第7話
アメリカ・ロシア連合艦隊前方 アーレイ・バーク級駆逐艦 CIC
「依然としてUnknownはE-2Cからの警告を受け入れず」
「旗艦より、6km圏内に入った時点で警告射撃。3km圏内に入った時点で、撃沈せよとのことです」
「相手が殺しに来ていると考えると近いな」
「目に見えなきゃ威嚇する意味がないですからねぇ」
もしここで戦っている相手がクタルではなくロシアや中国であれば、既に対艦ミサイルを打って、さらにそれらがあらかた撃ち落とされたか命中した後だろう。
陸から離れた海域でなければ、空母艦載機と陸地からの支援機が未だ空中で激しい格闘戦を繰り広げているだろう。
しかし今回の相手は18世紀後期程度の相手である。
格下相手の戦争では、いかに被害を出さず短期間に戦争を終わらすかという事も重要になる。
迅速に敵部隊を組織的に降伏させ、敗残兵からのゲリラの発生を阻止し、かつ敵国の継戦能力を叩き潰す。
それでも敵国、正確には敵国の政府が諦めなければ、革命なりを起こし、旧政府を消滅させて新政府を成立させ、相手から戦争をやめさせる。
そうもしなければ、今回の場合1500万という兵力を無力化するには大量虐殺を行うしかなくなってしまう。
「目標視認!」
数時間の間加速し、敵の方向へと進行した双方はついに垣間見得る。
「距離は!?」
「距離6.4km!」
「主砲!発射用意!発射管制は手動!Unknownの手前に着弾させろ!」
「主砲発射用意!発射管制は手動!」
クタル前衛艦隊
「な、なんだぁ?あの鉄の塊」
「知るかよ!」
連合艦隊から先行したアーレイ・バーク級が戦闘準備を整え緊張が走る一方、クタル前衛艦隊20隻にはまだ緩い雰囲気が漂っていた。
無理もない。
彼らに戦闘の緊張が走り始めるのは約3km程からであり、交戦距離はより短い1kmからだ。
クタルの主力艦の搭載するカノン砲の射程距離は1.5km程度だが、命中精度の問題から1km程度で戦闘を行う。
そのため、交戦距離の3倍よりさらに遠い今、クタル艦隊は未だ第2種戦闘配置のままだった。
「うん?なんか今煙を吹き上げなかったか?あの鉄の塊」
「そうか?俺にはなんとも・・・」
「んーー?俺の見ま違いかな?」
「さぁな」
ヒュゥゥゥルルルルルル
「な、なぁ、なんか笛の音がしないか?」
「あ、あぁ、なんだろうn」
ドボォォォォン!!!
「「うわぁぁっっ」」
アメリカ海軍アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の1隻から放たれた砲弾は、前衛艦隊の先頭にたっていた100門級戦列艦「トルヌ」のギリギリの海面に命中した、
「トルヌ」の艦長であるアルベルト・フローレスは突然の謎の攻撃に狼狽する。
「一体何事だ!」
「み、見張りによれば、約20メーフィ先に鉄の塊が浮かんでおり、そこから砲煙と思われる煙が出た数秒後に、例の攻撃が来たとのことです・・・」
「どう言うことだ。我が軍の砲でも6メーフィしか届かん筈だぞ!?しかも、それもただ届くというだけなんだぞ!」
6メーフィ・・・1.5kmという射程距離は、周辺諸国に比べ良質な魔術薬品(火薬)を生産でき、更に優れた職人を大量に抱えているクタルの特権だった。
しかし、敵・・・敵かどうかもわからないが、とにかくこちらに向けて大砲を撃ったヤツは、少なくとも20メーフィ・・・5km先(実際は6km)から撃ってギリギリに当てたのだ。
ギリギリといっても、100mや10m程度ではない。1mもない程度だ。
という事は、当たる当たらないは別として、敵の砲は少なくともクタルの大砲の3倍以上の射程を持つことになる。
(まずい、まずいぞ、これだけの技術力を持つ相手が敵となるなら、相当な被害を覚悟しなければならないぞ)
悪い方向考えが向いていくが、彼はここで有ることを思い出した。
(そういえば、たしか奴らは大砲を1基しか積んでいなかったな。それなら、各艦の間隔を開け、速度を上げればいけるかもしれん。届くといっても決して当たるとは限らんからな)
アメリカ・ロシア連合艦隊前方 アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦 CIC
「Unknown、間隔をあけて速度を上げました。現在Unknown速力18ノット」
「チッ、お相手さんの気には止められなかったか」
「後方よりロシア海軍、ゾウレメンヌイ級1接近、まもなく目視範囲内」
「旗艦より、3km以内にUnknownが侵入した場合、ロシア海軍のゾウレメンヌイ級と連携して殲滅せよとのことです」
「よぉし野郎共!ロシアの130mm連装砲の迫力に負けないようにいくぞぉ!!」
クタル前衛艦隊と相対するアメリカ海軍アーレイ・バーク級の増援として速度を上げて艦隊前方へとやってきたゾウレメンヌイ級駆逐艦は、旧ソ連時代に多数が建造、配備された駆逐艦だ。
AK-130、70口径130mm連装砲を2基、強力な対艦ミサイルであるP-270の4連装発射機を2基、その他多数の武装を有するロシア海軍の主力の一翼を担っている艦である
この北方艦隊所属の艦は956-UA型と呼ばれる転移後に近代化改修を受けたタイプで、3K90 「ウラガーン」ミサイルシステムを、アドミラル・グリゴロヴィチ級と同様の「シュチューリ-1」、AK-630 CIWSをパラシ CIWSに換装し、C4I関連設備の更新等が行われている。
「主砲、Unknown捕捉、追尾中です」
「発射用意、前方のアメリカ駆逐艦の発射にあわせて攻撃を開始する」
「発射用意!」
クタル艦隊
「お、おい!鉄の塊がもう一個出てきたぞ!」
「あいつ、最初のよりデカイ大砲を積んでるぞ!」
ゾウレメンヌイ級1隻が現れた後、クタル前衛艦隊には更なる緊張が走る。
先程の砲撃から数分後に全艦第1種戦闘配置を命じられ、更に艦ごとの間隔を広く取り、魔術師は加速の為の風魔術の用意を命じられた。
「ほ、砲煙確認!」
「始まったか!速度あげい!一気に距離を詰めるぞ!」
(速度を上げれば、大砲の命中率は大幅に下がる。それが偏差を大きく取らねばならない長距離の砲撃なら尚更だ!しかも、こちらは数で圧倒している。いくら長い射程を持っていても、これなら木偶の坊同然だ!)
