広がる世界
クタル戦争
第21話
キーブ軍港上空 SH-60R
「攻撃目標の破壊を確認」
『了解、何か変な装置があったりはするか?』
「見当たりません、平屋と見張り台程度しかありません」
『了解、帰還せよ』
「了解」
攻撃目標が小さく、また密集しておりレーダーでの判別が難しいため、SH-60Rがキーブ上空から弾着観測を行っていた。
停泊していた帆船の大半を破壊し、海上戦力を潰した次に港にやることは決まっている。
付近または直接上陸し制圧する。陸続きではない土地への侵攻時の定石である。
キィィィィィィィィィィィィィィィィ!
リフトファンと推進用ファンが上げる騒音をBGMに5隻のLCAC-1が砂浜に向け水しぶきを上げ進行する。
「接岸まで残り1分!」
LCAC-1の5隻のうち、2隻がLAV-25を、3隻が人員輸送用モジュール(PTM)とHMMWVを搭載。
砂浜を制圧したのち、後続のLCACやロプーチャⅡ級が戦車等の重装備を下ろし、その間に先に上陸した部隊はキーブ港の制圧に取りかかる予定だ。
ドン!
鈍い衝撃が乗員を襲う。砂浜に乗り上げた証拠だ。
LCACのランプが開くと、まずはLAV-25とHMMWVが先に降りていく、それに続き、HMMWVの後ろをPTMから続々と海兵隊員が降りていく。
世界に轟くクタル戦争とクタル解体の始まりである。
キーブ軍港
「ひどい状態だな・・・」
「これは・・・一体どこの連中なんだ?」
「見張り台からは何か見えなかったのか?」
「見える範囲では何も見つからなかったらしい。なんという精度だ・・・」
見張り台の敵襲という叫びに反応して警戒体制に入ったキーブ軍港の兵士の一部は、桟橋の根元からその惨状を眺めていた。
桟橋のとなりには燃えながら沈む船、既にバラバラになり原型を留めていない船、様々な状態で破壊された船が大量に横たわっていた。
タダダダダン!ダン!ダン!
「な、なんだ!?」
「あっちだ!正門の方で銃声だ!」
海側の警戒についていた兵士達は一直線に正門の方へと駆けていく。
そして、正門が見えたところで彼らは思わぬものを目にする。
「っ!」
血まみれになった仲間達の姿だった。
アメリカ海兵隊 先鋒部隊
LAV-25を先頭に、激しい銃撃によってキーブの正門の制圧にかかる海兵隊は、想定していたよりも多くのクタル兵が居たことに困惑していたが、多かったとしても少しばかり弾薬の消費が増えるだけである。継続して攻撃を続けた。
「敵歩兵、沈黙!」
「正門に接近するぞ、警戒しろ」
海兵隊員達が壁に張り付き、突入準備をする。
ボォォン!!
「突入!」
手榴弾を一発投げ込み、それが爆発すると次々に海兵隊員達は突入していく。
「クリア!」
どうやら最初の制圧射撃の時点で敵歩兵は全滅していたらしい。
キーブ軍港内の通路は狭い為車両が入れない。そのため海兵隊員のみで制圧していく。
どこに敵兵が隠れているかわからない。慎重に軍港内を動いていく。
キーブ軍港 兵舎
ダダダン!ダダン!ダダダン!
「くそっ、奴ら一体どんな技術で撃ってやがる!」
「銃撃が絶えまなく続いていやがる・・・これじゃ前に出ることすらできん!」
海兵隊の攻撃によって引き起こされた混乱の最中、多くの兵士は士官の居る兵舎へ向かい、指示を仰ごうとした。
しかしそれが裏目に出た。士官も状況が把握できておらず、兵士が溜まりに溜まった所を海兵隊に攻撃されてしまったのだ。
絶え間ない弾幕を前にまともに反撃できず、壁を貫通した弾に不運にも当たってしまった兵士がパタリパタリと倒れていった。
「これ以上戦っても、いつか全員倒れるだけだぞ!」
「くそ、どうにかしねぇと!」
その時、突然銃撃がやむ。
「なんだ?弾切れか?」
カランカラン
1つの丸い物体が投げ込まれる
「なんだ、こr」
バァァン!!!
