第25話
「こちらホーネット1、目標地点上空に到達。指示を乞う」
『こちらCDC、攻撃開始時刻に海兵隊も砲撃を開始する。それに合わせ各個の
判断で攻撃を開始しろ』
「了解」
数分間の飛行ののちにファイラ団の上空に到達したF/A-18E戦闘機隊は、誘導キットJDAMを装着したMk.84 2000ポンド爆弾を抱えて爆撃体制に入った。
JDAMは誘導爆弾の中では大量生産や簡便さで誘導爆弾としては比較的安価で、これまでアメリカ軍以外ではアメリカの同盟国を中心に運用されている。
一方、地上の海兵隊はM777 155mm榴弾砲をファイラ団に向け、攻撃開始時刻を待った。
「3・・・2・・・1・・・攻撃はじめ!」
バァン!バァン!バァン!バァン!
M777 155mm榴弾砲は約4tという同級機と比べ非常に軽量な榴弾砲である。性能は前任の榴弾砲と比べほとんど変化していないものの、これまでかさばり高コストな大型ヘリでしか輸送できなかったクラスの榴弾砲を大量に運用されている中型ヘリでも輸送できるという利点は大きい。
「投下!」
上空の戦闘機隊は海兵隊の攻撃開始を確認すると次々に降下し、JDAM装着Mk.84爆弾は甲高い音を鳴らしながら落ちていく。
ボォン!ボォン!ボォン!ボォン!ボォン!
「ん?レーダーに感、これは・・・例のワイバーンとやらか」
ファイラ団の航空戦力、ワイバーンのうち5体が運よくM777の砲撃とMk.84の爆撃を生き残ったらしく、勢いよくF/A-18E戦闘機隊へ向かって来ていた。
『生存されると後々厄介だな、排除するぞ』
「了解」
ゴォォォォォォォォォォォ!
2機のF/A-18Eが5体のワイバーンに対し降下し対応しに向かう。
ファイラ団 ワイバーン隊
「あの野郎・・・!」
いきなり攻撃されたファイラ団は、大混乱に陥っていた。経験したことのない長距離攻撃と航空攻撃にさらされた結果、命令系統はズタズタになり、兵士一人ひとりがそれぞれ勝手に動いていた。
ワイバーンを操る彼らも命令を受けることなく、出撃していた。
常勝無敗と謳われ、これまで一度も負けた事のない彼らは、そのプライドにかけてF/A-18E戦闘機隊を撃ち落としにかかったのだ。
そして、彼らを迎撃するべく降りてきた2機のF/A-18Eを視認する。
「なんだ?たった2体で俺たちに勝とうってのか!」
何年も研究を重ね、訓練法の改良やワイバーンの品種改良を進めたクタルのワイバーン隊に勝つのはそう簡単ではない。
それにもかかわらず5体のワイバーンに対したった2機しか当ててないのだ。これをバカと言わずなんというのか。
ただし、相手がワイバーンであるという前提があるが。
ブォォォォォォォォォォォォ!!!
ブチャベチャビブチィ!!
M61 20mmガトリング機関砲から放たれた大量の20mm砲弾によって1体がぐちゃぐちゃになって落ちていく。
「な、なんだ!?」
ワイバーンの武器は口からブレスを吐くことだけだが、非文明圏ではそれだけで多大な戦力となり、第3魔術文明圏でも十分通用する性能を誇っていたが、20mm砲弾に対抗するには威力不足だった。
「ぐあっぁー!」
ワイバーンはブレスの射程範囲外からM61の弾幕に一方的に撃ち落としてされてゆく。
「おっ、おい!あれ・・・!」
ワイバーンが墜とされていく様子を地上から目撃したファイラ団の兵士達の士気はただでさえ砲撃と爆撃で下がっていたのに、上空で最高戦力のワイバーンが一方的にやられていったのだ。
「何が起こっていんだ!?」
「うわぁっー!」
砲撃と爆撃が止んだのち、負傷者は急遽作られたテントに収容される。
「ファイラ様!ファイラ様!」
ファイラ団が壊滅状態に陥る中、団長のファイラは意識不明の重体になっていた。運悪くファイラの乗る馬車をM777の155mm砲弾が至近に直撃し、爆風と破片を浴びてしまったのだ。
「て、敵襲!」
見張りの兵士が叫ぶ、その目の先にはM1A1主力戦車と、M2A3 ブラッドレー歩兵戦闘車から降りた海兵隊員たちが展開していた。
ボォン!ダダダダダダダダダ!!
