第9話

ボガァァァァァン!!!



「うわぁぁぁ!」


「ワイバーンはまだか!?このままじゃ好き勝手やられるぞ!」


F-35Cが爆撃を開始すると、ファフィ島西部遠征本部は地獄の様相を呈した。


なにせF-35Cが目標とした障害物、いわゆるバリケードの付近で隠れながら敵を迎え打つ予定だった為に、多くの兵士が集まっていたのだ。


そこに爆撃されたのだから爆弾の直接的な攻撃力、それに加えて爆風で吹き飛んだ瓦礫による2次被害も合わせ、クタル軍は大きな被害を負った。


「お、おい!あれ!」


「まさか奴らの陸軍か!?」



キュルルルルルルル、ザッ!



バォォン!!



『命中』


「GO!GO!GO!」


M2A3 ブラッドレー歩兵戦闘車とT-15 重歩兵戦闘車から次々と歩兵が降り、それぞれの歩兵戦闘車と、T-14を盾にしつつ浸透する。



ファフィ島西部遠征本部 駐屯軍


「あいつら、銃を持っているぞ!」


「あのデカイ鉄巨獣をどうにかしてくれ!攻撃が全部あいつに防がれてる!」


「大砲が効かない!魔術師を呼んでくれ!」


「こちら東門!至急魔術師をこっちに・・・クソッ!応答がない!」


クタル兵達は大混乱の中戦っていた。


敵は巨大な鉄の獣を従え、連射できる銃を持って攻撃してきた。


鉄巨獣は大砲を跳ね返す程の防御力を持っており、さらに上部に大砲や銃が付いている。


「後退ー!後退ー!」


遂に指揮をとっていた者がこれ以上の戦闘は全滅に繋がると判断し、後退を指示する。



バォォン!!



「ぐあぁ!」


「急げ!死にたいのか!」


ファフィ島西部遠征本部、東門攻防戦でクタル軍は惨敗した。


そして戦闘は遠征本部内部へと進んでいった。


「東門は既に制圧され、敵軍はこの基地そのものを制圧しつつあります!」


「クソッ・・・仕方ない、逃げるぞ!」



ダンッ!



「手を上げろ!地面に伏せるんだ!」


(遅かったか・・・)


ミラークは、自分の判断が遅かった事を後悔する。


この日、ファフィ島西部遠征本部は陥落した。


(これは・・・なんだ?馬車・・・ではない。馬がいないが、それならここまでどうやってここまでやって来たのだ?まさか自走するのか?そうであるなら、まるで機械文明が持つ機械馬や第1魔術文明圏の魔術風車のようだ)


考察に浸るミラーク、そして彼を含め捕虜となった全員が考察の末たどり着いたのはとにかくこの勢力には勝てないという事だけであった。


「しかし、近世程度の技術力のわりには頑丈で大きな建造物だな。これも魔術とかいう技術が関わっているのかな?」


「そうだろうな、近世の時代、地球の建造物にこんなデカイのはなかった。」


一方、アメリカ・ロシアの兵士も、このクタルという国が地球での近世相当の文明レベルだと聞いていたが、直接見た限りではもう少し上のレベルに達しているように見えた。


これにはこの世界特有の魔術とその派生形の技術が関係していた。


魔術によって重い建築材料を運搬し、魔術から派生した技術の1つ、魔術付与によって強度を高める事によって、クタルの科学技術だけでは建設が困難な建造物も建設出来ていたのだ。


のちにこの技術は地球圏においても大きな活躍を見せるが、それはまた未来のお話。



ファフィ島 クラッキー町 遠征庁


「な、なんだと!?西部遠征本部が正体不明の勢力に占領されただと!?誤報ではないのか?」


「複数の逃亡してきた兵からの情報ですので、真実かと・・・それより、今は迎え撃つ準備を行うべきです。正体不明とはいえ敵は少なくとも奇襲であれば我が軍と戦う能力があります」


