第22話
最初にアメリカ海兵隊が上陸した砂浜に今度はロシア陸軍とアメリカ陸軍が上陸していた。
キュルキュルキュルキュル
ブゥゥゥゥゥゥゥゥ
無限軌道の独特な駆動音を鳴らしながら、T-14が砂浜をかけ上って行き、その横をアメリカ陸軍のL-ATVも上っていった。
両軍の投入兵力はアメリカ海兵隊もあわせて2万人ほど。
全土占領の予定は無く、ある程度占領地を広げればあちらから交渉を持ちかけてくるだろうという想定のもと、2万人の投入となった。
無事に橋頭堡を築いた両軍はついにクタル南部の都市への本格的な侵攻を開始した。
クタル駐屯軍 第27団
「アラッカー司令!伝令です!」
「読み上げろ」
「はっ、"目的地をクラネ市に変え、中央軍の到着をまて"とのことです」
「中央軍だと?武装組織ごときに中央軍が必要か?」
「必要は無いでしょうが・・・とにかく統治局からの命令です。従うしかありません」
「不可解だが・・・仕方あるまい。今夜の野宿で兵士達には伝えるとしよう」
クラネ市は農村部に築かれた小さな流通基幹都市だ。
目立った産業もなく、流通に関わる商人が訪れる程度で、人口も多くはないが、農村部なだけあって食料供給網は太い。
今回、駐屯軍と中央軍の合流地に選ばれたのも、特徴がないため変な確執がなく、またその食料供給網を利用して大軍を維持するための兵糧を確保する為であった。
第27団は進軍を続け、途中で他の町からやって来た3個駐屯軍と合流し、中央軍との合流地点であるクラネ市へと向かった。
一方クラネ市はやってくる大軍を迎える為の準備に追われていた。
食料に野営地の確保、高級士官の為の宿の選定と、何年も平和に穏やかに暮らしていた住民からすれば目の回るような事態になった。
だからこそだろう。近づく敵の存在に気づく事が出来なかったのは。
ロシア陸軍 クラネ攻略部隊
「偵察隊が目標の町を発見しました」
「規模は大して大きくなく、敵軍の駐屯地と思われる建物は、キーブ軍港より小さかったそうです」
「素早く制圧するぞ、前進!」
キーブ北西の砂浜から上陸したロシア軍は1.2万人の兵員と、T-14が10両、T-72B3が20両に加え、MT-LBやBMP-3等の装甲戦力を中心に構成された部隊となっている。
そのうち、約4000人の兵員を有する一隊が複数の都市に繋がる一本の街道の制圧に割り当てられ、その街道のを制圧していく上で最初の都市がクラネ市というわけだ。
ロシア陸軍は早速占領にかかった。まず敵軍をおびきだす為自走砲による砲撃を敢行する。
本来ならそのまま吹き飛ばしても良いのだが、クラネ市のクタル軍兵舎は都市内部にあるため、民間人への被害を無くすべく内部からおびきだす事になった。
ロシア陸軍は100年以上前の帝国初期時代の頃から膨大な砲兵戦力を有する陸軍である。
大量の大砲を並べ砲撃を行い、その後大量突撃を行う戦術は、第2次世界大戦期に火力は砲兵と比べ低いものの、より敵の奥深くまで攻撃できる航空機と、より高い機動力を持つ自動車と戦車等が組合わさり縦深戦術として完成し、今に受け継がれている。
といっても、今回は都市と重要拠点を押さえ、敵を降伏に追い込む、いわゆる電撃戦を行う事になっている。
「撃ち方初め!」
バァン!バァン!バァン!バァン!バァン!
