第10話

「突入!」


ファフィ島、南部遠征本部は壊滅状態に陥っていた。


Mk84の直撃によって生じた混乱と負傷者によって機能が麻痺し、そこへL-ATVと海兵隊員が突入、瞬く間に制圧されていった。


「ホール、クリア!」


司令部が攻略され、数時間後には銃声が鳴りやみ、戦闘は終了した。



ファフィ島 中央道


「伏兵を警戒しろ、どこにいるかわからないからな」


ファフィ島の中央道を進む今回のファフィ島攻略の主力、ロシア陸軍はT-14を先頭に、T-15、K-16が続いていっていた。


そんな彼らを側面の草むらから狙う者がいた。


クタル軍の軽装部隊である。


狩人等に類似した軽い装備と、高い潜伏技術を持っていた彼らは、これまでの格下相手の戦争で敵の後方を撹乱したり、補給部隊の襲撃で成果を上げていた。


「先頭のデカブツから仕留めるぞ。爆裂矢を使え」


クタルでは銃が実用化されているが、マスケット銃を作れる程度の技術力ではサプレッサーのような消音器具は作れないし、魔術を使って消そうにも魔術を使えるような者は漏れなく魔術師の道へと進むため、結局のところ前時代的な弓矢に頼らざるを得なかった。


とはいえ、魔術の派生技術、魔術付与によって衝撃に反応・・・所謂着発信管がついており、爆弾が起爆するようになっていた。


様々な奇襲攻撃の中でも、特に効果のある手法の一つである爆発を行く先々で起こし、士気を低下させると共に、あわよくば爆風や爆炎で敵兵を負傷させようというのが彼らのセオリーであり、今回もそのセオリーに従って攻撃しようというわけだ。


「よし、慎重にねr」



ダダダダダダダダン!!



「ぐあぁっ!」



「敵歩兵排除!」


クタル軍の軽装部隊をサーモグラフィーを利用して発見し、ブーメランク-BMの7.62mm機銃が発射された。


現代では敵をいち早く見つけるため、様々なセンサーで常に策敵活動を行っており、クタル軍のような前時代的でなくとも歩兵はすぐに見つかってしまう。


といっても、先ほどのクタル兵が気づかれずに攻撃できたとしても兵員は全員装甲化された車両の中に居るため、被害は焦げ目がつくだけにとどまっただろうが。


「奴ら、どうやって我々を見つけたのだ・・・?」


サーモグラフィーの発想どころか目視や音以外では策敵する事もしらない時代の住民であるクタル兵は、何分かの議論の末、勘のいい者がおり、それがたまたまあたっただけと判断した。



ファフィ島東岸 バージニア級攻撃型原子力潜水艦


「既に残る敵拠点はこの町だけになりました」


「町の中にある軍事拠点をトマホークを用いて破壊することが本艦の任務です」


「破壊すべき目標は4つ、町内の物資集積所と兵舎、そして城壁の塔2つです」


アメリカ海軍のバージニア級原子力潜水艦は2000年に建造が開始された比較的新しい潜水艦である。


冷戦の終結によって過剰性能・高コストとなってしまったシーウルフ級の代わりに多数を配備できる潜水艦として開発された。


結局はいくつかの新機能等の追加によって価格は高騰してしまったが、それでも従来艦と比べ多機能となっているため、それなりの数が配備されている。


そして今回クラッキー町攻撃の先鋒として、水中からトマホークを発射し、軍事施設の破壊を行うこととなっていた。


「発射!」



ボッ、バシュゥゥゥゥゥゥゥ!!!



水中から勢いよく飛び出たトマホークは様々なセンサーからの情報を受け取り、正確に飛行する。



「お母さん!お母さん!」


「なに?どうしたの?」


「なにかこっちに飛んでくるよ!」


「なにかしら?竜騎士様でも飛んd」



ゴォォォォォォォ!!!



「なに?あれ?」


「すごーい!」


「家に入るわよ」


トマホークは速度が880km/hほどで、そこまで対空ミサイルに対する能力が高いとは言えない。


そのため、基本的にトマホークを用いた攻撃は夜間に行われるのだが、ここには対空ミサイルが存在しないという事で昼夜問わない作戦行動が可能となっていた。


「隊長!隊長!こっちに何か飛んできます!!」


「何が飛んできている!」


「巨大な矢じりのようなものです!すごいスピードでこっちに・・・うわぁっ!」



ボガァァァァァン!!!