「ぐぬぬ、仕方ないか。準備を始めろ、市民には悟られるなよ!」


「はっ!」


ファフィ島に駐屯する軍の4割がこのクラッキー町にあり、さらに城壁も存在する。


いわゆる城塞都市となっているクラッキー町は、ファフィ島の首都として強力な戦闘能力を持っていた。


クラッキー町にいる高官たちは、敵が真っ先にこの都市を落としに来るだろうと考えていた。


なんせファフィ島を人に例えた場合、頭となるのはこのクラッキー町である。


武器を持った人に対し、制限が無いのであれば無力化するのに最も簡単な方法の1つは頭を飛ばすことである。


これは軍事にも当てはまる。


司令官を失った軍隊ほど無力な軍隊は存在せず、戦争を終わらせるにも有効な手段の1つだ。


これは現代軍にも当てはまる事だが、今回は少し事情が違った。



サン・アントニオ級ドック型揚陸艦内


「さて諸君、今後の作戦概要を説明する。我々は先日、コードネーム:フィースト海岸に上陸し、前線拠点を確保した。これによってファフィ島攻略の第1段階が終了した」


ここで海岸とその周辺の衛星写真を写していたスクリーンの画像が切り替わり、ファフィ島全体の衛星写真に切り替わる。


「このように、ファフィ島全体に幾つかの物資集積所(遠征本部の事)があり、それぞれにいくらかの駐屯兵がいる。これらを野放しにしてファフィ島攻略とはいかない。なぜならこのファフィ島はあくまでも敵の前哨地でしかないからな」


ここでスクリーンのフィースト海岸からファフィ島全体にいくつかの矢印が伸びる。


いくつかのの矢印は最後に東の都市・・・クラッキー町にあつまる。


「よって、全ての物資集積所を攻略し、敵の根城とおぼしきこの都市を最後に占領する。各部隊の進路は追って通達する。解散!」



ファフィ島 クラッキー町


クラッキー町の司令部では、複数の士官がファフィ島の地図を囲んでいた。


「島の道路網から考えるに、敵は西南方面から侵攻してくると思われます」


「ふむ、やはり正門側からか」


「そこで、ここに至るまでに複数の伏兵を忍ばせ、敵を混乱させつつ、物資の消耗を促し、敵戦力をそぎます」


「同時に、この中央平原で疲弊した敵軍を迎え撃ち、」


地図を囲んでいるうちの1人が、クラッキー町から南西に行った場所にある平原に地球で言うチェスの駒を置く。


「ここで敵主力を撃破し、西部遠征本部を南部遠征本部の軍で撃破します」


「うむ、皆のもの、今回の戦は本土に悟られぬようにやらねばならん。可及的速やかに片付けるぞ」


「はっ!」


ファフィ島 南部遠征本部


「西部遠征本部が正体不明の軍隊に占領されたらしい」


「それは本当か?第2魔術圏のどこかの国がやってきたのか?」


「いや、全くもって不明らしい」


クタル軍内で共有された西部遠征本部占領の事実だが、そもそもの情報量が無いこともあって兵士達の間で噂が広まって行った。


やれ第2魔術圏の国家だ、やれ反乱軍だと様々な噂が立ったが、どれも真実にたどり着く事はなく立っては消えを繰り返した。


「クラッキーからはもし敵軍がやって来た時に備えておくよう通達が来たがどうする?」


「兵達に気を付けておくよう告知するだけでいいでしょう。そんな大した敵でもないでしょうから」


「まぁ、それもそうだな」


敵軍が大したものではないと軽く判断した彼らは、数時間後に後悔することにはなる。


敵軍が自分達を遥かに上回る力を持つ化け物だったとは、この時の彼らは夢にも思っていなかったが、この後身をもってそれを体験することにはなるのだから。



「こちらボマー、敵基地を視認、攻撃許可を求める」


『こちらCDC、攻撃を許可する』


「了解、攻撃を開始する」


集積所β・・・南部遠征本部を破壊すべく、5機のF/A-18Fスーパーホーネット艦上戦闘攻撃機が次々と降下していく。


死神が幾つもの鎌を持って命を刈り取ろうとしてきている事に、クタルの兵士達が気づいた頃には手遅れだった。



ガコン、ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ



ボガァァァァァン!!!



Mk84爆弾はその威力を遺憾なく発揮し、大きな爆発を引き起こし、回りの物体全てを爆風で吹き飛ばした。


そして、今度は草むらに潜む第2の死神が動き出した。


「爆発を確認!」


「進撃、突入するぞ!」



ブルゥゥン!



ディーゼルエンジンを唸らせたL-ATVが力強く草むらから進撃していく。


「射撃、始め!」

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