第26話

「砲撃用意!砲撃用意!撃てぇ!」



バァン!バァン!バァン!バァン!



多少遅れてフェルシュに到着し、作戦に合流したアメリカ軍とロシア軍のM109A6 パラディンと2S3 アカーツィヤがフェルシュを囲むように展開し、砲撃が始まった。


152mm砲弾と155mm砲弾がフェルシュの城壁に命中していき、ガランガランと石と石がぶつかったときに鳴る独特な音を立てて崩れていく。


石造の壁は最初期の筒に石の砲丸を入れただけの大砲の時代なら、ビザンツ帝国のコンスタンティーノープル等に代表される分厚い城壁を持つ場合は耐えることも可能だったが、近世以降急速に性能が向上し、薄ければ鉄筋コンクリートでさえ破壊する現代の大砲を相手にするには荷が重すぎた。



フェルシュ駐屯軍


「敵軍の大砲の性能は異常だ!」


「どうしてこの分厚い城壁を破壊できるのだ!」


「くそっ、このまま破壊され続けたら丸裸ではないか!」


フェルシュ駐屯軍の作戦は中央軍の到着まで敵の攻撃を耐え抜き、中央軍の到着をもって反撃に転ずるというもので、援軍が近いうちに望める都市の防衛部隊としては鉄板の戦術だ。


しかし、耐えることが要求されているのに、その為の城壁が破壊されては市内に突入され、中央軍の到着まで持ちこたえることは困難だろう。


「どうする?まだ城壁の一部が崩されただけだ。そこにバリケードを作って兵士を集中配置すれば・・・」


「いや、いかに儀式魔術と言えど、あの程度の規模なら数日おきであれば連発できる。中央軍の到着までには十分突入可能な穴ができてしまうぞ」


数日以内に援軍が望めるなら多少無理をして防衛すればよいが、あくまでも"近いうち"にである。


「うって出るしかないか・・・」


「だが奴らは2個駐屯軍にファイラ団もを撃破しているんだぞ。勝てる相手じゃないぞ」


「しかし!このままなにもしないというのか?」


議論は平行線をたどり、ひとまずは現時点で破壊された箇所に残骸などを使用してバリケードを設置することとなり、具体的な対抗策は先送りにされた



ベラッガ 駐屯軍


「武装組織とやらはもうフェルシュについたのか!?」


「はっ、現在はフェルシュ駐屯軍と交戦中であるとのこと」


南部統治局の置かれるベラッガは、各地から報告される武装組織による自軍の敗北に恐怖していた。


ファフィ島が襲撃されてからまだ1ヶ月もたつかたたないか程度である。武装組織の進軍速度は異常だ。


「我々も防衛体制を整えるぞ。フェルシュが陥落する可能性は極めて低いだろうが、おそらく籠城を強いられるだろう。武装組織の別動隊がこちらに来るかもしれん」


ベラッガの駐屯軍は郊外にいくつかの偵察拠点を設置し、別動隊を警戒。同時にバリスタには常時矢を装填しておき、城壁に常駐する兵士も増やした。


ベラッガ駐屯軍もフェルシュ駐屯軍と同様の作戦で、中央軍の到着まで耐えると言うものだったが、これからフェルシュ、ベラッガ双方の作戦が潰れることになるとは、彼らは想像もしていないだろう。



アメリカ海軍 ニミッツ級航空母艦


「前線の後方から接近する敵大部隊に対し、攻撃を行う。F-35C隊、発艦せよ」


F-35CはF-35ファミリーの艦載機型であり、A型やB型に対し、航空母艦での運用を考慮し、低速時の安定性向上のための翼の拡大、折り畳み機能の追加、着艦の衝撃に耐えるための機体構造と降着装置の強化等が行われたモデルである。


今回は25mm機関砲ポッドと後継のJAGMの生産が進んでいるマーベリックを在庫処分的な意味合いで搭載し、F-35Cはカタパルトに前輪を嵌め込む。



バッ、シューーーー!


バッ、シューーーー!