M1A1主力戦車の榴弾が着弾し、兵士が吹き飛ばされ、各海兵隊員や機銃の射撃によって撃ち殺されていく。
「ぐぁっー!」
「がっぁー!」
バン!!
ファイラが治療を受けていたテントにM2A3 ブラッドレーの25mm弾が直撃し、テントが吹き飛ぶ。
「ファイラ様!」
南部統治局所属中央軍。ファイラ団のかいめつが決定的なものとなった瞬間だった。
ロシア陸軍
「前方の都市の防備が他と比べて硬いな」
「城壁が明らかに分厚い、おそらく後方の大都市を守る城塞都市だな」
「つまり、ここは敵の最終防衛ラインということだな」
ロシア陸軍は南部統治局の目前にある城塞都市フェルシュへに到達していた。これまで攻略してきた都市と比べ、遥かに兵力と防衛装備両方に優れるこの都市を落とすには少し時間がかかる。
それなりの準備をして攻略にかかる必要があるだろう。自走砲の砲撃で城壁と防衛設備を破壊し、敵防衛兵力を何らかの形ですり減らし、防衛能力を下げなければならない。
「継続して砲撃を行う、アカーツィヤ、BM-21両方を使って攻撃するぞ。攻撃は城壁と防衛設備に集中させろ」
「了解」
今回のロシア陸軍の作戦はこうだ。まず自走砲とロケット砲で城壁と防衛設備を破壊し、敵軍の籠城を困難とし、都市の防衛の為に野戦せざるを得ない状況に追い込み、野戦で敵兵力を大きく損耗させる。
そして防衛能力を大きくそがれたフェルシュ防衛軍を市街戦で撃破し占領という流れだ。
フェルシュ 駐屯軍司令部
「武装勢力は相当な戦力を持っていると思われます」
「すでに占領された都市は10以上を数えています」
「防御を固めるべきだな・・・」
かつて現在の南部統治局の管轄範囲にはクタルと敵対する比較的大きな国家が存在しており、フェルシュはその国家との戦争に備え建設された都市だ。
大陸をクタルが統一した今、この都市は南部からベラッガに至る街道全てが一度この都市につながっており、関所としてベラッガとクタル中心地に向かう人々を監視していた。
トントン
司令官たちの集まる部屋の扉をを誰かがたたく。
「入れ」
「会議中失礼します!ファイラ団が撃滅されたことを受け、中央軍の援軍が派遣されるとのことです!」
「おおっ!」
中央軍の援軍は大きい。フェルシュの駐屯軍は比較的規模の大きいものだが、ファイラ団を撃破した武装組織相手にはかなり分が悪いだろう。
情報によればファイラ団は鉄の鎧を着たワイバーンから落とされる爆裂魔術とと長距離砲撃によって壊滅したらしい。だが、今回は籠城戦である。優秀な魔術師と防衛設備、重厚な防壁を有するフェルシュならば、鉄の鎧を着たワイバーンと長距離砲撃にも耐えられるはずである。
中央軍が到着するまで耐えきれば、後は補給線も伸びて消耗している敵軍を中央軍とともに撃破すればよい。
これなら、勝てる。そう確信した彼らの心を、これからロシア陸軍はズタズタにするとは、誰も思っていなかった。
クタル西部 セリール
「な、なんだと?保留だと!?」
「そうです、彼らは支援をするか否かは保留とすると」
「なぜだ!?」
「わかりません、どうやらあちらからは保留するとしか・・・」
アメリカ合衆国から支援を保留とされたサヴァール独立連盟は、その事実に半ば挫折していた。
最後の希望とも言えた武装組織、もといアメリカからの支援が当分期待できない以上、今までの活動を継続するしかないが、監視の目は日に日に厳しくなっており、いつここがばれるかもわからない。
サヴァール独立連盟の技術力は粗悪な火縄銃を作れる程度な上、資材も人員も全くと言って足りない。周辺外国勢力にクタルと対抗できる国家はなく、どこから現れたかは知らないが、クタル軍に勝ったアメリカに支援してもらえればサヴァールも独立できるかもしれない。
だが、支援してもらえなければ何もできない。
「くそっ、どうにかならないものか・・・」
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