第20話
ファフィ島
時はスチームー帝国との本格的な交流が始まる前に遡る。
「クタル本土、南部の大型港の大規模な船団の一部が出港しました」
「進路から見て、おそらくこの島の奪還部隊と思われます」
「島を脱出した連中がいたようだな。そこから状況が伝わったか」
ファフィ島からは少数の連絡兵がアメリカ・ロシア両軍に完全に占領される前に脱出しており、本土に島の状況を伝えていた。
それに対しファフィ島に近い港に駐留しているクタル軍の一部が出動し、島の奪還に動いていた。
偵察衛星でこの動きを掴んだ両軍はすぐさま行動に出た。
アーレイ・バーク級4隻とタイコンデロガ級1隻でもって敵陸上部隊を洋上で撃滅。
そののち後続の陸上部隊を投入して南部の大型港を占領し、そこから占領地を電撃的に拡大し、講和に持ち込む事が決定された。
クタル キーブ軍港
「しっかし、突然の出撃のせいで倉庫は空っぽだ。もっとしっかり予定を組んで欲しいぜ」
「仕方ないだろ?ファフィ島が占拠されてるんだ。体面的にも実務上もファフィ島は重要な島だ。できるだけ速く奪還する必要があるのさ」
「そうだけどなぁ・・・毎回毎回そのツケは俺たちに押し付けられるんだろ?そろそろうんざりしてきたよ」
クタル南部のキーブ軍港は、大型港としてはクタル国内では小さい部類であり、受け入れ可能な隻数は400隻程度である。
そのため貯蔵している物資も大して多くなく、規模も予算も駐留部隊も軍港としては少なめである。
尤も、ファフィ島が南部における軍の拠点としての役割を果たしているため、キーブ港は修理や補給線の中継拠点としての性格が強かった。
ファフィ島が武装組織に占拠されたとの報を受け、クタルはすぐに討伐部隊の編成を開始したが、クタル軍の移動速度、編成速度は現代軍に比べ遥かに遅く、本軍とは別に先行してファフィ島へ向かう先遣隊が必要になった。
そこで距離が近いというか、もよりの駅レベルのキーブ軍港の駐留部隊を先遣隊として投入し、港湾施設のあるクラッキー町を制圧し、本軍の進路を確保しておくというのである。
「すぐ終わればいいがな、長引けばめんどくさいぞ」
キーブ駐留部隊 出撃部隊
キーブ駐留部隊は、100隻の戦列艦と5万の歩兵からなっている。
今回動員されたのは1万の歩兵と30隻の戦列艦で、これをもってクラッキー町を武装組織から奪還する作戦である。
「ファフィ島が占拠されるとはな。何があったんだろうか?」
「わかりませんな・・・どれだけ大きな武装組織であろうと、列強の一大拠点の一つを落とせる程の武力があるとは思えません」
「・・・変な政争に巻き込まれたか?とにかく厄介だな・・・」
キーブ駐留部隊の司令官アルー・リッペンは、面倒くさそうに嘆いた。
クタルはその国体ゆえ常に政府内部では激しい政争が繰り広げられている。
この国では政争で勝つために軍を勝手に動かすことも多くはないがそう珍しい事でもない。
だが兵を直接動かす立場にある下級の士官からすればたまったものではない。
変なのに巻き込まれれば、複数の命令が別系統から出され、どれに従えばいいかわからない状況になったり、その後の政府内での変化によっては職を失う可能性もあるのだ。
「南に何か見えます!」
「船か?」
「よくわかりません!マストらしきものは見えますが、帆を張っていません!船体の形もおかしいです!」
声をあげる見張り台から南の海に艦隊司令は目をうつす。
「望遠鏡を貸せ、どれどれ・・・」
片目をつむり、望遠鏡を覗き込んだ彼の目には、クタルの常識ではおかしな形をした船らしきものが確かに写っていた。
「なんだあれは?」
驚きから一度望遠鏡から目を離し、もう一度覗き込んだその時、船の先端で煙が上がったのを彼が見た数秒後。
ガボォン!!
「何が起こった!」
「後方の1隻がバラバラにされました!攻撃を受けています!」
「さっきのは発射煙か!」
ガボン!ガボォン!ガボォン!
