第28話

「いくら繋がらないって言っても、直接いけってのはなぁ」


「ああ、いくら馬があったとしても、それなりに距離があるだろうからな・・・」


彼らはベラッガ駐屯軍からグニス団へと派遣された伝令兵である。


数日間にわたってグニス団からの連絡がないため、現在の位置と状況を知るため派遣されたのだが、会うことが予想される地点に到着したにも関わらずグニス団はおらず、さらに北上してグニス団を探していた。


「グニス団の連中は何をやってるんだろうな?」


「さぁな?もしかすると、そこら辺で楽しくキャンプでもしてるんじゃないk」


ヨーロッパに似た小さな高低差が繰り返されるのが特徴の侵食平野が広がるフィルタ大陸南部の小さな丘を越えると、そこにはKh-55とF-35によってほぼ全滅状態のグニス団が転がっていた。



ベラッガ 駐屯軍


「フェルシュを落としている以上、やつらには相当な攻城能力があるはずだ」


「だが、野戦じゃ勝てないのは明白だぞ」


「しかし、中央軍が来るまで耐えれば勝ちなんだ。無理にあれこれせず籠城した方が・・・」


ベラッガでは、駐屯軍の幹部がベラッガ周囲の地図を囲みながら会議をしていた。


フェルシュが陥落し、残る南部の大都市、重要都市はベラッガのみとなった以上、武装組織がここへ殺到するのは誰がみても明らかである。


後方から中央軍がやって来ているが、ファイラ団が会敵の報告もなしに殲滅されていることから、武装組織は火力と射程だけを見るならクタルにも劣らぬ能力を持っているのだろう。


しかし、彼らがキーブに上陸してからベラッガに至るまで1ヶ月も経っていない。おそらく、略奪に加え、それなりの補給能力も持ち合わせているのだろうが、それでも全ての兵士を馬車に乗せたとしてもこの進軍速度は相当に無理をさせている筈である。


