第17話
祐介は,次の日も,学校が終わると,すぐに海岸へ向かった。
綾乃は,顔色が随分良くなり,起き上がれるくらい体力は,戻っていた。
「なんか,元気そうだね。」
祐介が嬉しそうに言った。
「うーん,大分良くなっているけど,良くなればなるほど,体が変わるから…。」
綾乃がいやそうに自分の腕を持ち上げ,祐介に見せた。鱗ができていて、ヒレも生えていた。
「あなたは,これでいいのよ!」
綾乃の母親が急に娘の手を握って,言った。
「変わろうとしなくてもいいの!」
「…ちょっと触っていい?」
祐介が訊いた。
「え!?」
綾乃がドギマギした。
「…この子って,本当に人間!?」
綾乃の母親も,驚きを隠さなかった。
「…すみません。」
祐介が恥ずかしそうにうつむいた。
「いいよ。」
綾乃が突然言った。
「いいの?」
祐介は,ためらった。
「いいって言っているでしょう?」
綾乃が自分の手を祐介に差し出した。
綾乃の母親は,無言で二人の様子を見守った。
祐介が恐る恐る綾乃の手や腕に触れてみた。初めての感触だった。
「気持ち悪いでしょう?」
綾乃が祐介に言った。
「気持ち悪くはないよ。」
祐介が首を横に振って,言った。
綾乃の母親は,感心したように突然言った。
「本当に,いい子だね,あなたは。」
「どうしてまだ人間ですか?」
祐介がずっと抱いている疑問を口に出してみた。
「綾乃は,まだ海には入れないし,この洞窟の中を動き回るには,この体の方が楽だから。」
綾乃の母親が説明した。
「ほら,認めた!人間の体の方がいいって。」
「綾乃,違うよ。ただ,あなたがまた逃げたりしたら追いかけないといけないし,もう尻尾を切ったりしたくないから。
本当は,今すぐでも人魚の体になりたいよ。」
「なら,なったら?私は,もう逃げられないし。」
綾乃が暗い顔をして言った。
「そう?」
綾乃の母親が尋ねた。
「足も変わっている?」
祐介が訊いた。
「うーん,まだだけど,変わり始める前に使えなくなるよ。今は,全然動けない状態。」
「この人間の子がいるから,今はやめとくわ。」
綾乃の母親が言った。
「いいのに…別にいいよね?」
綾乃が祐介に言った。
祐介は,何とも答えられなかった。ダメだとは言いたくないけれど,人魚を見たことがないから,いいとも言えなかった。自分が怖くなったり驚いたりしたら,綾乃の母親に迷惑をかけることになるし,それを避けたかった。
「まあ,慣れてもらった方がいいかもね。これからも,見舞いに来てくれるなら。」
綾乃の母親がそう言ってから,海に飛び込んだ。
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