第24話
アメリカ合衆国 ホワイトハウス
「今回我々に接触してきたサヴァール独立連盟の主な活動地域はクタル西部、半島のようになっている場所のようです」
スクリーンに映し出されたクタルの地図にレーザーポインターが当てられる。
「構成員の正確な総数は不明なものの、接触してきた連絡員によれば、少なくとも10万人におよぶ構成員が存在しているとのこと」
「それで、彼らの要望はなんなんだ?」
「端的に言ってしまえば独立支援です。武器弾薬の供与と資金援助、軍事訓練等になります」
「それで?彼らは見返りに何を我々に返してくれるのかね?」
「見返りは、なにも聞いていませんよ。我々がクタルと戦争していて、我々もクタル憎しということで協力してくれるだろうという位しか認識していないと思われます」
「有力な見返りが無いんじゃ、すぐには動けんな。それに、クタル南部の制圧後にはクタルとの和平交渉も予定されている。植民地を作るならともかく、今は国内優先だ。クタルが万が一にでも和平案を蹴れば支援するかもしれんが」
「つまり保留という事ですね」
「そうだ。見返りのない、利益のない支援など、無駄でしかない」
近世以降の国家において、支援というものは取引の一種として扱われる。
ドイツがナチス政権下で日独防共協定の締結まで活発に行っていた中華民国への援助は、中華民国からのタングステン等の希少鉱物の輸出との引き換えだった。
アメリカがキューバ革命の影響でキューバを脱出した亡命キューバ人を軍事的に支援し、ビックス湾事件を起こしキューバ革命政府を転覆させようとしたのも、キューバ革命政府がアメリカからすれば都合があまりよろしくなかったからだ。
何らかの見返りだったり、もしくは直接的な見返りは無くとも利益がある場合しかこの現代国家という組織では支援というものは行われない。
やっかいそうなクタルからは早々に手を引きたい地球圏としては、外交官の様子を見るに一度撃退しても諦めずに何度もやってきそうであり、それなら逆に痛いしっぺ返しをすればクタルも諦めるだろうという想定で侵攻しているのだ。
かなり想定という部分に頼っているが、現代と近世の技術力は差は圧倒的であり、またある分野で自信を持っている者の自信を折るもっとも簡単な方法は、その分野で遥かに優れた結果を出すことである。すなわち、今回は軍事力となる。
と、これらの事から、地球圏はクタル対しちょっかいを掛けられないように屈服させればいいと考え、そして実現させるだけの自信があるのだ。
クタル魔国 ベラッガ 南部統治局
「第27団、第33団からの連絡途絶!」
「クラネ市・ロルメ市からの連絡もありません!」
「クソッ、奴ら一体どういう速度で進んでいるんだ!」
アメリカ軍とロシア軍が快進撃を続ける一方、南部クタル軍の総本山、ベラッガの南部統治局はその対応に追われ続けていた。
2つの都市が陥落し、2個駐屯軍が連絡途絶。
まだ南部統治局の戦力は大規模駐屯軍4個と1個中央軍が健在だが、各中小都市の小規模駐屯軍と大都市の大規模駐屯軍、両方が通用しないとわかった以上、万が一に備え出動させた中央軍をぶつけるしかない。
「しかし奴ら、一体どうやって駐屯軍を破ったんだ?」
「わからん。彼らからの連絡もない程に短期間に殲滅できるなどありえん」
「だが現実にはあいつらは文字通り消息不明だ。奴ら、どんな大魔術師の協力を得たんだ?」
中央軍なら物量も練度も駐屯軍とは一線を画す精鋭集団だ。魔術師、砲兵、歩兵、騎兵をバランスよく保有し、日々訓練を行う生粋の外征軍隊である。
治安維持や魔物の討伐等、多くの任務を請け負い、あまり練度が高くなく、各都市に分散しており、物量も兵種のバランスも良くない駐屯軍とは大きな差を持つ集団だ。
中央軍なら、きっと武装集団アメリカ軍とロシア軍もいとも容易く撃ち取ってくれよう。
アメリカ海兵隊
「敵の大部隊が我々の進むこの街道を南下しています」
「敵大部隊はワイバーンも有しているようです」
