第33話

「あれが武装組織とやらか・・・」


森の茂みから海兵隊の車列を偵察するクタルの偵察部隊は、敵に先駆けて重要な位置情報を確保していた。


クループから北へ伸びる街道はそう多くなく、幾つかは森の中を通っていたり、整備が行き届いていないものもある。城壁を持つ都市を陥落させられる軍隊がまともに通れる道は限られるため、それら街道を観測できる地点に事前に偵察部隊を置いたわけだ。


さらに駐屯軍の軽装部隊と違い、中央軍の偵察部隊は偵察のための専用の器具を所持しており、より遠くから偵察が可能であり、至近距離で偵察を行い、すぐにバレてしまった駐屯軍の軽装部隊に対し、バレずに海兵隊を偵察できたのだ。


「なんなんだ?あのデカイ馬車のようなものは」


「馬がいないのに動いてる・・・」


彼らはバレてはいないし、敵部隊を捕捉もできているが、戦力評価ができていなかった。


武器一つとっても、一体どうやって動いているのか、どれだけの防御力か、どれだけの攻撃力か、どれだけの機動力か。


敵部隊がそこにいて、どちらに向かっているかしかわかっていない。



アメリカ海兵隊


「航空偵察によれば、ここから4㎞ほど先に敵部隊が陣地を張っている」


「待ち伏せしているつもりなんだろう。道が限られていたからな」


海兵隊はクタル軍の予想通りの動きで北上していたが、待ち伏せをまともにうけるつもりは彼らには少しもなかった。


とっとと砲撃を叩き込み、歩兵と機甲戦力のパンチで撃破するのがいいだろう。


「砲撃開始!」


数時間後、準備を整えた砲兵隊は砲撃を開始、遂に、討伐軍と"国連軍"の戦闘の火蓋が切って落とされた。



クタル討伐軍



ボォァン!!



バァン!



「ほ、砲撃だ!」


兵士達は次々にテントから這い出て、最低限の服を着て武器を持ち、砲撃が集中する陣地から外へと続々と脱出する。


「敵はどこだ!?」


「おい、あれはなんだ!」


兵士の1人が指した方向には、ガスタービンエンジンを唸らせながら突進してくるM1A1エイブラムスがいた。


その後ろからM2A3 ブラッドレーIFVも歩兵と共に進行する。


「隊列を組め!戦闘準備!」


砲撃がやみ、運良く生き残った将校が指示を飛ばす。その指示に従い、次々に兵士達は隊列を組み、足並みを揃えて進行を始める。


最前列が銃を相手に向け、発砲の準備をする。



ボァン!



隊列の一つに榴弾が当たり、兵士が何人も吹き飛ぶが、彼らは進行を止めない。戦列歩兵とはそういうものなのだ。



アメリカ海兵隊


「射撃開始!」


両者進行するなか、歩兵隊で先手をとったのは砲兵隊につづき海兵隊だった。


海兵隊員が持つ各種銃器から放たれる弾丸が次々にきれいに並んだクタル兵へと命中していく。


「敵軍を撃破。残りは殆ど逃げました」


5時間もしない内に戦闘は終結し、西側を進んでいたクタル軍の⅓が壊滅する結果となった。


クタルの討伐軍は、早速出鼻をくじかれることになってしまったのである。



フィルタ大陸 ロール海


フィルタ大陸の東、第3魔術文明圏と非文明圏を隔てるロール海で、クタル艦隊が南の愚か者を目指していた。


左右あわせて数十から百数十の砲を装備した大小様々な戦列艦と、魔術師が乗っており、小型ではあるものの、防御力が低く高価値の魔術師を守るために限定的な装甲を施した師艦で構成される艦隊は、数百隻に上っていた。


彼らの目的は武装組織の軍隊をフィルタ大陸に運び込んだであろう敵揚陸艦隊を殲滅することである。


武装組織はそれなりに精強な軍隊があるようだが、陸軍に比べて海軍の建設は資材を調達する経済基盤と大量の労働者、そして船を建造するための高度な技術と経験が必要である。


まともな海軍は揃えられていない可能性が高く、彼らの唯一の大陸外への撤退手段となると思われる揚陸艦をたたけば、退路を建てるだけでなく、こちらが逆に揚陸艦隊で陸軍を運んで後方からたたくという手も取れる。


