第17話 富領強兵

「本を読みたい」


 ルークスは部屋で独り言を呟いた。


「印刷技術どころか紙が高価な状況では贅沢な話か」


 それでもルークスの家は貴族なので多少の本はあった。幼い頃は文字が読めず、学園に入る頃には勉強などしない性格になっていたのでほとんど読んでいなかったが。


「かといって今から本なんか取り寄せたらいくらかかるかわかったもんじゃないしな。所有するのは無理でもどこからか借りることはできないかな?気に入った部分や役に立つ情報は書き写せばいいし」


「紙の生産を公共事業としてやるか?……少なくとも今は駄目だな。食糧生産が最優先で、鐙とリバーシの生産を既に事業として活動している。人手も資金も足りない」


 資金の方は上記の売上が好調だからいずれ目処は付きそうだが。というかルビン商会に売った贅沢品の売上がまだ残っていると言ってたな。


「金銀財宝に囲まれる生活よりは小説やゲームに囲まれる生活をしたい。もっと正確に言うと美味しいものを食べて娯楽最優先で生活したい」


 テレビゲームやインターネットはこの国にはない。電気が自由に使えない文明だと娯楽に制限を受けるな。まぁそれは別に娯楽に限った話ではないけど。


「というか娯楽うんぬんの前に目の前の戦争をなんとかしないと自分の命さえ危うい状況なんだけどな。ある程度落ち着いてくれないと紙の生産は無理だな。まぁ衣食住が最優先だ……王都に戻って実家から本を借りるか?問題はどんな本があるか把握してない点とそのためだけに帰郷してローラント地方の防衛を疎かにするのは領主に任命されたばかりの人物がすることではない点だ」


 訓練所に行けばある程度の書類や本はあるかな?少なくとも多少は軍事関連の物は置いてあるだろう。


「まぁ後で様子を見に行くか。鐙とリバーシの生産が他の商会に真似され始めたら将棋の生産でも始めるかな?」


 まずは簡単に作れる物で収入を確保しよう。簡単に作れるから他の商会でも真似されるわけだが。囲碁とチェスも作るか?人手が足りないから将棋の後だけど。ただ囲碁とチェスは前世でやってないから細かいルールを知らない。まぁこの世界では誰も知らないからオリジナルルールでやってもいいか。その場合は囲碁もどきとチェスもどきになるから名前を変えればいいか。


「というかまだリバーシは販売してないな。どのくらい在庫を確保しましたから売るつもりなのかな?倉庫との兼ね合いもあるだろうけど。在庫を過剰に抱えたら不良在庫になるし、かといって生産を絞れば他の商会に利益を取られる。まぁこれに関しては素人の自分が何か言うよりルビン商会に任せた方がいいか」


 まずは富国強兵だ。いや国じゃなくて領地だから富領強兵かな?

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