第6話
綾乃は,誰もいない我が家へ戻り,一人で中に入って,着替えた。着替えながら,自分の体を調べた。大きな変化はないが,確実に,少しずつ人魚の体に近づいている。海斗のようになるまで,どのくらい時間は残っているのだろう?考えるだけで,ゾッとした。
綾乃は,その日から毎日体を入念に調べた。毎日,何らかの変化はあった。最初は,これが恐ろしく感じたが,毎日見ていると,止められないと諦めがついた。
一人で,ここでジタバタしていても,意味はない。学校に行くのも怖くて,行けていないし,母親が言う通り,人間ではない。ここにいても,しょうがない。
母親に自分の体を見せようか,考えた。でも,見せたら,きっと海で一緒に暮らすことになる。それが嫌だ。海では,暮らしたくない。
ある日,祐介が,綾乃が学校に来ないから,心配して訪ねて来た。
「海斗は?大丈夫?」
「あれから会ってないから、知らない。会いたいとか,話したいとか言ってくるけど,断っている。」
「何で?なんで避けるの?」
綾乃は,黙り込んだ。
「怖い?」
綾乃は,頷いた。「怖いよ。」
「でも,なんで?」
「あれになるのが怖い。嫌だ。海斗と同じように,あの生き物になるのが怖い。」
「でも,ならないでしょう?綾乃は,人間でしょう?だから,お父さんが…?」
綾乃は,何も言わずに,服の袖を捲り上げ,裕太に見せた。
裕太は驚いた。海斗を助けた時に,見たものほどではないが,綾乃の腕の中から鰭が生えていた。鱗もたくさん出来ていた。
「父が出て行って,少ししてから腕から始まって,今はもう身体中に広がっている…母にも,海斗にも,言っていない。私だけの秘密だ。」
「言った方がいいんじゃない?助けてくれるんじゃない?」
「海に住まされるだけだよ。だから,言っていない。海には,住みたくない。ここが好き。」
「でも,海斗みたいに,ある日いきなり,ああなるんじゃない?」
綾乃が悲しそうに頷いて,呟いた。
「だから,怖いの。」
「怖くなくてもいいんじゃない?一人じゃないし。」
「一人だよ…。」
「お母さんと海斗がいるでしょう?…後,僕も。」
「これ見ても,怖くないの?」
綾乃がまた自分の腕を見せて来た。
「怖くないよ…綾乃が人魚でも,僕は逃げないよ。」
「…ありがとう。でも,私は,嫌だ。」
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