第3話

 アイツばっかり何なのよ……朝陽と美空との婚約パーティーに列席して以降、蒼の心は乱れていた。今や没落令嬢となっているはずの美空は、昔と変わらず心優しく美しい女性であるため友人知己に恵まれている。一方の蒼は実家が一流企業の仲間入りをしても、美空のようにはいかなかった。

 外見は金さえあればいくらでも美しく磨けるが、心はお金をかけても満たされず、隙間がどんどん大きくなっていく。友人といっても実家の地位、名誉、財産目当てに群がる取り巻きのような連中で、消耗品が如くどんどん入れ替わっていた。家庭内も名声が上がるにつれて荒んでいき、不倫三昧の両親に金で価値を決めるようになったきょうだいたちにも嫌気がさす。

 実家が倒産して貧乏生活を経験しても、同級生の美空は一切腐ることなく周囲に優しかった。持ち物が粗末になっても所作も笑顔も美しいままだ。蒼にとってそんな彼女の姿が眩しく羨ましく感じ、嫉妬からくるいたずら心で私物を隠したり捨てたりした。

 そうしたところで状況は全く変わらず、くだらない難癖を付けたり嫌な役目を押し付けたりと行動は徐々にエスカレートさせていった。そんなことをしていくうちに不良と呼ばれる連中が集まるようになり、裏番長的に金をちらつかせて彼らを操っていた。

 それで得る快楽も一時的なもので、しまいには手下たちが暴徒化して刑事事件を起こすようになった。捜査の手が自身に及ぶことを恐れた蒼は責任逃れを画策し、両親を頼って事件を揉み消してもらった。

 しかしそれで招魂が治るわけでもなく、懲りずに美空の恋人にちょっかいをかけて寝取っていった。美空は男性との交際にも程よく真面目だったので好意を持つ男性も多く、片思いをしている者に悪口を吹聴して評判を落とす画策もした。

 成人してからも悪癖は変わらず、美空が大学時代から交際を続けていた日向をターゲットに色仕掛けをするも彼には全く通用しなかった。ただその邪魔立てのせいで二人の関係はこじれ、結果破局を迎えることとなった。

 日向を恋人にするのは叶わなかったが、これまで何があっても平然とかわしているように見えていた美空が初めて涙を見せた。いつか必ず泣きっ面を拝んでやると始めたいたずらが達成された形となるが、予想に反し達成感は全く感じなかった。

 あまりの虚しさに一時期距離を取っていた蒼だが、美空の婚約が決まったと風の便りが耳に入る。しかもお相手が月島商事の御曹司と知ったことで、再び宿った黒い感情に支配され始めていく。

「落ちぶれ者のくせに……!」

 蒼は数年振りに美空へ刃を向け、朝陽を奪い取る算用をはじく。彼女は過去に痛感した虚しさをすっかり忘れ、心そのものは全く成長していなかった。

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