キレイに並んだ2S3 アカーツィヤ 152mm自走榴弾砲から次々に152mm砲弾が放たれていく。
アカーツィヤは同時期に開発された2S1等と共に戦後第一世代のソビエト機甲戦力の中核を担った自走砲だ。2S19 ムスタ-S自走砲により更新されるはずだったが、ムスタ-Sが高価な為に進んでおらず、現在も多数が現役についている。
アカーツィヤの放った152mm砲弾はクラネ市を囲む低い石壁に命中していき、元より大した耐久力もない石壁を破壊していった。
クラネ市から数百m離れた所から砲兵部隊の攻撃が炸裂するのを観測した制圧部隊は、戦車を先頭に、歩兵を乗せたAPCとIFVが続く。
クラネ市攻防戦が開始された。
クラネ市 クタル軍
アカーツィヤの砲撃によって訓練中だったクラネ駐屯軍は大混乱に陥った。
とはいえ彼らも軍人の一端。すぐに攻撃を受けたことは理解し、武器と鎧を取りに倉庫に押し掛け、装備を整え迎撃すべく次々に町中にでていった。
「敵軍は丘の下に隠れていたようです。砲撃にあわせ前進しています!」
クラネ市は丘の上に築かれた都市だ。部隊をうまく配置すればクラネ市からは見えない。
「正門から出撃するぞ!歩兵に陣形を組ませろ!」
「はっ!」
歩兵が先んじて正門から出撃し、戦列を組んでいく。
その後ろを砲兵がえっちらおっちらと大砲を頑張って運ぶ。
「あれがなんだ!」
T-72B3を目視した兵士の1人が叫ぶ。彼らには戦車んl知識は無かったが、それが強力な兵器であることは見ただけでわかった。
兵士の叫んだ直後、T-72B3が主砲を発射する。
ボォン!!・・・・・・バァァン!!!
戦列の内部で榴弾が爆発し、幾人もの兵士が飛び散るが、戦列は歩みを止めない。
戦列歩兵とはどれだけ仲間が戦死しようとも歩みを止めず、最後には着剣突撃を行い敵の戦列を突き崩す。
これを基本戦術としており、その背景にはマスケット銃の命中精度が低く、また撃つ度に1発1発弾を銃口から装填しなければいけないため、自然と兵士を並べ、列ごとに発射させることにより、なるべく隙を小さくできると共に大量の銃弾を敵へ投射できるようにしたのが戦列歩兵なのだ。
しかし、ライフリングの付与により命中精度が格段に向上し、レバーアクション、ボルトアクション、そしてガス圧等による自動装填にまで進化した結果、戦列歩兵はとうの昔に地球では廃れており、この世界の国家でも既により優れた武器を取得している国では同じく廃れていた。
そして、火力においては地球随一といっても過言ではなかったロシア陸軍の攻撃をクラネ駐屯軍は戦列という最悪な陣形で受けることになってしまったのだ。
ロシア陸軍 クラネ攻略部隊
「数だけは多いな。やはり戦列歩兵といったところか」
戦列歩兵は訓練にかかるコストも時間も短く、大量に揃えられる。もちろん、その戦闘方法ゆえ戦死者も膨大だ。
戦車とIFVが前に、その後ろでMT-LB等のAPCとIFVから歩兵が次々に降車し、銃を戦列に向ける。
ボォン!・・・・・・バァァン!!
ダダダダダダダダダダダダダダ!!!
T-14が主砲を発射すると同時に歩兵達も銃撃を開始する。
AK-74MやPKシリーズの機関銃から放たれる大量の銃弾をキレイに整列し背筋をピンと立てて行進するクラネ駐屯軍はまともに受けた。
10分もしないうちに正門から出てきた戦列歩兵は全滅し、その後ろで驚愕していた砲兵もなにもできないまま市内へと逃げていった。
そして、遂にロシア軍は歩兵にIFVを随伴させ市内へと突入していく。
クラネ駐屯軍
「敵軍は市内に入ってきました!」
「既に正門からでた主力部隊は全滅しました!」
クラネ駐屯軍はもはや軍隊の体をなしていなかった。
全部隊が混乱に包まれ、指令も報告もきちんと届かない。
ダダダダダダダダダン!
「正面に敵!」
遂に敵は兵舎に到達したようだ。残る兵士はごく少数。勝てるはずがない。
「クソッ、降伏するしかないのかっ・・・!」
数十分後、兵舎は陥落した。内部に残っていた兵士数十名は捕虜となった。
その数十分後にはロシア軍はクラネ市庁舎に到達し、市庁舎の制圧を開始した。
バァン!!
ドアを蹴破って突入したロシア兵に対し、非戦闘員の役人程度しかいらず、武器も存在しなかった市庁舎は数十分で陥落。
それから数時間後、クラネ市全体がロシア軍によって占領された。
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