バガギャボゴォォォン!!
「なっ!?命中しただと!?」
アメリカ・ロシア連合艦隊前方 ゾウレメンヌイ級ミサイル駆逐艦 CIC
「アメリカ駆逐艦、初弾命中!本艦の初弾も命中!」
「対艦弾が切れるまで撃ち続けろ!」
「了解!」
クタル前衛艦隊が、彼らの予想を遥かに超える命中精度に驚く中、ゾウレメンヌイ級の特徴的なシルエットを作り出しているAK-130は、最大発射速度毎分90発という高い連射速度を遺憾なく発揮していた。
アーレイ・バーク級から放たれる127mm砲弾とゾウレメンヌイ級から放たれる130mm砲弾が次々と命中していき、クタル前衛艦隊の帆船は真っ二つになったり誘爆して大爆発を起こしたりと、悲惨な事となっていった。
『こちらE-2D1番機、Unknownの前衛は順調に数を減らしています』
「引き続き監視を続行、交戦していない後衛に気を使え」
『了解、監視を続行する』
両艦隊の前方で戦闘が起こる中、両後衛艦隊も戦闘準備を始めていた。
アメリカ・ロシア連合艦隊からは、既にクタル艦隊は1番機と入れ替わったE-2Dの2番機によって見え見えの存在だった。
「発艦始め!」
キィィィン
F/A-18E艦上戦闘機がカタパルトにつく。
バッシュゥゥン!
カタパルトによってF/A-18E艦上戦闘機勢いよく飛び出し、攻撃進路につく。
艦艇より遥かに高速な為、数分の間にクタル遠征艦艇後衛ーーークタル艦隊主力を目視可能な距離まで接近した。
「全機攻撃用意!」
このF/A-18Eの部隊は、全機がMark77爆弾を搭載していた。
元は対地用ではあるものの、広い効果範囲を持つ為、今回の攻撃に使用する事となった。
「投下!」
ガコン!
「て、敵騎接近!」
「なに!?」
(ど、どこに奴らの基地があった!?魔術師によれば、ワイバーン程の魔力は付近にはちっとも無かったと聞いているのに!?)
クタル後衛艦隊は大混乱に陥っていた。
前衛艦隊の苦戦は伝わっておらず、油断しきっていた所に敵ワイバーン(実際はF/A-18E艦上戦闘機)が襲来したのだ。
彼らとて、これまで自分達のワイバーンに対空攻撃能力の低い敵艦隊がやられていく姿を知っている。
「魔術師!対空攻撃をせんのか!?」
「こ、高度が高すぎる上に速くて当てられないですよ!無理です!」
「な、なんだと・・・」
艦隊の主要、もとい唯一の対空攻撃手段である魔術師だが、F/A-18Eの飛行する高度とスピードについていけず、彼らの放った魔術はむなしく空をよろよろと飛ぶだけだった。
「なにか落ちてくるぞ!」
(まっ、まずい!攻撃が始まったか?)
バァァァァァァァァン!!!!
ふと後ろを向くと、クタル遠征艦隊司令官ムッスクームは、人生でこれまで一度も見たことのない光景を目の当たりにした。
クタル軍人の1人として、訓練等で魔術師団による大規模魔術を見たことは何度もある。
とても大迫力で、これに勝るものはそうそう無いと思っていた。だが彼は今、それを上回るものを見た。
Matk77 爆弾によって多数のクタル艦は炎に包まれた。
ナパーム弾を代替するために開発されたMark77は、1発で10隻以上を消し炭にしていった。
更なる大混乱に陥ったクタル遠征艦隊に、今度は前衛艦隊を始末した2隻と、そこに2隻のアーレイ・バーク級を加えた4隻が艦砲射撃でクタルの残存艦を殲滅していく。
「ああ、ああ、ああ、ああ・・・」
ムッスクームは立ち尽くすしかなかった。
圧倒的な筈だったクタル艦隊は、いまやかつて自分達が滅ぼしてきた国家が最後の抵抗を行っている時と同じような情景だった。
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