第3話

ある日,海斗は,朝からおかしかった。

「足は,思うように動かない。おかしい。」と呟きながら,学校にいく準備をしていた。


綾乃は,兄の様子が気になり,母親を呼びに行った。海斗も、綾乃に連れられて,渋々海辺まで母親に会いに行った。


海斗の体を調べると、母親が心配そうに言った。

「今日は,学校に行くのをやめといて。ここで,様子を見よう。」


「今日は,大事なプレゼンがあるから,行かないといけないよ。」


「プレゼンなんか,どうでもいいのに!」

綾乃が兄を叱った。


「海斗,体の変化は,かなり進んでいるし,いよいよだと思うの…今日は,学校には,行かないで。帰って来れなくなるかもしれない。」

母親が一生懸命息子を引き止めようとした。


「いきなり歩けなくなったりすることは,ないだろうし,まだ大丈夫。」

海斗は,そう言って,家の方へと歩き出した。


「決めつけない方がいいんじゃない?」

綾乃が言った。


「いきなりかもしれないよ。お願い,今日は行かないで!何かあっても,私は助けに行けないから。」

母親が娘に訴えた。


「大丈夫。」

海斗は,母親と綾乃に背を向けて,とうとう歩き去った。


「綾乃,お願い!何とかして,連れ戻して!本当に,危ないの!お願い!」

綾乃の母親が綾乃に必死な顔で頼んだ。母がこの顔をするのを,綾乃は初めて見た。父が出て行っても,この顔はしなかった。これは,ただごとではないということが母の表情や口調から,すぐに綾乃に伝わった。


綾乃は,頷いた。

「話してみる。」


綾乃が浜辺を離れて,走って,兄を探しに行った。

「カイ,お母さんが言うように,今日休んだら?」


「いやだ。」


「でも…。」


「学校に通えなくなるまで,どのくらい時間があるかわからないけど,ギリギリまで行くと決めている。だから,止めないで。」


綾乃がこう言われると,それ以上何も言えなくなった。


その日,綾乃と海斗は,全く会話せずに,登校した。

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