スチームテクノロジー
第11話
「商人等からの情報によれば産業革命前後の技術力と予想出きるそうだが・・・思考までその時代に染まってなきゃいいな」
ファフィ島でドンパチ戦闘が繰り広げられている反対側では、西の文明圏、機械文明圏への接触を行うべくロシア連邦の数隻の艦隊が西進していた。
アメリカがリードしていたミストラル外交、非文明圏に対し、地理的要因によって機械文明への外交はロシアがリードする事になった。
ウダロイ級駆逐艦1隻を中心にステレグシュチイ級フリゲート3隻が随伴するロシア艦隊は、一路西の大陸を目指した。
スチームー帝国海軍 フロン級装甲艦ヘラア
「あの艦は一体なんなんだ?」
「明らかに本艦より大型ですね・・・」
「最大限の警戒を行え、刺激するんじゃないぞ」
スチームー帝国のフロン級装甲艦ヘラアが率いる艦隊はこれまでスチームー帝国が経験したことのない状態に直面していた。
正面からこちら側に向かって来ている艦はヘラアより大きなものが1隻と、同じ位のものが3隻。
武装はわかる範囲では砲塔に納められたもの大砲が全ての艦に確認でき、その中でも大きな艦には2基の砲塔が搭載されていた。
この世界ではとにかく敵が多い為、非文明圏より発達している機械文明圏でも、見られるのは戦列艦の配置から発達した砲郭式で大量に砲を搭載する事を優先している為、砲塔はほとんど見ることのできない珍しい機構である。
「しかし・・・訳のわからん装備が大量についているな」
大きな艦には斜めに向いた箱を2つも構造物に差し込むように搭載されており、砲塔の前方には4つの円形のフタらしきものが確認できる。いずれも用途は不明。
「拡声魔術道具を使う。所属と目的を問え」
「了解!」
ロシア海軍 ウダロイ級駆逐艦
『こちらはスチームー帝国海軍所属、装甲艦ヘラアである。貴艦隊の所属と目的を通告せよ』
「艦長、ビンゴです」
「返答しろ、今回は騒ぎにならずにすみそうだな」
ヘラアが緊張感を増す一方、ロシアにとってこれは良い出来事だった。
非文明圏では度々侵略と間違われる事もあったが、今回は窓口となってくれそうな船が正面に見える。
「しかし、前ド級戦艦の要素が多く見えるのに、砲の配置はまるで戦列艦に似ているな。手数を求めた結果か?」
「砲配置が途中で変化しているが・・・煙突のせいか?」
「見れば見るほど亀だな・・・」
スチームー帝国海軍 装甲艦ヘラア
『本艦隊はロシア連邦所属である。貴国との国交樹立のための使節団を運んでいる、貴国までの案内を願いたい』
「つまり、あれは外交船ってことか」
「戦争を仕掛けに来たわけじゃないってだけでも十分だ。外交官とおしゃべりをしに来たのならとっとと案内して終わりにするぞ」
外交官を乗せてやって来た船と判明し、一気に緊張がほどけるヘラアの艦橋。
それもその筈、スチームー帝国は列強の一角として捉えられていることもあって、毎日外交官が陸路と海路でやって来る。
海路からの対応は基本的に航続力と経済性に優れる小型~中型の装甲艦が担うことになっており、ヘラアが属するフロン級は、他のスチームー艦と比較すると、地球の戦間期~第二次世界大戦期の軽巡洋艦や、大型の駆逐艦に相当する役割や、コンセプトで開発された艦となる。
同じような艦と共に毎日外交船を裁いているヘラアの乗員にとってしてみれば、そうだと知った途端に、「いつものか」となってしまったわけである。
「我が国同様に鉄の船体を持った船を持つ国か・・・」
「国交開設の交渉に来たそうですが・・・どのような条件を付けますか?」
「今のご時世だ、味方は多い方がいい・・・」
スチームー帝国は隣国のドラゴネスト天上国と対立が激化しており、竜に変身できる竜族が人口の多数を占めるドラゴネスト天上国とは、寒い気候と餌となる鉱物が産出されないこともあってワイバーンが使えない為、航空戦力が皆無なスチームー帝国は劣勢であった。
