第27話
フェルシュ前面 ロシア陸軍
ガキャンゴロン!
「破壊確認!」
M109A6が発射した砲弾を最後に、アメリカ陸軍とロシア陸軍の砲撃がやんだ時、フェルシュの分厚い城壁のうち、南側は殆んど瓦礫と化していた。
「さて、後は敵さんがどうでるかだ」
確かに彼らの頼みの常であるはずの城壁は瓦礫と化したが、それでも城壁だった物体が消滅したわけではない。
人員と多少の重機、もしくは類するものがあれば、これらの瓦礫を即席のバリケードや塹壕として活用可能である。
「焦って出てきてくれたら楽なんだがな」
もし敵軍がそのまま市内に立てこもる事を選択すれば、それなりの大兵力と市街戦を繰り広げることになる。
そうなれば、多少の出血は覚悟しなければならない。ここまで犠牲なしにつっぱしてきたからにはここでも同じように犠牲を発生させたくはない。
フェルシュ駐屯軍
「南側の城壁はほぼ消滅・・・か」
一方、フェルシュ駐屯軍は選択を迫られていた。
選択肢は3つ。
まずはこのまま市内に立てこもり、南側は城壁の瓦礫等を利用して防衛する。次に市外に出撃し、敵軍を野戦で撃退する。最後に部隊を分割し、夜間に毎日少しずつベラッガへ撤退させる。ようは夜逃げだ。
「やはり、野戦しかないか・・・」
ここフェルシュが交通の要衝という戦略的に重要な都市である以上、夜逃げは選択できない。
敵軍は強大だが、野戦ではなにより物量と、どれだけ部隊をうまく動かし敵軍に効果的かつ、犠牲を少なくして被害を与えられるかに全てがかかっている。
武装組織のあの巨大な武器は機動力が見るからに低そうである。部隊を薄く、広く展開させれば、敵の砲撃や銃撃による被害を減らせるはずである。
「早朝に出撃、敵軍に野戦を仕掛ける!」
早朝に仕掛けるのは一定の奇襲効果を望んでの事だ。早朝なら見張り以外の大半は寝ているだろうし、戦闘準備は整っていないだろう。
つまり、敵軍の準備が整う前に奇襲的に野戦を仕掛け、集団で動けず個で動くことになってしまうであろう敵部隊を各個撃破するという作戦だ。
翌日、比較的早くに仮眠を取ったフェルシュ駐屯軍は、早朝に次々に市外に移動し、通常よりはるかに広く、薄く、戦列を組む。
ザッザッザッザッザッザッザッ
集団行動の終着点の一つである戦列歩兵の特徴の1つ、一定間隔での行進のリズムにあわせ、軍靴が音をあげる。
いつもは兵士の肩と肩とが当たってしまうほど密集するが、今回は敵の砲撃等の範囲攻撃を掻い潜り、射程距離まで接近するために、被弾率下げなければならないため、かなりの間隔をあけて陣形を組んでいる。
「中央軍に数では劣るが、分散したこれだけの兵士を全滅させるのは一筋縄では行かんぞ」
決して圧倒的では無いにしろ、相手と比べて多いのは事実だ。そう簡単にはやられまい。いや、敵軍を逆に葬ってやらなければならない。
フェルシュ前面 アメリカ陸軍
「分散して被弾率を下げ、できる限り我々に到達できる可能性を高める、敵の指揮官はそれなりに頭が回るやつみたいだな」
敵軍の早朝の出撃を赤外線カメラでとらえ、彼らが陣形を組み終わる頃にはアメリカ、ロシア両軍をともに準備を整え終わっていた。
「こちらも相応の火力を出さなければならないな」
陸軍の火力はなにも榴弾砲と戦車だけにあらず。迫撃砲にグレネードランチャー、ロケットに、単純な面制圧射撃、長い歴史の中で積み重ねてきたこれらの火力を活用し、次々に攻撃を行う。
自走砲と戦車が口火を切って砲撃を行い、そのつぎにロシア陸軍のRPOロケットランチャーが発射され、焼夷弾の炎が撒き散らされる。
アメリカ陸軍の車両のいくつかからはMk.19 グレネードランチャーから40x53mmグレネード弾が降り注ぎ、爆発が幾重にも起こる。
「射撃、用意!」
次々に攻撃が投入されていくが、敵軍は散開している上、それなりに数もある。まだ1/4も倒れていない。
機関銃やアサルトライフルの射撃の弾幕で一気に数を削り、同時に士気崩壊を引き起こせれば、この戦い勝ったも同然である。
「射撃始め!」
ダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!
