第12話

スチームー外務省シュル港出張所 高級外交官執務室


「こっ、これは凄い!こんな技術を持った国家が眠っていたとは!」


「やはりあの地域は新しい発見の宝庫だったか!」


「今すぐに彼らの扱いを1級国家にするよう申請すべきだ!」


スチームー帝国の高級外交官、それは長年の対立相手であるドラゴネストや列強相手の外交、非常に重要な交渉などを担うべく育成された外交官というエリートの中のエリートである。


そんな彼らが半狂乱に陥るのも無理はない。


彼らは外交交渉の際に、できる限りの優位にたつために外交官として以外に、他国の技術や戦力を測る為の工学や軍事学、魔術学等の学問を一定レベルまで履修している。


サイモンが持ってきたロシアの産業資料に載っていた航空機は、彼らも驚くものだったのだ。


長年の対立関係のせいで彼らは航空戦力には航空戦力で対抗するという発想が抜け落ちていたのだ。


それに、飛行機が開発された時代の地球と比べ技術力でも全体的に劣っており、また地球でも突飛な発想だった飛行機を彼らが独自開発するにはかなりの時間がかかっただろう。


「サイモン君、今回はとりあえず国交締結のみにとどめておこう。相手も少数のようだしな」


「だが心象をよくするためにできるだけ譲歩しておいてくれ」


「了解しました」



スチームー外務省シュル港出張所 応接室


「では、これにて国交成立といたします」


双方の文書にサインをすると、彼らは握手した。


ロシアを一刻も早く味方に引き入れたいスチームーの思惑によってトントン拍子に進んだ国交開設交渉は数日のうちに固まり、文書の作成と修正を行ったのち、2週間後に国交が開設された。


ロシアとの国交開設後、両国は大使館を設立、ロシアはスチームーや周辺諸国の情報収集、他の地球圏各国のスチームー国交開設の支援等を行い、スチームーは地球圏各国の情報収集を主として行った。



スチームー帝国 帝都ガヌ・ピピア 皇宮


「凄いな、ロシアではここまで航空機とやら技術が発展しているのか」


スチームーの帝都、ガヌ・ピピアの皇宮の大会議室に集まっていた陸海軍省の幹部は、ロシアに作られた大使館から送られてきた資料・・・という名の雑誌を見ていた。


書かれているロシア語はさっぱり読めないが、写真だけでも相当な技術が使われていることはすぐにわかった。


しかし、同時に情報収集を進める中で、ロシアやそれに並ぶ地球圏の各国は圏外の国家に徹底的な技術漏洩防止や禁輸を敷いており、簡単には輸入できないことも明らかになった。


さらに衝撃の事実として、彼らがこの世界の住民ではないという事も確認できた。


ありえない事ではあるが、分析を進めていく中、辻褄を合わせるには別世界から転移したとするのが一番現実的だと結論付けられた。


どう理屈付けてもこの世界で発達したと納得できない異なる文化、技術、思想、その他多くのモノ。


どのようにしてそう至ったかを証明するには、この世界とは別世界で育ったものだとする以外の理論はどうしても矛盾が生じてしまっていた。


「航空機だけでなく、このミサイルや対空機関砲は戦争を変える!ゲームチェンジャーだ!」


長らく対立関係にあるドラゴネストとのこれまでの小競り合いや紛争ではほとんどスチームーが負けており、その理由は航空戦力がない、という事につきる。


スチームーの始まりは、現在第1魔術文明圏と呼ばれている地域から、魔力が少ないとして差別され、移住してきた人々だと言われている


魔術資源と優秀な魔術師に恵まれなかったスチームーは、豊富な石炭資源や鉱物資源を生かし、蒸気機関に代表される機械技術を発達させた。


順調に発展していたが、山岳地帯に国家を建設し領土を広げたドラゴネストと隣接するようになると、他種族を蔑視し尊大な態度を取り、見下す彼らと対立、今に至るという形だ。


そして、ドラゴネストが見境なく他種族にケンカを売っても優位に立ち続けられる理由は、国民の8割を占める竜族は竜に変身し、空を飛び、口からブレスを吐くことができ、それが強大な航空戦力として活躍、ドラゴネストと周辺諸国は今に至るという事だ。



帝都ガヌ・ピピア スチームー外務省


「彼らがここまで発展しているのなら、外交能力もそこらの国家とは比較にならないはず、様々な事が絡む武器輸出交渉は困難を極めると言えるな・・・」


スチームー外務大臣マイケル・リンゼイ・エジャートンは頭を抱えた。


シュル港から送られてきたロシアの概要は、大臣クラスを動かすにも十分な内容であった。


外務省経由で、戦略的価値などの査定のため資料が送られた軍からは、ロシアや地球圏国家からの航空機または防空装備の輸出を可能とするよう強く要望されていた。


「できる限りのの交渉はするが、厳しい内容を突きつけられかねんな・・・」


国交開設の際に変な事は要求されなかった事から、ぶっ飛んだ要求はしてこないだろうが、どのみち兵器という国家機密の塊を輸出して貰うには相当な譲歩が必要と考えられる。


「そういえば、ロシアは機械文明圏内での仲介を我が国に求めていたな。対価という形でなんとかいけるか・・・?」


外務大臣の苦悩は続く。



ロシア連邦 首都モスクワ ロシア外務省


「機械文明圏進出の第一歩は成功したと見るべきだな」


「列強がそうやすやすと国交を結んでくれるか心配だったが、あのクタルとかいう連中が異常なだけだったみたいだな」


ロシア外務省は、今回の対スチームー国交開設交渉が相当な苦労見舞われるだろうと予想していた。


その理由は簡単で、スチームー帝国が、あのクタル同様列強と呼ばれているからである。


列強は自分勝手でかなりプライドの高い連中という先入観がクタルの1件とかつての地球の歴史からついていたロシア含めた地球圏各国からすると、スチームーの対応はイメージとかけ離れたものだった。


スチームーの対応の裏側には、ドラゴネストに対抗するための兵器や技術を輸入するために少しでも印象をよくしておきたいという思惑があったが、これは上手く行っていた。


スチームーの好対応と、その国際的地位から地球圏では機械文明圏内での外交関係の構築はスチームーを窓口にする事が計画されるなどしている。



スチームー外務省シュル港出張所


「なるほど、貴国が兵器を求める理由は、ドラゴネスト天上国という国が原因ですか」


「ええ、ドラゴネストと我が国は、数百年にわたる対立国な上、あちらは航空戦力が潤沢で、我が国ではなかなか歯が立ちません」


「うーむ」


スチームー帝国外務省は、仲介交渉にやって来たロシア連邦の外交官に、スチームーの歴史とドラゴネストと対立している事を説明し、外交仲介や、機械文明圏内での外交問題が起こった際における地球圏の支持などと引き換えに、ロシアから兵器輸出を引き出そうとしていた。


「正直言って、兵器輸出はすぐにはできません。兵器自体があっても、運用体制を整えるなどには数年がかかりますし、即効性もなく、コストも高い」


「やはりそうですか・・・」


「ただし、すぐには出来ないだけで、出来ないわけではありません。ひとまず、近々開催される国際軍事展示会に来てみるのはどうでしょう?様々な兵器が展示されますので、要求に沿ったものが見つかるかもしれませんし。」


「展示会、ですか。わかりました、検討してみましょう。それと、仲介については、将来的な兵器輸出ができるのなら文句はありません。我が国ができる範囲での支援は致します」

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