第15話 孤児院の状況

「あなたがリーゼ院長ですか?」


「は、はい」


 ルークスは孤児院の院長のリーゼと会話をしている。彼女はどうやら二十四才らしい。


「ああ、そんなに緊張しないでください。今日はお礼とちょっと質問があるだけですから」


 ルークスはそう言っているが、現ローラント地方領主で総司令の立場の人に対して一般人が緊張するなというのは無理な話である。


「お礼?」


「ここの孤児院から雇った使用人の方たちは良く働いてくれていますので。質問はこの間のクレートの戦いの後で、ここの孤児院で保護した孤児増えてませんか?」


 考えてみれば当たり前の話でクレートの戦いは勝利したとはいえ味方だけで五百人近い犠牲者が出ている。その分孤児が増えるのは当然だ。


「確かに増えています」


「その増えた人を含めて今の寄付金だけで子ども達全員養うことができます?」


「そ、それは……」


「難しいのではないですか?」


「恥ずかしい話なのですが……」


「ローラント地方領主になってしまったので、ここの孤児院だけに寄付をすることはできない。やるならローラント地方全ての孤児院に寄付しないと不公平ですから。とはいえのんびりして、ここの生活が困窮して子ども達が盗賊やスリの常習犯になっても治安の面で問題になる」


 そんなことになれば治安維持の出費が増加する。


「で、では、どうするおつもりで?」


「孤児院の近くに1ヘクタールほどの農地があります。今は管理する人がいないので荒れています。そこの農地を貸します」


「よろしいのですか?」


「もちろん、土地の貸し出しですから無料ではありません。しかし、孤児院であることを加味して収穫の一割を税金として納めてくれればよしとします。税金と言いましたが、物納でも問題ないようにしましょう」


「……領主様」


「ただ、少し工夫がいる」


「えっ?」


「あの農地は水路から遠く小麦を育てるには水不足になる。子ども達の体力で川から水運ぶのは大変だ。まぁだから管理する人がいない状態で荒れているのだが」


「じゃ、じゃあ」


「というわけで小麦より乾燥に強い、ジャガイモとサツマイモとトマトとトウモロコシを作ってもらう。四種類作れば疫病を考えても全滅することはないだろう」


「えっ、えっと」


「ああ、この国ではあまり馴染みがないですね。まず子ども達に食べてもらいましょうか?自分たちが何を育てるか理解すればモチベーションも違うかもしれません」


「えっでも、今は孤児院は困窮というか厳しい状態ですから調味料は塩しかありませんよ?」


「それならトウモロコシの塩焼きとジャガイモを蒸かして塩で味付けをしましょう。サツマイモは蒸かすだけでも甘いので」


とりあえず孤児院を後にする。


「ルビン会長明日トウモロコシとジャガイモとサツマイモとトマトを孤児院に持って来てくれ」


「それはかまいませんが、本当にこんなに輸入してよろしかったので?」


「ジャガイモとサツマイモはそれぞれ100kg、トマトとトウモロコシは種子を50kgほどだろ?トリスタニア国ではあまり馴染みがないからたいした値段もついてない。まぁ高くないからこそ大量に買えたわけだが。それに個人としては大量だが領主の輸入としては少ない。小麦よりも乾燥等には強いから大丈夫だとは思うが気候や土壌の質で上手く育たない可能性もある。クレートの戦いの前に買った土地で無事に育つかどうかの実験をする」


「そこまで考えてましたか。しかし、仮に上手に育ってもそれが民衆に受け入れられるかは別問題ですが」


「それはそうだな。今までの食文化が領主が育てた、という理由だけで否定されるわけはないからな。ただ、今は戦争中だ。日々増える孤児の食糧だけでも確保しないとな」


「それはまぁ孤児院では贅沢を言ってる場合ではないでしょうが……」


「贅沢をしてもらう必要はないが栄養失調で病気が流行るのも出費が嵩む。結局健康に過ごしてもらうのが理想だ」


「ルークス様はスラム街になるのを避けたいのですな」


「そうだな。スラム街になるのとローラント地方で疫病が流行るのは避けたい」


 自国や自分の領土で疫病が流行って欲しい領主はほぼいないだろうけどな。

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