軍の戦闘部隊と合い見えた。


轟音とともにばらまかれる23mm弾とともに。



バァァァァァァァァァァァァ!!!



「クソ!頭もあげられん!」


「グハァッ!」


歩兵と各種車両の機関銃と、シルカの機関砲が絶え間なく戦場に降り注ぎ続け、兵士たちはその円柱型の長い帽子さえも上げることができない。


伏兵として待ち伏せていた部隊のうち、ロシア軍と遭遇した部隊は壊滅していった。


そして、ロシア軍の先鋒部隊のT-14の特徴的なエバキュエーターのない主砲がリンクセンを捉える。


「目標視認、攻撃準備だ。銃を磨いておけ」


「了解」


T-14に率いられ、各種APCやIFVが並んで進んでいく。


クタルの解体の瞬間はもうそこに迫っていっていた。

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