可能性は低いとはいえ、もし開戦すれば、竜族の高い身体能力と魔力、そして竜に変身できる能力を前に敗北は目に見えており、味方を増やす為に様々な工作を行っていた。
「我が国と同等程度の技術力があるなら、非常に大きな戦力となるはずだ」
「わかりました、そのように手配します」
スチームー帝国 シュル港 ロシア連邦使節団
「随分とスチームパンクな町並みだな・・・まるで小説の世界だ」
港に上陸したロシアの使節団はスチームー帝国の景色に見とれていた。
町中から黒い煙が上がり、むき出しのクランクがせわしなく動き続けていた。
「イギリスのヴィクトリア時代から単純に発展していった、っていう感じかな?」
「まさに小説の世界ですね」
「ああ、空気が少し悪いのが気がかりだが・・・まぁ、空気洗浄技術の輸出先が出来たとでも考えておくか」
ロシア使節団は幻想的な情景の町を眺めながら、スチームー帝国の案内人についていった。
「凄い技術だな・・・まさか高出力のボイラーと蒸気機関をここまで小型化しているとは」
ロシア使節団はスチームー帝国外務省シュル港出張所に展示されている蒸気エンジンを持ち時間の間見学していた。
展示されていたボイラーと蒸気機関を統合したものは700馬力程の出力を持つにも関わらず、本体の大きさはかつて地球に存在したどのボイラーと蒸気機関合わせた大きさよりも小さかった。
石炭は搭載量の増加の為、粉末にされているなど地球では見られない小型化への情熱が垣間見られた。
地球では、主な動力機関が蒸気機関、いわゆる外燃機関から内燃機関へと移った為に、小型化は指向されず、原子力船や、発電目的の大出力、高効率の大型蒸気タービンのみが生き残っていた。
「随分と技術発展が偏重しているが、何か特殊な事情でもあるんだろうか?」
(これはっ・・・。ロシアという国への認識を改めなければならないな)
一方、ロシア使節団の対応を任されたスチームー帝国外交官のサイモンは、ロシア使節団から渡された資料を見て驚いていた。
国土面積はスチームー帝国の5倍近くあり、国内には様々な産業が栄えているらしい。
そして、この資料の中で彼の目に最も強く焼き付いたのは、産業の例の中にある航空機というモノだった。
(空を飛ぶことができる機械!これに機関銃や大砲をつければ、ドラゴネストにも対抗できるかもしれない!すぐにでも同盟を結びたい位の代物だ!)
長年航空戦力が運用出来ず、何度もドラゴネストに苦渋を舐めさせられていたスチームーにとってこの航空機というモノは画期的な兵器だ。
「我が国はロシア国民が貴族法の免除が認められれば、何も言うことはありません」
貴族法・・・貴族の称号を持つ者はある程度の罪であれば許され、逆に平民が不敬な行動を取った場合、不敬罪に処す事ができる法律である。
最高刑は無期懲役と重く、ロシア革命とソ連を経て貴族と平民という概念が消え去ったロシア国民が被害を被る可能性が高いために、ロシアは国交を結ぶ上でこれを無効とすることは重要な要目であった。
他でつけられることが多かった領事裁判権が、スチームー帝国の法律が整っているために削除されている。
(なんとしてでもこちら側に引き込まねば!この技術は貴族法を無効とする条項程度と比べるものですらない!)
「いっ、一端、部署の者と相談しますので、皆様はとりあえずここでお待ちください」
そう言って彼は資料を持ち、部屋を出る。
「なんか慌てているような顔だったが、何かあるのかな?」
「貴族法を無効とする条項がまずかった・・・という感じでは無さそうだな」
「まぁ、あちらにはあちらの事情やら思惑やらがあるんだ。変なのだったりしなけりゃいい」
サイモンの頭の中がロシアをどのようにしてスチームー側に引き込むかと、いかにして政府にロシアの技術の重要性を説くかで埋まっていた事は、スチームーの存在するコール大陸の情勢を知らぬ彼らには知り得ぬ事だった。
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