車載機銃のM2 重機関銃とKord重機関銃、分隊支援火器のM249とPKP ペチェネグ、AK74MとM4A1がそれぞれ射撃を開始する。
12.7mm弾と5.56mm弾、5.45mm弾の弾幕がフェルシュ駐屯軍へ襲いかかっていく。
機関銃が現れて以後、ボルトアクションライフルでさえ発射速度が遅いという部類になり、一般の兵士までも連射可能なアサルトライフルをもつようになった現代軍の歩兵火力は決して侮ってはいけない。
フェルシュ駐屯軍はその威力をその身をもって知ることとなってしまった。
フェルシュ駐屯軍
「は、激しすぎる・・・」
フェルシュ駐屯軍上層部にとって、城壁を破壊されているという経験からある程度の儀式魔術級の攻撃は予想していた事だが、RPOロケットランチャーの炎やMk.19 グレネードランチャーの連続射撃により次々発生する爆発に兵士が吹き飛ばされていく姿に狼狽する。
だが、まだまだ兵士は大量に生き残っている。まだどう転ぶかわかりきってはいないが、このまま押していけば、いずれこちらも射程距離に到達し、数の差で敵を追い込める筈だ。
「よし…よし…」
ダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!!
「なっ」
順調に進んでいた作戦は一気に崩壊した。敵との距離がある所にまで縮んだ所で一斉に射撃を開始した敵の弾幕に倒れる兵士の数が一気に増える。
「うわっ」
「あぐっ」
「ぐはっ」
激しい弾幕がフェルシュ駐屯軍に覆い被さり、犠牲者数は増え続ける。キレイにシュっと姿勢を伸ばして行進する相手に対し、銃弾はよく当たる。
我に帰った彼らが撤退を指示したが、戦場から逃げ帰れたのは、本来の兵力の1/5にも満たない数へとすり減っていた。
フェルシュ前面 ロシア陸軍
「都市の占領に移る、武器を整備しておけ」
野戦においてフェルシュ駐屯軍を敗走させたアメリカ陸軍とロシア陸軍は次にフェルシュ占領へ動いた。
いつも通りIFVが先頭に立って前進し、残るフェルシュ駐屯軍と交戦する。
「敵駐屯地発見!」
ロシア陸軍の1隊がフェルシュ駐屯軍の駐屯地を発見する。すぐに周囲からいくつかの部隊が集められ、駐屯地の攻略に入る。
兵力を大きくすり減らし、士気も崩壊したようなものであったフェルシュ駐屯軍は抵抗らしい抵抗もできず、駐屯地は僅か数時間で占領されてしまう。
その数時間後には、フェルシュ駐屯軍の兵士は1人残らず降伏するか、戦死していた。
ベラッガ 駐屯軍
「フェルシュが落ちたか・・・」
フェルシュが陥落した報告は一歩後ろのベラッガに当然のごとく届いた。
フェルシュという強固な城塞都市が陥落したのは大きな痛手だが、ベラッガ駐屯軍はベラッガの人口が多いこともあり、城塞都市であるフェルシュに負けずとも劣らない兵力を有し、さらに現在後方から中央軍もやってきている。
フェルシュがいくらか稼いだ時間があれば、中央軍は武装組織がベラッガへやってくるまでに到着するだろう。
「中央軍はどこまできている?連絡しろ!」
「そ、それが・・・3日前程から連絡がついておらず、詳細不明です」
「なに?通信機器が壊れでもしたか?」
「どうでしょう。中央軍には魔術師もいます。壊れても治せそうですが・・・」
彼らは知らない。既にニミッツ級空母から飛び立ったF-35Cにより全滅していた事を。
「まぁいい、多少あいつらが遅れても、まだ切り札がある」
ベラッガの切り札は、武装組織にとって何て事ない戦力しか過ぎず、切り札もくそでもないということを。
ベラッガはアメリカ軍とロシア軍の現状の最終目標であり、彼らがフェルシュ以上の兵力で侵攻している事。
そして、刻々と変化する情勢において、何度もベラッガが重要な場所となることを。
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