城壁上の2つの監視塔に加え、町中の施設も攻撃されたことによって、町ごと大混乱に陥り、収拾がつかなくなった。


そして・・・。



パタタタタタタタタタタタタ



「降下用意!」



ヒュルルルル



「ぐぁっ!」


「ぎぃっやっ!」


CH-53Eから次々とヘリボーンしてきた海兵隊員に対し、大混乱と装備の差の前になす術もなくクタル兵は制圧されていった。


「門上面クリア!」



クラッキー町 門外


「門が開いたぞ!」


「戦車を先頭に侵入!浸透するぞ!」



キュルルルルルルル



「戦車は大通りを直行、それ以外は各自の判断で進行!」


大通りをT-14がまっすぐ進み、それ以外の車両が他の道へと分かれて進んでいく。


「こいつら、撃たれても平気なのか!?」


「あの鉄巨獣、大砲に耐えやがった!どうなっていやがる!?」


大通りでT-14と戦闘しているクタル軍は絶望的な戦況であった。


なんとか無事だった大砲を苦労して引っ張り、前線へようやく配置。


しかし、敵の連射できる銃の攻撃に耐えながら大砲を発射するも「ダン!」という鈍い音と共に砲弾は弾かれ、逆に鉄巨獣についていた大砲の攻撃によって損害を負う始末であった。


「クソッ!奴らどうやってこの町に入ったんだ!?」


ヘリボーンによって迅速に制圧されたために、門の守備隊は報告も入れる事が出来なかったのだ。


「門を爆破してくれ!」


『了解、門に主砲を発射する』



バァン!!



「突入!庁舎を占領するぞ!」


「グレネード!」


圧倒的な装備と戦術の差によってクラッキー町庁舎に居たクタル兵は次々と一瞬の間に殲滅させてゆく。


1発撃つ度に銃口に棒を突っ込み弾を込めなければならなかった時代から、マガジンを変えコッキングするだけでよくなり、防弾チョッキは初期の鉄板を仕込んでいた時代からケブラーへと変化し、食糧は生鮮食材からレトルト食品や缶詰へと変化した。


度重なる合理化と、時間が経つ度に進化の速度を速めた技術力によって武装した地球の軍隊は、地球の歴史から見れば出来てから時間があまりたっていないクタルの軍隊を相手にするにはオーバースペックだったといえよう。


「ーー分、制圧完了。作戦終了です」


1つ、動乱が終わった。


人々はこれからの動乱が、この星だけでなく、故郷地球の未来さえも変えてしまうことになるとは思ってもいない。



ミストラル王国 王城


「やはりアメリカ・ロシアが勝ったか」


「はい、彼らの力は確かなモノです」



スチームー帝国 皇城


「ドラゴネストめ・・・!何度領土を荒らせば気が済む!」


「奴らは我々の事を奴隷の類としか見ていませんから・・・」


「つくづくコール大陸が奴ら竜人に適した火山の多い大陸だったことが悔やまれる・・・クソッ!!!」



神聖ケール王国 王都


「クタルが?奴らついに反乱が起こったか。全く、古臭いタイプの階級制度に頼るからだ」


「いえ、それが・・・」


「何かあるかのか?」


「新興国が占領したという情報もありまして・・・」


「そんなバカなことはないだろう。捨て置け」


ドラゴネスト天上国


「殿下、最近東に我々の許しもなく空を飛ぶ不届き者が居るという噂がながれています」


「何・・・?そのような事をしているやからがおるのか?」


「はい、噂に過ぎませんが、本当であれば大罪。調査する必要があるかと」


「ふむ・・・東は野蛮なやからばかりで気が進まんが、仕方ないな。竜士団から何名か見繕って調査におくるのじゃ」


「はっ」



フィルッツ隷従国


「皆様、計画は順調であります」


「フフフ、そうか、我々が世界の頂点に立つ日も近いという事だな」


「ケール王国から例の件について抗議がきていますが・・・」


「ふん、無視しろ。いずれ奴らは我々の最初の奴隷となるのだからな」


「はっ」


??? ???



「ふふふ、さぁ、ボクの世界の力は、世界に何もできなかった地球とは全然違うよ・・・」



地球 ???


「彼らは・・・勝てるだろうか。あの、その気になれば選ばれし者を大量に作れるようなヤツに」


「信じるしかありません・・・我々が信じるというのはおかしいとも思いますが・・・」


ある者は興味を持ち、ある者は興味をもたず、ある者は邪悪な計画を進め、ある者は祈った。


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