「籠城するより、市外で戦うべきだ」


「だが野戦で勝てないことはもうわかりきってるんだ。どうやって壁もない外で戦うんだ」


「結界を利用できないか?工夫すればバリケードのように……」


議論を続けても結論は出てこない。ひとまず騎兵隊は市外で敵軍に散発的な攻撃を仕掛け、彼ら以外は籠城し、中央軍の到着を待つこととなった。


尤も、その肝心の中央軍、グニス団は既に後方で吹き飛ばされたのだが。



アメリカ海兵隊


「1番槍は俺達が頂きか」


ファイラ団殲滅後、特に障害に当たることもなく進軍を続けたアメリカ海兵隊は、アメリカ陸軍とロシア陸軍より1歩先にベラッガを射程に捉えていた。


海兵隊はまず、M777 155mm榴弾砲を展開し、フェルシュ攻略時と同様城壁の切り崩しから取りかかる。


「ん?城壁の上に兵士が居ないな。破壊を警戒してるのか?」


これまで城壁の上には兵士が配置されていたが、ベラッガの城壁には一切兵士の姿が見当たらなかった。


これは過去の戦いにおいて、砲撃によって城壁を悉く破壊されたからであろう。敵は破壊されて大量の兵士が転落死しない方が、警戒が薄くなるよりもマシだと考えたのだろう。


どちらにしろ、海兵隊のやることは変わらない。城壁を破壊し、突入口を作り出し、突入する。それだけだ。



グニス団壊滅地点


「な、なんだありゃ・・・」


「ひでぇことになっていやがる・・・」


ベラッガからの2人の伝令兵が見つけた焼き焦げたグニス団の死骸は、彼らに降り注いだ攻撃がいかに強力であったかを示していた。


黒くなった大地に足をついていたのは死肉に貪りに飛んできたカラスだけである。


「お、おい、た、確かこいつらに武装組織をやっつけて貰うんだよな・・・」


そう、フェルシュも、ベラッガも、グニス団をあてにして戦略をたてていた。


しかし、そのグニス団はフェルシュどころかベラッガの後方でこんな姿になり果てている。


それが意味することは、誰も言わなくてもわかる。戦略が根底から破綻した軍隊は非常に脆く、すぐに全軍が総崩れとなるだろう。



ベラッガ駐屯軍


「なん・・・だと」


「ほ、本当なのか!?」


「う、嘘だ。その筈だ!」


グニス団が全滅していたことを2人の伝令兵から伝えられたベラッガ駐屯軍上層部は大混乱に陥った。


前回のファイラ団は武装組織に対して進軍していた途中に攻撃された。つまり武装組織とファイラ団の距離はさほど大きくなかったのだろう。


しかし、今回のグニス団は、明らかに後方に存在していた。武装組織は、これ程の長距離をまたぎ、なおかつグニス団を全滅させられる火力を投射できるのだ。


圧倒的な火力差と、長距離攻撃能力。そしてそれに中央軍さえ対抗できない。その事実は、彼らをひどく打ちのめした。


「どうする!?このままでは敗北必須だぞ!」


「に、逃げるしかない・・・」


「あの進軍速度からどう逃げるのだ!?」


もはや勝ち目はない。だが、彼らは逃げてもすぐに補足されるだろう。さらに、クタルの中央政府に逃げたとあっては罰を与えられるだろう。中央軍2個の全滅と南部を武装組織に占領された罪に問われて。



アメリカ海兵隊


「砲撃開始!開始!」


ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!



ベラッガ駐屯軍上層部が混乱している一方、アメリカ海兵隊はM777の展開を完了し、次々に砲撃を開始する。


規則正しいリズムで発射される155mm砲弾は、我先にと城壁へ命中し、フェルシュの城壁と同じような光景が繰り返される。


「石造の物体は脆いな、簡単に崩れてやがる」


近現代の軍事建築物に使用されるコンクリートに対して、レンガと同様に、物体を組み立てているに過ぎない石造建築は、十分な運動エネルギーを持つ物体が当たれば簡単に崩れる。ましてや、それが爆発する砲弾とあってはなおさらだ。


一方、コンクリートは一つの塊となって完成する。脆弱な繋ぎ目が無いため、コンクリート側が分厚くなればなるほど、砲弾側も威力(厳密には違うが)をあげなければ、破壊するのは難しくなっていく。


第2次世界大戦において、ドイツ軍はクミリア半島のセヴァストポリ要塞を破壊するため、鉄筋コンクリート等の破壊に特化したベトン弾と、それを投射するための巨大な砲を用意し、ようやく物理的破壊にこぎ着けている。


それと比べれば石造なぞ、現代軍にとって破壊は簡単である。



アメリカ陸軍


「目標確認!海兵隊のいっている通り、もう砲撃中のようです!」


「よし、我々も加わるぞ」


フェルシュから進軍してきたアメリカ陸軍とロシア陸軍もベラッガ攻略に加わり、ベラッガに風前の灯火が宿り始める。


数時間後、これまたIFVを先頭に市内へ歩兵が突入していき、ベラッガを占領する。フェルシュと比べてもそれなりに多くの駐屯軍兵士が居たが、それでも現代の最強国家の相手ではない。


「これでこの紛争も終わりか、長いようで短かったな」


「銃声がなるのが短いのは良いことだろう」


「そりゃそうだな」


この紛争は別に土地を取りに来たわけではないため、長く続けても利益はそう多くない。


とっとと終わらせるためにベラッガまで突っ走ってきたのだ。ロシアとアメリカの兵士達は、IFVやAPCの上で夕陽を見て黄昏る。



クタル 外交府


「ベラッガを占領した武装組織が交渉を要求だと?」


「はっ」


「中央からは」


「中央軍4個の動員が完了するまで、武装組織の気を引けとのことです」


「面倒な・・・」


ベラッガの南部統治局を通し、アメリカとロシアが交渉を要求すると、クタルは軍の動員の時間稼ぎに入る。


たかが穀倉地帯の一角に過ぎないフィルタ大陸南部を落としたと言って、クタルに勝てる相手ではない。その油断を頼りに、クタルは滅亡へと向かっていく。


彼らは、外界からやってきた「列強」の実力の洗礼と、彼らの支配を受けてきた者達の執念を、これから、その身を持って知ることになる。

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