第13話

「さて、現在我々が向かっているのはドラゴネストという国だ。資料にもあるように」


「相当面倒な連中ってことだろ?」


「ああ、今回はスチームーの支援も受けられない上、これまでに国交を結んできた各国からの評価も最悪だ」


「上の連中はなんでこんな連中とも国交を結んでこいっていうんだ」


「機械文明圏のさらに西側、第2魔術文明圏までの航路を確固としたいんだろう。この世界はまだまだフロンティアとなっている市場が大量にあるから開拓すれば相当な利益があるからな」


ロシア等のユーラシア大陸に存在する国家は、非文明圏へ輸出で急速な経済発展を遂げており、6ヶ月でユーラシア大陸全体のGDPは1.2倍、成長率7%を記録し、発展途上国であった各国の経済は大きく膨れ上がっていた。


ユーラシア大陸各国のみならず、北アメリカ大陸各国も、グローバル化に伴う工場移転等で燻っていた製造業が復興し、経済体系の変化を呼び起こしていた。


ここまで需要があるのなら、さらなる利益を求めて市場の拡大を推し進めるのは当然の行動である。


「とりあえず国交さえ結べれば良いという感じなんだろう。スチームーやその周辺国のように友好関係は期待してないんだろうね、こりゃ」


「厄介な仕事を押し付けられたな・・・子供にやる土産は幾らか買えたが」


部屋でそんな会話をする外交官達を尻目に艦隊はさらに西へ進んで行く。



「艦長!対空レーダーがUnknownを探知、距離296、方位0-2-0、速度約300km/h程」


「なんだ?航空機を持つ勢力がこの辺りにいるのか?」


「そんな話は聞いていませんが・・・Unknownがこのまま進んだ場合、本艦隊とは接触しません」


「なら恐竜ばりにデカイ鳥でも飛んでるんだろう。放っておくか」


ウダロイ級の対空レーダーであるフレガート-MAが捕らえた飛行物体は、大きさにして双発小型機程度の大きさであり、異世界の動物だろうと無視された。


その飛行物体の正体が後からとんでもない面倒事の始まりになるとは、この時この艦に乗っていた1人も考えていなかった。



ドラゴネスト竜士団 第5分隊


ドラゴネスト天上国の騎士団に相当する竜士団の哨戒部隊1つ、第5分隊は東に空を飛べる存在があるという噂を確かめる任務を任され、東に向け飛んでいた。


『それにしても、我々とトカゲ以外に空を飛べる存在なんて本当にいるのでしょうか?』


分隊の1人、アラサドムが分隊長のブラールに質問する。


彼らの言うトカゲとはワイバーンの事である。なお、地球のトカゲと似た外観の虫がこの星にもおり、正確にはそちらがここではトカゲである。


『正直な所、噂は噂でしかないが、噂は稀に本当だったりするからな。上層部は懸念は消しておきたいんだろう』


魔力を利用した念話をしながら4体の竜は東に進んでいく。



『隊長!』


『どうした!?』


『左手に船が見えます!明らかに帆船でもスチームーの船でもありません!』


『どれどれ・・・むっ、確かに見ない船だな』


『あの進路・・・もしや我が国を目指しているのでは?』


『だとすれば、何のためだ?』


『まさかとは思うが、通商破壊か?』


『・・・あり得るな、我が国は様々な国から恨みを買っている。隻数も大した数ではない。襲撃したらすぐに逃げるつもりなんだろう』


彼らがこんな思考になってしまうのには理由がある。


彼らも言ったようにドラゴネストは多くの国から恨みを買っている。


といってもそれは機械文明圏と第2魔術文明圏だけ(第3魔術文明圏と非文明圏は距離的な問題でそもそも関係がない)であり、高い技術力を持ち、ドラゴネストでも戦って勝てるか分からない第1魔術文明圏とは一応は友好関係を築いている。


友好関係があるという事は必然的に貿易が行われ、交易船が行き交う事になる。


それに目をつけたドラゴネストに恨みを持つ国の一部が海賊を雇って通商破壊を行っており、少なくない被害が発生していた。


相手となる国が多すぎ、国同士の交渉や戦争で止めるのは不可能であり、海賊を撃滅しようにもこちらは数が多すぎて不可能。


交易船が護衛を雇おうにも、需要に対して供給が全くといっていい程追い付いておらず、八方塞がり、という状態に陥っていた。


当然プライドが非常に高い竜人にとってこの状況は我慢ならないものではあったが、どうしようも無いことであり、イライラが募るだけであった。


このような背景があり、ドラゴネスト軍内では、自国と第1魔術文明圏以外の船で、国有船および非武装船以外の船は基本的に海賊船と考えてしまうような思考回路ができてしまっており、それによって見たことのないロシア船を新手の海賊だと思ってしまったのである。



