第4話

「す、すごいな」


「一体中はどうなってるんだ?」


「あんな兵器があるのか・・・」


ミストラル王国水軍は地球の艦隊の攻撃を見て、その圧倒的な能力差に驚いていた。


アメリカ艦から白く太い矢のようなものが発射されたかと思えば、数秒後には無人島は爆炎に包まれていた。


さらにその後の砲撃も彼らからすれば凄まじいの一言だった。


威力はそこまで多きとはいえないが、恐ろしい速度の連射であり、あの威力の攻撃をこれ程に連続して撃ち込まれては勝ち目はない。


「一体、どんな魔術が使われているのか・・・見当もつかんな」


「まったくです」




「ふむ、アメリカとロシアとかいう奴らは我らの属国になる資格ありだな・・・早速本国に伝えるか、、、うん?」


近くからどなり声が聞こえ、彼は直ぐに聞き耳を立てる。


「ええい!何故やつらはこちらの要求を聞き入れない!」


「話によれば、彼らの領土には魔獣や魔物がいないからだとか」


「そんなバカな話があるわけないだろう!」


「ですが、彼らは頑なに我々の進出を拒んでいます。我らの組織としての構造上、実力行使などのの行動は行えませんし、、、」


フフフ、良いことを聞いたぞ。

ギルドの一部の討伐者は汚れ仕事も請け負うと聞く。

彼ら一人一人の戦闘能力は当てにはならないが、数合わせくらいには使えるはずだ。

やつらの領内で暴れさせるか・・・クックックッ。



アメリカ ロサンゼルス


「ですから、入国はできません」


「なぜだ!私は貴族だぞ!ほら、私が貴族であることを示すダガーがここにある!私をそこらの平民と同じにするな!早くここを通せ!」


「だから、入国にはビザが必要です。またの機会にお越しください」


「なんだと!貴様、私を侮辱しているのか!貴族には強大な魔法力があるのだぞ!私がその気になれば、貴様なんぞ一撃で殺せるのだ!」


「あまり騒ぐと警備を呼びますよ。とにかく、ビザを大使館で発行してもらってください」


「き、貴様ぁ!」


非文明圏国家との国交が拡大してから、アメリカとロシアでは度々、貴族や高ランクギルドメンバーが入国管理局や港で問題を起こしていた。


貴族は多くが観光、ギルドメンバーの多くは仕事を求めてやって来ていた。


ビザというシステムのないこの非文明圏では、貴族は君主から授けれられた物が、ギルドメンバーはギルドから渡される魔道具が証明書として機能しており、一般人は検問を受けて入国するのが普通だった。


しかし、地球圏では、各国の警戒もあってビザが必要である。


非文明圏の文明レベルが低い事もあって、犯罪者やならず者が入ってくる事を危惧した二ヶ国はビザのシステムをそのまま適応。


治安などの維持には成功したが、先ほどのようなやからが続出しているために、各国政府は対策に苦労することになる。



アメリカ合衆国 ニューヨーク 国連安保理


「将来的に、紛争が起こらないとは言えません」


「国連に積極的に新世界国家を取り込む事も必要です」


異世界に転移したことによって国連も変革を求められていた。


新世界に転移したことで実質的に存在意義を失った機関は解体、吸収が進められ、代わりに国連軍の一部組織が常備化されるなど、国連は新世界国家に受け入れ体制を整えていった。


特に国連軍のは段階的に常備軍化を行い、将来的に起こるであろう新世界国家との紛争に備える事が決定された。


ゼレル暦5680年8月

クタル魔人国 魔都ケルリャー


「ほほう、そんな国があったか」


「ええ、船を鉄で作るほど鉱山資源が豊富なようです」


「ふむ、我が国が上位列強に仲間入りするには確かに必要だな。よし、かの国・・・アメリカとロシアと言ったか?」


「はい、アメリカとロシアです」


「彼らを我らの奴隷にせよ。方法は問わぬ、自由にやって参れ」


「はっ!」


クタル魔人国は、スパイからの情報を受け、アメリカとロシアを隷属国とすべく動き出した。


なぜ、彼らは圧倒的な力量差のあるアメリカとロシアにそのような要求をするに至ったか・・・その理由は簡単だ。


スパイは確かにアメリカとロシアの船を見た。


だが、演習は見ていない。


つまり、スパイはアーレイ・バーク級とネウストラシムイ級の武装を、前甲板の砲塔1基のみと勘違いしたのだ。


そして、彼らの戦術教本には大砲とは中々当たらない物と書かれている。


だが、長く技術発展が魔術とそれに類する神秘的な考え方に頼っていた非文明圏では、ライフリングも長弾(円錐形の砲弾の事)も開発されず、結局数打ちゃ当たる戦法が基本になっていた。


