第18話

スチームー帝国 プロミル


「おお!すごい!効率が何倍にもなっている」


「限界が近づきつつあるかと思いきや、まだまだ改良の余地はなん分もあったか・・・」


多くの研究機関や大学が存在する都市であるプロミルの一角、大手蒸気エンジンメーカーであるカロル社の研究施設でスチームー初の蒸気タービンエンジンの開発が行われていた。


それまで単純なプロペラに蒸気を吹き付けていたのを、地球圏から取り寄せた資料に載っていたタービンに置き換えた物を試作していた。


プロペラに比して蒸気のエネルギーを効率よく使えるタービンの効果はてきめんであり、これまでの蒸気エンジンの限界を大きく超える性能を発揮した。


カロル社で試作されたものが高い性能を示した事で、他のメーカーにおいても次々試作品が作られていき、各社はスチームー初の実用蒸気タービンエンジンという栄誉を目指して研究開発を重ねていった。



帝都ガヌ・ピピア郊外


未だ草原が広がるガヌ・ピピア郊外では、巨大な重機達が蒸気を吹き出しながら作業していた。


2本の真っ直ぐな滑走路、飛行機を入れておく格納庫、様々な空港に必要な建物や設備が築かれていた。


ロシアから技術者を招き、土地の選定と設計、建設指揮を取ってもらい、スチームー初の空港の建設プロジェクトが推し進められていた。


この空港はひとまず軍民共用になる予定であるが、現状民間需要が乏しく、そもそもスチームーに旅客機が無いことから、当分は実質的に軍が使う事になる。


「なんだってこんなデカイ空港を最初から作るんだ?今のスチームーに要求される規模なら、将来的に今作ってる規模まで拡大できる余地を作っておいて、もっと小規模でよかったはずだし、そっちの方が圧倒的に工期は短くなったはずだ」


「その事なんだがな・・・どうも、大統領が来るとき、専用機でやって来るつもりらしい。それで、最低でもIL-96が発着可能な飛行場が建設されることになったとさ。まぁ、スチームーに恩も売れるしな」


「なるほどな・・・」


ロシア人技術者達は、本国からの無茶ぶりにどうにか応えられるよう、調整を重ねるのだった。



アメリカ合衆国 ワシントンD.C.


「ふむ、スチームーに建設されている飛行場か」


「はい、ロシアの援助の元建設されているそうです」


「VC-25で乗り込めそうか?」


「え、えーと・・・現状ではわからないですね。現状、まだ建設進捗も大して進んでいるわけでもないので」


「ふむ・・・任期中に完成する上で、VC-25が行けるのなら、ロシアのIL-98より先に行って、初めて飛行機で新世界国家に降り立った国家元首という座をとってやるのもいいな」


「あはは・・・」


転移して以後、協力体制をとり続けてきた米露だが、水面下では勢力争いを続けていた。


経済力、軍事力、技術力、国連での影響力、新世界への影響力。


表面化はしないように両国ともしているものの、水面下での争いは、かつての冷戦を思わせるものだった。


アメリカは地理的な関係で非文明圏に影響力を持つことになったが、この地域は技術力のみならず、政治思想などの面で未熟であり、今後数十年にわたって政治的なものも含めた支援を行えば、十分に戦力として数えられるようになるだろう。


そのうちNATOの新世界版を設立し、再び超大国として君臨するのがアメリカ合衆国の目標jであった。


無論、ロシアは信用できる地球圏国家であり、これからも強い関係性を持っていかなければならない。



ドラゴネスト天上国 第2空中都市


「なんだと!全員が墜とされただと!?」


「死骸も見つからず、国境のスチームー要塞に我らが近寄れないようになっていたことから、恐らくは第4竜士団全員が撃墜されたものかと」


「なんと言うことだ。奴ら、神が怖くないのか」


スチームーが発展を重ね、国内情勢が目まぐるしく変化する一方、ドラゴネストはアゼルバイジャン空軍とアルメニア空軍に撃墜された第4竜士団と、スチームー国境、バトチス要塞に撃ち墜とされた者達に関する事を処理しなければならなくなった。