F-35Cが飛んでいく横で、ロシア海軍のアクラ級潜水艦がKh-55 巡航ミサイルを4発発射する。


F-35Cに先駆けて巡航ミサイルが攻撃することで、敵大部隊に混乱を巻き起こすことで進軍を停止させ、F-35Cによる攻撃の効果を引き上げる狙いがあった。



クタル グニス団


「ふん、ファイラの奴は武装組織とやらの罠にまんまとはまったらしいな」


クタルの中央政府である統治府から南部統治局へ派遣されたグニス団は、元は東方での任務についており、兵員の休養や武器の補充の為、本土で待機していた所を、武装組織に苦戦する南部への援軍として投入されたのだ。


団長グニスはオーガ族の一員であり、からだの大きい彼と合わせるように体格の大きな者が大半で編成されている。


「せっかく本土に来たってのによぉ」


「また出撃だ。ファイラ団は仕事を放棄したのか?」


団員は口々に文句を言う。本土に帰ればしばらくは現代でいう休暇のような日々を過ごせた筈だからだ。



シューーーーーーーーー



「ん?だれか下手な口笛でも吹いてるのか?」



ボガァン!!ボガァン!!



「ぐぁっー!」


「ぶぁっー!」


Kh-55のうち、先行した2発が着弾し、馬車や兵士が飛び散る。


「何事だ!?」


「こ、攻撃です。攻撃を受けています!」


団長グニスの問いに参謀官が答える。


「どこからだ!?フェルシュにはまだ10日以上かかるんだぞ!」


「わかりません!とにかく、ここを離れまs」



ボガァン!ボガァン!



遅れてもう2発が着弾し、グニスと参謀は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「な、なんだ・・・」


重い体をゆっくり上げた彼の目には、ごうごうと燃えあがる自分の部隊の姿があった。


「そ、そんなバカな。一体、どういう儀式魔術を・・・」


彼は唖然とするしかなかった。どのように行われたか、なにもわからなかったが、彼にそんなことを考える脳のキャパシティは残っていなかった。



アメリカ海軍航空隊 F-35C隊


「着弾箇所確認!」


「全機、攻撃位置につけ!」


8機のF-35CがKh-55の着弾点・・・すなわち、グニス団を発見する。


機体を捻らせ、次々に降下していく。



パッ、ボシュゥーーーーー!!



ウェポンベイが一瞬だけ開き、AGM-65 マーベリックが発射される。


マーベリックがいくつかの馬車に着弾し、弾薬が爆発し、爆発に巻き込まれた周辺の兵士が飛び散る。


「あれは・・・魔術師か?」


低速の火の玉があがってきたのを見て、魔術師がいることにきづくF-35C隊。魔術師は敵軍の重要戦力であり、必ず排除するよう命令されている。



ブォォォォォォォォォォ!!!



25mm機関砲ポッドから大量の25mm弾吐き出され、ローブを纏った魔術師たちに降り注ぎ、魔術師たちは次々に吹き飛んでいく。


「ワイバーンは居ないらしいな」


敵大部隊はワイバーンを保有している可能性が高いとされていたが、グニス団は東方の遠征地にワイバーン部隊を残してきているため、今回はつれていなかった。なおも、今後一切そのチャンスは訪れないだろうが。


クタル西部 セリール


「こ、これは・・・」


セリールの地下にてサヴァール独立連盟が収集した情報の中に、現在ロシア陸軍及びアメリカ陸軍と交戦中のフェルシュの情報もあった。


フェルシュの城壁の堅牢さは周辺諸国でも知られており、無論彼らも知っていた。


その有名な城壁をアメリカ陸軍とロシア陸軍はたった数発の砲弾で破壊したと言うのだ。その砲撃の威力は遠くからでもすぐにわかるぐらいの轟音と爆炎だったそうだ。


これを聞くに、アメリカがサヴァール独立連盟の支援を保留としたのは、単独でクタルを滅ぼす実力があるからなのかもしれない。


アメリカ合衆国がサヴァールへの支援をあくまでも保留としたのは、我々を何か別のことに使おうという思惑があるのか、それとも断ると対面が悪いと考えたのか。


「なにか、なにかないのか」


サヴァール独立連盟を支援する利益があるとどうにかして彼らに思わせなければならない。領土、権益、そして考えたくもないが、奴隷。


そうしなければ、いつまでもサヴァール共和国はあのイカれたクタルから独立できないだろうから。

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