水上では、魔術を使って強度、浮力、速力を上げられる事から、地球では120門級が限界だった戦列艦はこの世界では200門級が最大とかなり巨大化していた。


そのような考え方から、1門しか砲を搭載していないアメリカやロシアの艦艇を「ザコ」と断定していたのだ。


もちろん、LCSとネウストラシムイ級に限らず、地球圏の艦艇の主砲は、射程距離、威力、命中精度、全てにおいてクタルの戦列艦を大きく引き離し、さらにミサイルというこの世界からすれば反則まがいの兵器もある。


果たして、クタル魔人国はアメリカとロシアを相手にして、生き残れるのか?



ミストラル王国 王都郊外


「なに?クタルとかいう国の使節が来ている?」


ここはミストラル王国アメリカ・ロシア総合大使館。


「クタル・・・正式名称はクタル魔人国だったかな?」


「はい、資料はこちらに」



クタル魔人国


面積 およそ180万km²

人口 一億前後

政治体制 おそらく寡頭制



「ふむ、ちょいと小さめで人口密度が高いローマみたいなもんか?」


「だとよかったんですがね」


「なにかあるのか?」


「ええ、これをご覧ください」



クタル魔人国に関する各国から調査資料


クタル魔人国(以下クタル)は、非文明圏国家としては高い技術力と軍事力をもってして他非文明圏国家に対し、地球に置ける植民地化を強要するなど、帝国主義的な面が大きくみられることが各国からの情報収集によって判明しました。


技術力は地球基準で19世紀最初期ほどながら、新世界特有の技術『魔法』によって、実質的には19世紀後期には及ばないものの、ギリギリ中期に達する程度と考えられます。


軍事力については、具体的な数字は得られなかったものの、少なくとも1000万を超える兵士がいるとされ、数の上では圧倒的です。


しかし、武器はマッチロック式マスケット銃(火縄銃)が中心であり、航空戦力は最高速度250km/hほどな上、行動範囲が非常に狭いワイバーンが主力であるなど、我々に勝る点は見当たりませんでした。


また、クタル特有の身分制度が存在する事が判明しており、非常に厳しい身分制度であり、そのシステム上、上の身分に上がることは不可能だそうです。


現在、身分制度の詳細な情報を含めた文化等を調査中です。



「19世紀のヨーロッパみたいなもんか・・・なまじ国がデカイ分厄介だな」


「今回我々に接触したのも、単に関係を持ちたいだけではないかと」


「面倒そうだな・・・」



来賓室


「フン・・・列強であるクタルの使節を待たせるとは・・・無礼な」


「私は予定表に書かれていない事に弱くてね」


「フン・・・まぁいい。今日私は哀れな日々を送る下等種族の貴様らに我らクタルの慈悲を伝えにきた」


そう言うと彼は一枚の紙を大使に差し出す。


「どれどr・・・」



一つ、アメリカとロシアはクタルに対し、毎年、クタルの指定する数の奴隷を差し出すこと。


一つ、アメリカとロシアはクタルの求めに応じ、資源を差し出すこと。


一つ、アメリカとロシアの国王はクタルより派遣された者すること。


以上三つを認めれば、クタルはアメリカとロシアを我らの保護国と認めよう。



「・・・」


「どうだ?素晴らしすぎて驚いているのか?」


「ハッハッハ!」


ビリビリ、ビリビリ、ビリビリ、ビリビリ


大使は笑いながらクタル使節の差し出した紙を破る。


それも、乱雑に、細かく。


「な、き、貴様!何をする!」


「いやぁ、このとても素晴らしい文書に感激しましてね。


最高の敬意を持って対応させて頂きました」


「何だと!貴様!この私を侮辱しているのか!」


「いやぁ、このような提案を自国より遥かに弱い国から提示されるとは、いい経験になりました」


「き、き、貴様ぁっ!我がクタルは列強ぞ!本来なら、貴様なんぞ奴隷以下の存在なんだぞ!それを、慈悲深い我らは許してやろうというのに、貴様らはそれもわからんか!」


「このような要求をしておいて慈悲深いとは、笑えますなぁ」


「貴様っ!もういい!お前らは今年中にこの世から消えることになるだろう!覚悟しておけ!」



バタン



使節はドカドカと音をたてながら来賓室を出ていく。

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