アメリカ海兵隊
「突入!突入!」
手榴弾の爆発によって中からバラバラになった木材が飛び出た直後に次々に突入して内部に展開する。
狭い所でも扱い易い短い銃身を持つM4カービンを撃ちならし、内部を制圧していく。
「クリア!」
残存するクタル軍人全員が手を上げ降伏し、キーブ軍港はアメリカ海兵隊の手に落ちた。
クタル魔国 南部統治局
クタルは各地の行政を東西南北の4つの区域に分けて行っている。
そのうち、南部地域の大都市ベラッガに置かれている南部区域を担当する南部統治局は今大混乱に陥っていた。
「ファフィからの資料はどこだ!?」
「キーブは今どうなってる!?」
「違う!それは去年の資料だ!」
ファフィ島が武装組織に占拠されたという情報が入った後、キーブ軍港とその付近に駐屯する部隊に奪還を命じ、この事は奪還の報告をもらって終わる筈だった
しかし現実にはどうか、ファフィどころかキーブからも攻撃されているという報告が届いたではないか。
クタル、いや、列強の軍を撃破して領土を占拠できる武装組織なんぞ存在する筈がない。
あったとしてもそれは正規の武装組織、つまり国家の軍だけだ。
だがそれでも、クタル軍をこうも簡単に打ち負かせるとは思えない。周辺諸国にはまともに戦ってクタルに勝てる国は存在せず、勝てるような国もかなり遠い。
しかし実際には上記の通り、クタル本土が未知の敵に蝕まれている。
「くそっ、奴らファフィ島の部隊を正面から負かしたのか!これじゃ駐屯軍には荷が重い。中央軍を派遣するぞ!」
駐屯軍は本土に分散配置され、治安維持や反乱対処、場合に言っては労役に駆り出される、現代ならば中国の武装警察やアメリカのSWATが比較的近い物と言える。
中央軍は通常の軍隊、すなわち重武装と大量の兵士を有する部隊だ。
中央軍は統治局の存在する都市の近くか、地理的に優れた場所(例えばファフィ島)に駐屯地を起き、基本的に中央政府から命令で動く。
しかし、命令権限自体は各統治局にも存在し、必要な時は動かすことが出来たが、大抵の事は安く済む駐屯軍で終わらせられる為に、侵略等の対外的な任務以外には使われることはほとんどなかった。
だが今回は話が違う。既に中央軍であるファフィ島駐屯中央軍が撃破されているのだ。
そんな相手に駐屯軍では荷が重すぎるという訳で、今回中央軍の出撃も命令された。
尤も、中央軍でも彼らの言う"武装組織"を相手に出来るかといえば、そうではないのだが。
クタル西部 セリール
「最後までクタルに抗った国」
その異名を持つサヴァール共和国の首都だったセリールで、サヴァール独立を目指す地下組織が沸き立っていた。
"クタル軍が武装組織に敗北した"
クタルの全体主義の元で独自の諜報ネットワークを持つ彼らだからこそ入手できた情報だ。
この情報は、数十年もの間未来の見えない戦いを続けてきた彼らに大きな衝撃を与えた。
サヴァール共和国がクタル魔国に敗北したとき、両国に技術的な格差はほとんどなく、単純な国力差で負けた。
しかし今はクタル中心地と征服された地域とでは大きな技術力の差まで発生し、彼らは単純な国力以上のものを相手にしなければならなくなった。
だが、入手した情報によれば、クタル軍を敗北に追い込んだ武装組織はクタル軍よりずっと少ない兵力であったにも関わらず勝利したそうだ。
この武装組織とコンタクトを取り、どうにかして支援を取り付けることができれば、もしかすれば、もしかすれば独立できるかもしれない。
この数十年もの戦いに終止符を打つ方法は自力では見つかりそうにはない。
もはや国外組織に頼るしかない現状、このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
「どんな犠牲を払っても構わん、必ずコンタクトを取れ!」
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