第16話 種植

 孤児院の子ども達に焼きトウモロコシと蒸かし芋は受け入れられた。まぁ普段から空腹気味の子ども達で、空腹は最大の調味料とも言われてるからな。


「ルークス様、子ども用の小さいスコップはわかるのですが、この魚はどうするのです?痛み始めているので食用にはできないですが」


 ルビン会長が聞いてきた。


「ああ、その魚は肥料として使う。トウモロコシの種と一緒に植えるというか埋める」


 さすがに現代日本のような科学肥料は用意できないからな。魚を肥料にする。トウモロコシのたね三粒で魚一匹使う計算だから結構多い。縦60cm、横30cmの間隔で魚を埋めてその上にトウモロコシの種を植える。植える時に土を被せる。被せる土が多すぎると発芽に問題がでるし、少ないと野生動物が魚の匂いで食べにくる可能性もある。理想は4cmくらいの柔らかい土を被せる。


 子ども達は楽しそうに植えている。娯楽が少ないから、普段と違うことをするだけでも楽しいのだろう。


「トウモロコシの種と魚は終わったけど、続きは明日だな」


 さすがに子ども達で一ヘクタールの土地の仕事は一日では終わらない。というか連作障害を考えると休耕地の場所も必要だから全部使うわけじゃないけど。明日はジャガイモとサツマイモを中心にやるか。明日は魚は必要ない、というかジャガイモは高温多湿の環境になると疫病が発生する可能性があるから逆に水分が多すぎる方が問題がある。


 ジャガイモは50gを超える種芋は二等分する。といっても計量する方法なんてないから適当だ。包丁で二等分するだけだし。ただ切り口を灰に付けて乾燥させておく。石灰があれば理想だけど、そんなものはない。


「ルークス様、ありがとうございます。ここまでして戴いて」


「リーゼ院長、気にしないでください。私は自分の為にやっているので」


 孤児院に寄付するのは、その場しのぎにしかならない。それに寄付も最初の数回はともかく定期的にする必要に迫られたら、財政を圧迫する。かといって放置して餓死者が出たらそこから疫病が発生する可能性もある。結局簡単な農作業をやってもらうのが効率的だ。子ども達に林檎リンゴ葡萄ブドウの収穫は難しい。木に果実が成ると子ども達の身長では届かない可能性があるし、樹木を育てるとなると収穫まで三年はみないといけない。さすがにそこまで待てない。まぁ果実は領主の直轄地でやろう。というか三年で収入になったら早いほうだ。ここが最前線の領地でなかったら長期計画もありなんだが、いかんせん戦争が流動的だからな。

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