第32話

「敵砲兵が居ます!」



バァン!ボォン!



巨大港湾都市クループは、アメリカ海兵隊の155mm榴弾砲とM327 120mm迫撃砲の砲撃を受けていた。


現代のHE、榴弾は残酷なまでに威力が高められてきた。内部の炸薬はもちろんの事、小数点より後ろにいくつものゼロが連なる程精密に形状が改良されてきた。


加害範囲と爆発は広くなり続け、射程はより長くなっていった。


「南側の城壁は壊滅状態です。敵の歩兵隊は用意に突入できてしまいます」


いつの時代もどれだけ"兵器"が進化しようとも、歩兵かそれに類するものが最後に敵の拠点に入り、占領するというプロセスはいつになっても変わらないだろう。


城壁が盛大に破壊された今、籠城しつつける自分達をみて敵の次の行動は容易に予想できる。歩兵が大挙して突入し、自分達を排除するべく市街戦を展開するだろう。


他と比べ人口も設備も段違い巨大な都市として、別都市とは違い2個駐屯軍が配備されていたが、それでもあの火力を出す大砲を連射してきたのだ。歩兵とそれを支援する部隊もそれ相応の火力を持っているはずである。


苦戦を強いられることは明らかだろう。


「やむをえん、南側の市街の一部を放棄する。より内側でバリケードを作り抵抗するのだ」


駐屯軍は市街地に戦線を下げていったが、海兵隊の進軍スピードは彼らの予想をはるかに上回るものであった。



アメリカ海兵隊 クループ前面


「戦車とIFVを盾に突入!」


海兵隊は強行的な攻撃のプロである。なにせ、海兵隊の名の通り上陸から基地、前線の構築までを行う組織であり、陸上戦力のみならず、航空戦力としてヘリコプターや軽航空機のみの陸軍とは違い、空軍には劣るものの戦闘機や大型機を有している。


「グレネード!」



カキン、バン!



グレネードを投げ入れてから次々に銃撃をしつつ軍事施設へと突入する海兵隊員。


このグレネードを投げ入れてから突入するという一連の流れは、ソビエト赤軍とナチス・ドイツ軍が多大な犠牲を払いながら激しくしのぎを削ったスターリングラードの戦いで赤軍のチュイコフ中将がそれまでの建造物での接近戦の経験や記録に基づき、形のある戦術として確立され、現代では特殊部隊の基本戦術として使用されている。


「クリア!」


また少し、クループの制圧が進んだようだ。


いまだ完成すらしていなかった粗末なバリケードをAFVが榴弾を放って吹き飛ばし、激しい弾幕とグレネードで次々に追い詰めていく。


数時間後、クループの駐屯軍は全滅し、クループは海兵隊によって占領された



クタル西部 セリール


「急げ、こっちだ」


粗野な服に身を包み、手に拳銃、腰に手榴弾をつけた数人のゲリラがセリールの駐屯軍の施設に向けて夜の暗闇と狭い路地を進んでいた


武装蜂起の為に物資を集める必要があるほか、駐屯軍の能力が低下すればそれだけ武装蜂起の成功確率は着実に向上するだろう。


「投げ入れろ!」


高い身体能力をもつ獣人が手榴弾をいくつか軍事施設と町を分ける壁の内側に投げ入れる。低いとはいえ普通の人間の投擲能力では無理な高さの壁だ。地球でならグレネードランチャーが使われていたところだろう。



ボォン!バン!



「突撃!」


正門近くで待機していた別の部隊がM3 グリースガンで.45ACP弾をばらまきながら突入していく。


「ぐあっ!」


「ぎやぁっ!」


兵舎から出てきた駐屯軍兵士はばらまかれる.45ACP弾を前にして次々に倒されていく。国を奪われ、生活を奪われ、仲間を奪われ、あらゆるものを奪われてきた彼らは、怒りと恨みを込め、CIA職員の厳しい訓練通りに動いて見せた。