「・・・奴らはちと調子に乗っているようじゃな。お灸を据えてやらねば」


「いかが致しますか?」


「まずは奴らの船を沈める。哨戒任務を持つもの達には地球圏の船を見つけ次第沈めるよう命じろ。それと、地球圏の正確な位置を突き止めておけ」


「はっ!」


彼らは知るよしもない。護衛船団として輸送船はみな護衛艦に守られて移動していることを。


地球圏の正確な位置を探れる程に近づけば、それは地球圏の防空網に捕まって撃墜されること間違いなしである。


前回のアゼルバイジャン・アルメニアの報告により、狂暴で攻撃的な状態になっていると断定され、発見次第撃墜する事が決定されていた。


少数では圧倒的能力の差は覆せず、これらの実施が始まると、ドラゴネスト竜士団の被害は少しずつ拡大していった。



ロシア護衛船団


「艦長、レーダーがUnknown2つを捕捉、距離143、方位2-6-4、反応の大きさから竜と思われます」


「対空戦闘用意!」


ロシア護衛船団の護衛艦、11357型フリゲートの艦内にカーンカーンと音が鳴り響く。


A-190E、70口径100mm砲と5P-10 ピューマFCSが竜の方を向き、追尾し続ける。


『艦橋よりCIC、竜2体を双眼鏡で確認』


「撃ち方始め!」



ダウン!ダウン!



100mm砲弾が70口径長の砲身から2発放たれる。


「着弾まで7、4、5、3、2…弾着今!」



バァン!バァン!



「命中、敵機撃墜!」


「戦闘配置解除。通常配置に戻れ」



トルクメニスタン


「レーダーにUnknown1つ、反応の大きさからおそらく竜です」


「距離286、方位2-3-6」


「MiG-23を向かわせろ。ミサイルは要らん」


MiG-23が1機、翼を広げて滑走路を飛び立ち、飛び立った後に翼をたたみ、スピードを出して竜の方へむかっていった。


『こちらMiG-23、レーダー上で竜を確認。指示を問う』


「こちら管制塔、そのまま接近し機関砲で撃墜せよ」


『了解』


「それにしても、最近竜が頻繁に来すぎなんじゃないですかね?」


「何が目的かはわからないが、どうせろくでもないことだろ?」


「まぁ、そうだろうな・・・」



トルクメニスタン南方海域 MiG-23


「あれが目標か」


MiG-23は上空から降下する。



バォォォォォォォォォ!!



GSh-23Lから吐き出された大量の23mm弾が竜に襲いかかり、全身から血を吹き出し墜ちていった。


「目標撃墜。ミッションコンプリート」


『こちら管制塔、こちらも確認した。帰還せよ』


「了解」



フィンランド ヘルシンキ


「空軍がスーパーホーネットを導入するらしい」


「最近の竜の襲撃騒ぎのせいか?」


「そりゃそうだろ、中央アジア諸国、ベラルーシやウクライナにも来てるんだ。警戒を強めない選択肢はない」


フィンランドには竜は来ていなかったが、南方の諸国から伝わってくる状況を鑑み、経済の発展もあって大幅な軍の再編・装備更新を開始した。


陸軍ば部品供給が絶たれ、将来的な共食い整備が確実となったレオパルト2の後継として、ロシアのT-90Mを導入することを決定し、同じく部品供給の絶たれたCV9030の後継にBMP-3を導入することを決定。その他部品供給の絶たれた装備も今後少しずつ更新する計画を建てた。


いずれも代替元の装備の運用状況が悪化するまでとされ、契約はするものの導入は後からとされた。


海軍はミサイル艇だけでは広がった防衛範囲を守りきるのは不可能と判断、ロシアにゲパルト型フリゲートを発注し、その一方で国産コルベットの開発も推し進められた。


空軍は現状のホーネットに加え、スーパーホーネットの導入を決定し、様々な面でフィンランド軍の強化が進んでいった。


「地球も面倒くさい世界だったか、こっちも大概だな」


「まったくだ」



スチームー帝国 シュル港


「竜人どもの侵入が最近増えてるらしい」


「なんだ?遂に俺たちを征服してやろうってか?」


「いや、もっと東に行こうとしてるらしい。実際、地球圏に奴らが来ることが増えたらしい」


「なんだ?地球圏にまで行くなんて意図がよくわからんな」


スチームー帝国にも地球圏へやって来る竜の噂は広まっており、ブラックボックス国家として知られ、その意図や思想がよくわかっていないドラゴネストの行動について、彼らも疑問に思っていた。


急ピッチで発展するスチームーにとってこのタイミングでいざこざが起こるのは簡便といったところだが、その意図もなにもわからなければお手上げといったところである。


「なにもなきゃいいんだがな」

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