「艦隊に航空攻撃を要請する。すくなくともワイバーンは狩ってもらうとしよう」
キーブ港の制圧以後、アメリカ陸軍やロシア陸軍同様に街道の制圧を進めていたアメリカ海兵隊だが、彼らの担当した街道はキーブ港から海岸線にそうように大きく南に回ってから北上するように作られていた為、他の部隊と違い駐屯軍との戦闘もなく、都市にも出会わず進んでいた。
そして遂に最初の敵として立ったのが南下中のクタル南部統治局の虎の子の中央軍である。
偵察衛星からの情報によれば、兵力はあちらが大きく勝り、またワイバーン、すなわち航空戦力も持つらしい。
海兵隊の航空戦力といえば戦闘ヘリだが、今回は飛行場が無く、また電撃的な進撃を予定している為に強襲揚陸艦で暇していたが、航続距離的に中央軍まで飛んでいけない為、また暇な時間が増えることとなった。
クタル中央軍 ファイラ団
クタル中央軍の基本編成である"団"につけられる名称は基本的には団長の名前から取られる。
ファイラ団を率いるのはミラク・ファイラ団長だ。彼女は高位の種族に数えられるサキュバスの1人だ。
「ふん、私の部隊が必要なほどの相手だといいわね」
ファイラは強力な魔術師であることが評価され、南部に駐屯する中央軍の1つの団長に任命された。
クタル南部は周囲を非文明圏に囲まれている事もあり、中央軍が本気を出さなければならない相手はほとんどなく、ファイラ団は楽な相手に連戦連勝を重ねてきた。
今回、武装組織とやらに撃破されたファフィ島の部隊は、規模は本土配備のファイラ団よりは小さかったが、中央軍であることに違いはなかった。
それ故、彼女は本気を出す場がようやくできたと、面倒くさいとも思いつつ歓喜していた。
・・・彼女の意識を狩り取ろうとする獰猛なスズメバチが、ゆっくりと近づいていることは、彼女の知り得ぬ事であった。
アメリカ海軍 ニミッツ級航空母艦
「海兵隊から支援攻撃要請を受けた。作戦機を発艦させろ」
海兵隊からの要請に基づき、F/A-18E/Fマルチロール戦闘機が出動する。
バッ、シューーー
F/A-18E/F スーパーホーネット、F-35Cが現れるまではF-14退役以降アメリカ唯一の空母艦載機であった戦闘機だ。
俗にレガシーホーネットと呼ばれる前期型を再設計した戦闘機で、機体の大型化やエンジン、アビオニクスの換装と全面的な変更が施されている。
その名の通りレガシーホーネットから大きく進化しており、スーパー"スズメバチ"というに相応しい性能を有する。
今回は目標が低速であり、また都市の内部でもないため、無誘導爆弾Mk.84を抱えての出撃となる。
アメリカ陸軍 サヴァール諜報員
アメリカ海兵隊とアメリカ海軍がファイラ団の殲滅準備を進める一方、アメリカ陸軍に同行するサヴァール独立連盟の諜報員はアメリカ政府の返答を聞いていた。
「保留!?なぜです!?」
「私は詳しい話は聞いていない。ともかく本国の決定はそうなっている」
「そんな・・・」
年々クタルによる弾圧が激しくなる中、活動を隠す事は難しくなりつつあり、毎年多くの同志が逮捕されている。
圧倒的なクタル軍との差を埋め、独立戦争を勝ち抜き、更にその後独立国として国を維持するには、現状だと外部からの全面的な支援無しには実現不可能なのだ。
なんとしても支援を取り付けねばならず、そしてアメリカがクタルと戦争しているということから支援してもらえる自信はあったのだが、彼らはアメリカが転移国家であるという事を知らなかった。
周辺国家はほぼ確実にクタルを恨んでおり、アメリカもその1つと思っているが、地球圏は転移国家群。
長年の恨みはなく、今回の戦争も面倒くさそうな相手をとっとと黙らせたいが為にやったことだ。
サヴァール独立連盟の諜報員は不安な気持ちを抱き続けながら、アメリカ陸軍に同行した。
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