最初に出てきた兵士を弾幕で倒し切ると、今度は最初に手榴弾を投げ込んだ部隊と合流し、施設の破壊と物資の強奪に取り掛かる。


兵舎に手榴弾を投げ込み、内部を制圧したのち、クタルの統制下で入手が困難で貴重な魔石を加工した爆薬を設置し、弾薬庫や調理場、武器庫から物資と武器を強奪し、そして最後に魔石爆弾を爆破し、闇夜の中で大きな爆発音と光で周辺住民に何かが変わったことを示した。



アメリカ合衆国 バージニア州 CIA


「最初の作戦は成功したようです」


「予想以上に彼らの能力は高いようだな。士気も高い」


CIAが主導したサヴァール独立連盟による初のクタルへの直接的な攻撃は、大成功に終わった。犠牲者はおらず、負傷者も少ない。そして有用な戦闘結果を記録できた。


武器と戦術を教え込み、十分な準備をさせれば彼ら単独でもそれなりの敵を相手に勝利することが可能であることが証明された。


CIAは今回をモデルケースとして各地でのゲリラ的な戦闘活動でクタル軍の能力と統制を低下させたのち、各地域各組織をアメリカ合衆国の指揮下で武装蜂起させる。


その後、重装備と本格的な近代戦闘訓練を行うアメリカ軍の教官部隊を送り込み、ゲリラ民兵を近代的な訓練と組織を持った軍隊に作り替えるという計画が建てられている。


送り込まれる重装備はいづれも第2次世界大戦時期の古いものの設計を簡略化したものになる予定だが、それでもクタル軍を相手にするには十分だろう。


彼らはすでにゲリラとして高度に組織化されており、軍隊組織への転換に時間は課kらないだろう。あとは兵士が消費する物品さえ供給網を整えてしまえばあとはCIAの仕事は情報収集と大まかな方針の策定のみになるだろう。



クタル武装組織討伐軍


「何、クループが占領されたのか。ふーむ」


クタル武装組織討伐軍は順調に南下していた。相手は2個中央軍を壊滅させた手ごわい相手だと多くの兵士が聞いていたが、討伐軍自体大軍であり、さらに名門の家の将軍が指揮していた事もあり、兵士はそれなりの士気を保ちつつ進軍していた。


「クループの奪還には西の部隊を充てる。蹴散らせと言っておけ」


「はっ」


西側の部隊は討伐軍の中でも強力な部隊となっている。その理由はファイラ団が西方面で海兵隊に壊滅させられたことに起因したもので、西側に強力な敵部隊がいると予想されたための配置であった。



ロシア国家親衛隊占領統治地域 クラネ市


「なんだなんだ。やつらまた何かあるってのか?」


「見えないななんて書いてあるんだ?」


「押すな押すな!ここは今狭いんだぞ!」


ロシア国家親衛隊はロシア連邦政府のフィルタ大陸南部での複数国家設立の準備を進めていた。


8個の独立国家の設立が決定されており、市民にはその旨が告知されていった。各地の市民は歓喜した。クタルの下でも生きていくことはできるが、上位種族の富の独占とクタルの勢力拡大を軸にした杜撰な経済政策は市民生活を圧迫していっていた。


そして駐屯軍の多くはクタル本土とも言われる東部で徴兵された兵士で構成されており、いわゆるアメリカ合衆国の州兵のようなローカルな人々で編成されたものではなく、支配を維持するための軍隊であり、様々な形での弾圧も行っていた。


東部の政府から派遣された役人は傲慢であり、市民の不満は大きかったが、自力では独立なぞ夢のまた夢。


当初はロシアがやってきたのち、弾圧はひとまずなくなり、食料や生活必需品の供給も変化は無かったが、多くの市民はロシアを上記の外部からやってきたものとして第二のクタルとしか考えていなかった。


ロシア国家親衛隊の発表、自らの国家ができる。それはクタルに強力に支配されてきた彼らにとって儚い悲願の夢だったものが実現した瞬間だった。


アメリカの北部でのクタル抵抗組織への支援と、ロシアの南部での建国とクタルからの切り離しは、着実にクタルの崩壊への足音を強めていった。


非文明圏の大事件、クタル解体は、すぐそこまで、迫っていた。

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