第2話
綾乃は,前から他の女の子とは,どこか違うと気づいていた。まさか,あのような秘密を持っているとは,想像もしなかったが,綾乃と海斗の秘密を知ると,ひくどころか,彼女にますます惹かれていくばかりだ。綾乃の秘密よりも,その自分に驚いた。
海斗と一緒にいる時は,とても近寄る気にはなれなかったが,一人でいる時に,積極的に,声をかけたりするようになった。綾乃は,最初警戒して,僕がどんなに頑張っても,あまり話してくれなかったが,僕を信用できると判断したのか,いつからか,打ち解けてよく話してくれるようになった。
僕ら,海斗と綾乃だけの特別な世界に一歩でも入れて,嬉しかった。
綾乃は,いろんなことを話してくれた。
父が出て行って,今は海斗と二人であのぼろぼろの家で暮らしていること。人魚の母親が毎日二人の様子を見に来ること。
ある日,海斗の様子がおかしいことに気づいて,綾乃に訳を聞いてみた。これまでの海斗は,いつも人に囲まれていたのに,その日はみんなと距離を置き,落ち込んでいる感じがした。
綾乃は,少し迷ってから,慎重に言った。
「カイは,最近体が変わっていて,怖いから…。」
綾乃は,兄のことをいつも「カイ」と呼んでいる。
「体が変わっているって,どう言うこと?」
「だから…母は,人魚だから…。」
「海斗も,人魚になるの!?」
「…わからないけど,母は,多分そうなると言っている。」
「え!?」
「だいぶ前に始まったことだけど,最近その…体の変化が目立つようになって,これ以上変わると,困るって,最近母に怒ってばかり。」
「で?綾乃は,大丈夫なの!?」
「何が?…あー,私は…大丈夫だよ。」
綾乃は,自信なさげに答えた。
すると,海斗が二人の前に現れた。
「なんで綾乃といるんだ!?もう近づくなって言ったはずだけど!」
「カイ,大丈夫!誰にも話していないし,信頼できる!」
綾乃が祐介を庇った。
「お母さんも,お父さんを信じられると思ったけど,違った。」
海斗がそう言い捨てて,歩き去った。
海斗の体が最初変わり始めた時に、父親が出て行ったことを後で綾乃から聞かされた。奥さんが人魚でも,子供は人間だと思い込んでいたようで、違うとわかると,怒り出したそうだ。
「そして、私を一緒に連れ出そうとしたよ。「この子は,まだ変わっていないから,今のうちに海から離れたところに連れていく」と言って。」
「酷い親父だなぁ。」
「…酷いかな?私も,父の立場なら,嫌だと思う。」
「なんで?」
「だって,子供とは,血で繋がっているから,同じであって欲しいじゃない?せっかく子供が産まれたと言うのに,猫だったら,ガッカリするでしょう?」
「猫とかとは,また違うでしょう?綾乃は,お母さんのことをそういう風に思っているの?動物みたいに。」
「思っていない,母親だから。でも,父は,そう思っているんじゃないのかな…。」
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