次々に撃沈していく戦列艦。
「方向転換だ!南の敵に進路をむけい!」
「とぉぉりかぁじ!」
進路を敵に向ける間にも、次々攻撃され、沈んでいく戦列艦。
「全速力で接近しろ!射程に納めるのだ!」
帆を一杯に張るが、目に見える程速度は上がらない。
風向きが悪く、うまく加速できない。
その間にも何隻か沈められるが、未だ射程圏外、さらに接近しなければならない。
「クソッ!」
アメリカ海軍 タイコンデロガ級巡洋艦
キーブ駐留部隊に向け、ファフィ島の南から北上した5隻の艦隊は、順調に目標を撃沈していた。
「敵艦隊の半分を殲滅」
「引き続き攻撃を続行、全滅させろ」
クタル南方の大型港・・・キーブ港占領の先鋒として、事前に駐留艦隊を全滅させ占領を円滑に行うべく、陸上部隊を乗せた揚陸艦隊がファフィ島を北回りで移動している間に彼らは任務の遂行を開始した。
北回りで移動している艦隊は合計4000名程の海兵隊員と、1万6000名のロシア・アメリカ陸軍を擁する部隊であり、また最大で3万人までの投入できるよう準備が行われている。
「戦争の終わりは近いかもな」
タイコンデロガ級の艦長は、そう、ささやいた。
キーブ軍港 兵営
「お爺!もっと出せないか?」
「無理だ。これ以上出せば次の補給までに食料が尽きちまう」
「そうか・・・」
キーブ軍港に残っている兵士達は、量と種類の減った食事にうんざりしていた。
お爺と呼ばれている食料配給係に詰め寄るが、食料庫の惨状を見せられ全員が黙らざるを得なくなり、意気消沈していた。
軍隊にとって食事は頑強な肉体を作り維持する栄養補給の為だけでなく、少ない重要な娯楽であり、太古の昔から重視されてきた。
旨くて温かい食事は軍人の活力であり、補給線を疎かにして勝てた戦争はそう多くない。
ヒュゥゥルルルルル・・・
「ん?なんd」
ボガァン!
突如、停泊していた戦列艦が爆発を起こす。
「て、敵襲!敵襲!」
即座に命の危険を感じた見張り台の兵士は大きな声で叫ぶ。
その声に反応して兵士たちが動き出す間も次々に攻撃され戦列艦は爆発していく。
「あ、ありゃあ、なんだ?」
パタタタタタタタタタタタ
空を飛ぶ箱は攻撃を、その羽の騒音に似つかわしくなく静かに見ていた。
基本、この世界では列強と列強はその国力の大きさから、直接戦わず、代理戦争と全体の戦力差による競争を基本とする。
しかし、地球圏とクタルには列強の中小国以上の差があり、また地球圏は大義名分と世論の味方さえあればいくらでも戦う事のできる国家群である
いまや、この世界に国家という概念が埋まれてから最大の戦争が始まりつつあった。
ミストラル王国 王城
「こんな技術が・・・」
「世界は広い・・・まだまだ発展できるぞ」
多くの知識と技術が本格的に流れ始めた非文明圏では、大きな変化が起こりつつあった。
そう、いわゆる産業革命の最初期段階である。
技術的には未だ原始的でも、方式はより先進的なものへと変わっていった。
家内制手工業が次第に工場制手工業へ移って行き、品質と生産量の増大が始まっていた。
スチームー帝国 皇城
「長年・・・数代も前からの問題が、こうも短期間で解決するとはな」
「全くもってその通りです。地球圏というのはすごいですな」
「ああ・・・」
神聖ケール王国 王都
「よぉ!なんか最近、東の方で、悪魔が見られたらしいぜ」
「ほんとか!?こりゃ数百年ぶりの大遠征になるかもな」
神聖ケール、皇城に組み込まれる形で建設された神殿で、打ち祓い師達は噂話に花を咲かせていた。
フィルッツ隷従国
「くひひひっ、奴ら、すぐにも我らに跪くことになるともしらず。くひひっ!」
「ひゃひゃひゃひゃ、まさにその通りですなぁ」
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