第23話

クタル駐屯軍 第27団


「何!?クラネ市が攻撃されているだと!?」


「はっ、先ほどクラネ駐屯軍より連絡がありました」


「ありえん!まだキーブからの連絡が途絶えて5日もたっていないんだぞ!」


「敵の妨害工作の可能性もあります。どちらにしろ、クラネはそれなりの防御力を有する都市です」


「敵が大砲を持ち込めていたとしても、爆発する砲弾も持っていないでしょう。クラネ市は食料を大量に溜め込んでいるはずですから、我々が到着するまで耐えられるはずです」


クラネ市が落ちる数時間前、クラネ市に中央軍と合流するため向かっていた第27団はクラネ駐屯軍からの報告を受け取っていた。


しかし、第27団、しいてはこの地域においてはこれほどのスピードで移動できる軍隊など存在しない。


それに、仮に移動できていたとしても、兵士にかなりの負担をしいている筈だ。


まともにクラネ市への攻撃はできないだろうし、クラネにも駐屯軍が居る。


だが、軍事においてはそのような常識は往々にして裏切られるのが常である。


軍隊は常に相手を出し抜くべく、様々な技術を蓄積させてきた。クタル軍だって、かつて歩兵が持っていたのはマスケット銃ではなく剣や槍だし、戦術もかつては天才の生粋の軍人が指揮していなければただ隊列を組んで突撃するだけという物だった。


地球においては第二次世界大戦初期のアルデンヌの森での戦いに始まるドイツ機甲師団の電撃戦、ベトナム戦争において装備で圧倒的にアメリカ軍に劣るベトコンのゲリラ戦。


何度もそれまでの常識が覆されている。今回、その常識を覆されるのは彼らという訳だ。


既にロシア陸軍は偵察衛星を介して第27団を発見しており、彼らを撃滅すべく動き始めていた。



ロシア陸軍 偵察隊


「こちら偵察隊、敵部隊は夜営に入った模様」


『こちら本隊、その場で待機、砲兵隊の砲撃終了後、敵部隊への着弾を確認したのち、進撃する本隊へ合流せよ』


「了解」


クラネを攻略したロシア陸軍の部隊は北上を続け、第27団を射程圏内に納めていた。


第27団は前回のクラネ駐屯軍に比べ、兵力や装備等、様々な面で勝っている部隊だ。少しは骨のある戦いになるだろう。


本隊の後方、砲兵隊はアカーツィヤ 152mm自走砲と共に、BM-21 122mm多連装ロケット砲をズラリと並べた。


BM-21 122mm多連装ロケット砲は、かの有名なロケット砲、BM-8/BM-13 カチューシャの後継であるBM-14を更新するために開発された多連装ロケット砲だ。


発射するのは名前通りロケットであり、40連装発射器に搭載されたロケットを20秒の間に全て打ち出す面制圧兵器だ。


精密攻撃能力は望めないものの、BM-21のロケットは回転するようにもなっており、それまでの尾翼がついているだけのBM-13等と比べより弾道は安定するようになっている。


「射撃開始!」



バァンバァンバァンバァンバァンバァン!!!


ブァシューブァシューブァシューブァシュー!!!



次々に152mm砲弾と122mmロケット弾が夜営の準備を終え、眠りつつあったクタル駐屯軍第27団へ発射される。



クタル軍 第27団


ボォン!ボォン!ボォン!ボォン!ボォン!ボォン!



「うがぁっ!!」


「ぶぁっー!」


「ぐぁっー!」


夜営に入っており、殆んど寝静まっていたクタル駐屯軍第27団は突然の砲撃とロケット攻撃を受けて大混乱に陥った。


まだ敵とは距離があると思っており、油断していた上、寝ている所に打ち込まれたのだ。


第27団は一瞬の間に半壊状態になり、兵員の約1/3が死亡、生存した者も多くが負傷している。


さらに運の悪い事に、指揮をとるべきアラッカー司令以下上級の士官が居たテントに122mmロケット弾が直撃しており、全員が吹き飛ばされていた。


ひとまず攻撃の収まった事を確認した彼らは、残った下級の士官を中心に負傷者の対処と、運良く吹き飛ばされなかった武器を取り周辺警戒を開始する。


砲撃とは歩兵・騎兵同士の戦いの前哨戦だ。絶対に敵軍の歩兵と騎兵による攻撃があるはずである。


「なんだ?ありゃ」


「なにかが動いてる・・・のか?」



ドォン!!