ロシア海軍 ウダロイ級駆逐艦CIC


「艦長!先程距離296で探知したUnknownが方位0-5-4、距離31で転進!本艦隊に向かってきます!」


「いきなり転進したのか!?」


「Unknownはいきなり転進しました!おそらく本艦隊を視認して転進したと思われます!」


「クソッ!ここは奴らの縄張りだったのか!?Unknownは視認できるか?」


「Unknownは雲に隠れて視認できません!」


「対空戦闘用意!これは訓練ではない!」


アラートが鳴り響き、水兵達が艦内を慌ただしく動き回り、戦闘配置につく。


水密ドアが閉じられ、ウダロイ級はM8KFガスタービンエンジンが、ステレグシュチイ級は16D49ディーゼルエンジンのうち高速用の分が稼働を開始し、27ノットまで加速する。


「本艦隊に近づく目標4、いずれも大きさは同じ程度、方位0-5-4、距離26」


「FCS追尾始め、攻撃準備!」



ドラゴネスト竜士団 第5分隊


海賊船・・・ロシア艦隊に攻撃を加えるべく、降下した


『は、速い!?』


海賊船は自分達が少し降下する間にスピードを上げたらしい。先程より遥かに速くなっている。


『逃げるつもりか!そうはいかんぞ!』


彼らも進路を修正し、全速力でロシア艦隊に向かっていく。


その直後だった。


《こちらはロシア連邦海軍である。本艦隊に接近中の4機の飛行物体に告ぐ、直ちに所属と接近目的を通達せよ。繰り返す、こちらは・・・》


『・・・生意気ですね。海賊の分際でこような事を吐くとは。完全に逃げの態勢に入ったと見るべきでしょう』


『そうだな・・・全隊員に告ぐ、火炎弾用意!当てようとは思わなくていい、海賊どもの近くに落としてやれ!』



ボォ・・・ブン!



彼らの大きな口先から生成された火炎弾は、勢いよく発射された。



ロシア海軍 ウダロイ級駆逐艦CIC


「飛行物体から何かが発射されました!」


『艦橋よりCIC!飛行物体の発射したものは火の弾だ!やつら攻撃を仕掛けてきた!』


「主砲で迎撃する!」


ウダロイ級の前甲板に背負い式2基で備え付けられたAK-100 70口径100mm砲と、ステレグシュチィ級のA-190 70口径100mm砲が4発の火炎弾に向けて指向される。


「撃ち方始め!」


「撃ち方始め!」



バァォン!バァォン!バァォン!バァォン!



ウダロイ級のAK-100はMR-184 GFCS、ステレグシュチィ級のA-190は5P-10 GFCSによって正確に照準が行われ、射撃を行った。


70口径という比較的長い砲身から放たれた砲弾は、数秒後にドラゴネスト竜士団第5分隊の放った火炎弾に見事命中し、火炎弾を構成していた魔力を爆風で霧散させ、火炎弾は消滅した。



ドラゴネスト竜士団 第5分隊


『なっ!』


『あの大砲で撃ち落としたのか!?』


『信じられない!どうやって・・・』


彼らはAK-100とA-190の100mm砲弾が火炎弾を吹き飛ばしたことに心底驚いていた。


無理もない。この世界での常識ではとにかく撃ちまくる、つまり弾幕を形成する以外で対空目標を撃ち落とす能力を持っているのは第1魔術文明圏最強の国家である神聖ケール王国のエリート集団、王国魔術省にぞくする魔術師の中でも特に優れた能力を有する者達の使う追尾する攻撃魔術のみである。


しかし、目の前の海賊どもは基本的に魔術よりも当たりにくい大砲を使い、1発で火炎弾に命中させて見せたのだ。


さらに、火炎弾を消滅させた爆風は大きなものだった。遥か前方だからよかったものの、もし直撃したら大怪我は免れないものに見えた。


『あれだけの能力を持つか・・・これは海賊ではなく本当にロシアという国の国有船なのかもしれんな』


あれだけの戦闘能力があるというのは海賊と考えるには厳しいというものである。


《接近中の4機に告ぐ、直ちに攻撃を中止し接近を停止せよ、さもなくば撃墜する。繰り返す接近・・・》


『どうしましょう?』


『1発なら当たってもまだ大丈夫そうだが、あhの船にあと1発しか弾がないとは思えん。転進するしかないだろう』


『クソッ、何故ここらの野蛮な他種族がこのような物を・・・』



ロシア海軍 ウダロイ級駆逐艦船室


「さっきのは一体なんだったんだね?」


「竜と思われる物体が本艦隊に向けて攻撃を行いましたが、迎撃に成功すると警告に従い進路を変え、別方向に去って行きました」


「竜!?竜だと!?こんな場面でか!」


これから竜、正確には竜人が住むドラゴネストに国同士の駆け引きをしに行くというのに、これでは相手からは警戒されてしまうだろう。最悪、対立へと向かうかもしれない。


経済の急成長を支える市場の拡大は必要不可欠であり、情報収集の結果、市場として開拓できそうな第2魔術文明圏への航路の安全を保証するには、機械文明圏と第2魔術文明圏の境目に位置するドラゴネストとの一定の関係は必要不可欠なのだ。


しかし、今回の件はドラゴネストがほぼ確実に関係している以上、本国からはドラゴネストに事情を聞くよう命令が出る筈だ。


非常に雲行きの怪しいことになり、外交官は頭を抱えた。

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