「ふん、どんなに精強な陸軍を持とうとも、脇が弱ければ意味がないぞ」


「提督、前方に何かがあります!」


「何かとはなんだ?」


「とにかく巨大な何かがあります!」


彼らの目の先に見えたのは、全長257mの強襲揚陸艦、ワスプ級とその護衛艦隊である。



アメリカ海軍


「敵艦隊を目視で補足!」


「ロマンあふれる帆船艦隊だな。見栄えはいい」


ワスプ級は1980年代から90年代にかけて7隻、大幅な改良が施された1隻が2002年に建造された強襲揚陸艦だ。アメリカのこれまでの強襲揚陸艦の決定版ともいうべき艦であり、アメリカ遠征打撃群の主力である。


「F-35B隊、全機発艦せよ」


配備が開始されてからまだ10年もたっていないピカピカのF-35Bが発艦レーンに並び、続々と発艦する。


一直線に敵艦隊に向かうF-35B達を追いかけるように、護衛艦のアーレイバーク級2隻が加速し、前へ出る。


「砲撃開始!」



ボォン!



ボォン!



ボォン!



Mk.45 127mm砲が砲撃を開始する。3秒に1度の間隔で5インチ直径の砲弾が帆船の大群へ送り込まれて行く。


帆船の中で汚い花火が発生する。


「着弾確認、相当火薬を詰め込んでいたらしいですね」



クタル艦隊 前衛部隊


「うわぁぁぁ!ぁぁぁぁぁ!!!」


「助けてくれぇ・・・」


最初に被弾する羽目になった小型艦中心の前衛部隊は、地獄とかしていた。


命中したMk.45の砲弾は船内で爆発し、大砲の発射薬と砲弾に誘爆。爆風と爆炎で中央部が文字通り消滅。


さらに飛び散った破片や爆炎により隣接していた艦も燃やされる。


3秒に1回、2隻とその隣接していた艦が沈められていく。


前衛艦隊は統制を失い、徐々に離散していく。


「お、おい、ありゃワイバーンか!?」


恐怖で一杯の彼らの頭上をジェットエンジンの轟音と翼の風切り音を鳴らしながら通過する。


「あっちは本隊だ!奴らそっちを攻撃するつもりか!」



アメリカ海軍 F-35B隊


「攻撃位置につけ!」


『『『了解!』』』


今回、F-35Bは武装としてMk.82 爆弾と25mm機関砲ポッドを装備している。


無論、レーダーもない相手にステルスなぞ不要である。翼下にもMk.82がくっついている。


「ドロップ!」



ガコン ヒューーーー。



Mk.82は滑空しながら降下し、



ボォァン!!!



爆発。命中したのは前衛部隊の小型艦と違い大型艦だ。発射薬と砲弾、両方とも小型艦の数倍は積んでいる。


派手な爆炎が飛び散り、あちこちで誘爆が発生する。


「ファイア!」



バァァァァァァァァァァァァ!!!



25mm機関砲が火をふく。25mmの砲弾が次々に目標へと吸い込まれ、そして内部でまた取り扱い注意物に誘爆する。



クタル艦隊 旗艦リエース


「て、鉄の船だと・・・」


「わ、ワイバーンまで・・・」


クタル艦隊は、未だに数百隻を残しているにもかかわらず、士気崩壊を起こし始めていた。


眼前で吹き飛ぶ戦列艦、近隣では相当な防御力を持つことで知られた師艦、どれも無差別に破壊されていく。


そんな光景を見ることのなかった彼らは、恐怖にまみれてしまっていた。


数時間もたつと、クタル艦隊は散り散りになって撤退していった。


約70隻近くを沈められ、戦闘による士気の著しい低下により、この艦隊は戦闘能力を喪失、北へ逃げ帰ることになった。



クタル西部 セリール


第二次世界大戦時のアメリカ陸軍の戦闘服に身を包んだ"兵士"達は夜な夜な地下から這い出てクタル軍の駐屯地を狙っていた。


いくらかの彼らの手には、グリースガンやコルト・ガバメントより長く、立派な見た目のM1903小銃や、M1918自動小銃が握られていた。


アメリカから新たに供与されたこれらの武器は、武装蜂起を行う彼らのために、より高火力で射程の長い武器となっている。


そして、厳しい訓練に耐え、持ち前の種族特性と長年の潜伏技術を持って、彼らは誰にも気づかれる事なく、クタル軍の駐屯地を包囲する。


そして、各部隊の内数名が、太い筒を上に向け、そこに砲弾を入れる。



ボン!ボン!ボン!



数発の照明弾と榴弾は、化学反応の光と爆炎でクタル軍の駐屯地を輝かせる。


フィルタ独立戦争が始まった。

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