ボァァァン!!



「て、て、敵襲!!」



ロシア陸軍 偵察隊


「目標に命中」


「暗視装置っての偉大な発明だな」


着弾を偵察隊を介し確認した本隊は半壊した第27団を殲滅すべく進撃。


T-72B3の砲撃を皮切りに各車両と歩兵も射撃を開始する。


ロシア兵とIFVは夜営地内に突入し、瓦礫等を盾にするクタル兵を排除していく。


第27団の兵士も応戦するが、人数が少ない上に技術差によって相手になっていなかった。


戦闘は数十分で終了した。


砲撃で既に死屍累々の第27団で生き残ったのはたったの数百名であり、その内訳も多くが戦闘のできなかった負傷者だ。


クタル南部の都市と街道はロシア軍とアメリカ軍に順調に制圧されていった。



サヴァール独立連盟 諜報員


「あれが武装組織なのか・・・」


「本当に武装組織か?まるでどこかの国の軍隊だぞ」


旧サヴァール共和国の地下組織、サヴァール独立連盟がクタル南部に派遣していた諜報員が、アメリカ陸軍の車列を発見し、茂みの中から観察していた。


クタル中心部はもちろん、地方にもアメリカ軍やロシア軍は「武装組織」とされているため、彼らもそう思っていた。


だが、車列を組み前進するさまは規律だっており、よく訓練されている。装備もよくわからないが、規格化されているようだ。


「今接触しますか?」


「いや、今行っても偵察兵に間違われるだけだろう」


「じゃあ、どこで接触するんです?」


「この先に中規模の都市があった筈だ。そこに彼らは攻めこむだろうから、そこで接触しよう」


アメリカ陸軍 ロルメ攻略部隊


ロシア陸軍がクラネを攻略し、第27団を殲滅した一方で、アメリカ陸軍の部隊も第27団とは別にクラネへ向かっていたクタル駐屯軍第33団を殲滅したのち、ロルメという都市の制圧に向かっていた。


アメリカ陸軍の派遣した部隊の規模はロシア陸軍のクラネ攻略部隊と同等程度の兵力を有している。


「エイブラムスの直射で城壁を破壊しろ!撃て!」



ドォン!!



「突入!」


M1A2C エイムラムス主力戦車が榴弾を発射し、ロルメを囲う壁の一部を破壊し、そこからM2A3ブラッドレー歩兵戦闘車に率いられ歩兵が突入していく。


ロルメは港湾都市であり、都市に近づくアメリカ軍にすぐに気付いて壁の上で駐屯軍が迎撃体制を整えたものの、射撃によってこれを排除されてしまっていた。


戦いは市内に移行したが、M2A3ブラッドレー歩兵戦闘車の守られながら戦うアメリカ兵達と建物と瓦礫にしか頼れないクタル兵ではまともに戦いになることもなく、数時間後にはロルメは陥落した。


そして、戦闘が終了したアメリカ陸軍の部隊に、とある者が接触する。


「サヴァール独立連盟、か」


「彼らはサヴァール共和国の独立を支援してほしいとのことです」


「うーむ、たかが前線の指揮官に過ぎない私には決められることではない。ともかく・・・サヴァール独立連盟の諜報員だったか?」


「そうです」


「彼らにはひとまず、部隊に同行してもらい、本国からの返答を待つように行ってくれ」


「了解しました」



サヴァール独立連盟 諜報員


「どうにか、同行することはできるようだな」


「そうですね。問題は、彼らの本国が我々への協力をしてくれるかどうか」


「協力してくれると、信じるしかあるまい」


なんとか、武装組織、もといアメリカ軍との接触にロルメ市内で成功した彼らは、アメリカ合衆国が自分達に協力してくれることを神に願った。




北大西洋での衝突に始まり、現地の反クタル組織のアメリカ軍との接触、これによりのちに行われたクタル魔国の分離は、この地域の人々の暮らしを大きく変えることになり、後の時代にクタル戦争・クタル解体と呼ばれるようになる。


世界の動乱も、まだ始まってから大して経っていない。地球圏の受難は、まだ続きそうである。

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