第14話 鐙と新商品

 一応順調と言えるのか?ルークスは思った。


 ゴルゴダルラ軍を敗退させ、ローラント地方領主になり、評判は上々。あぶみの売上もそれなり。


 そんなことをルークスは部屋で考えていた。


「ルークスお兄ちゃん遊ぼう?」


 メイドの一人ミリアが話しかけてきた。メイドとして雇ったのは事実だか、最年少の七歳なので基本的には誰かのお手伝いをしている。多分暇になって遊びにきたのだろう。まぁ遊び相手になるのはかまわない。


「いいよ。何して遊ぶ?」


「リバーシ」


 どうやらこの前に教えたリバーシがお気に入りのようだ。しかし自分で盤と駒を作ったものだから不揃いだ。もう少し上手にというか綺麗に作りたいな。ミリアはそんなことは気にせず純粋に楽しんでいたが。


 グレバトスがやってきた。


「どうした?」


「ルビン会長がお見えになられました」


「思ったより早かったな。ミリアすまない。また後で遊ぼう」


「うん。ルークスお兄ちゃんまた後でね」


「ルークス様これは何をやっているので?」


 ルビン会長が聞いてきた。


「ああ、リバーシというゲームだ。ルビン会長もやってみるか?」


 簡単にルールを説明する。


「これはおもしろいゲームですな」


「なんならルビン商会で扱うかい?商品化するならもう少し形を整える必要があるけど」


「鐙と同じように売上の三割で?」


「そうだな。それでいいぞ」


「で、鐙の件ですが」


「そろそろ王都でも売るか?」


「わかりましたか……ルークス様は洞察に優れていますな」


「褒められて悪い気はしないが、お世辞は言わなくてもいいぞ。……国王の直轄の軍よりローラント地方軍の方が装備が優れている。……下手をすると反逆者として疑われるかもしれない。そうなるよりはましだろう。特に私は王都や学園では評判が悪いからな」


「つまり反対はしないのですね?」


「反対はしないよ。売れれば少なくとも収入が増えるのだから」


「では王都でも売りますね」


「営業をかけるのか国王や宰相に献上するのかは任せる。ただ……そうだなローラント地方よりは少しだけでも高い金額を設定してくれ。王都で独占されてローラント地方の守備が疎かになるのは困る」


「そういうことなら最初は二倍以上の金額を提示しておきましょう。売れないなら徐々に値下げをすればいいですし、それでも売れるようなら品薄になるでしょうから必然的に値上がりするでしょう」


「まぁ、その辺は任せる。今ならゴルゴダルラ軍は打撃を受けたばかりだ。また、すぐに同じだけの軍勢を繰り出すのには時間がかかるはずだ。勿論警戒はするが、鐙の一部を王都で売るぐらいは問題ないだろう」


「……というかルークス様は防衛に鐙ほとんど使ってないではないですか?」


「そう言えばそうだったな。自分で作っておいて、一部の連絡係に使わせただけだったな。それはともかく鐙はしばらくは国内販売に留めて置くとして、リバーシは別に諸外国に売ってもかまわないぞ」


「……どちらにせよ。リバーシもしばらくは国内優先で販売します。リバーシはやろうと思えばコピーするのは簡単です。諸外国に売ったとして最初の内はともかく、トリスタニア国より国力がある国に真似されては利益が覚束なくなる恐れがありますので」


「それはそうだが、何か解決策があるのか?」


「ルークス様の発案なんですからまず、アトカーシャ家の紋章を刻印しましょう。ここからはルークス様の許可も必要ですがルビン商会の刻印もするのです。両方の刻印が無ければそれは模造品ということになります。国内である程度流通して、二つの刻印があることが当たり前になった所で諸外国に売るのです」


「なるほど」


「また、その間に在庫を確保します。真似するとしても少しは時間がかかるはずですから、その間に売り抜けます。現状鐙作りに人手を取られてリバーシの生産は後回しになりますし」


「ああ、人手が足りないのか。さすがに戦争に関する鐙が優先だな。ただリバーシは鐙ほど複雑じゃないから鐙は作れなくてもリバーシなら作れるという人もいるだろうから、その人を使って少しずつ作っていけばいい」


「それはそうですが、鐙もしばらくは国内販売に留めて置くとはどういう意味です?トリスタニア国で独占した方が良いのでは?」


「もちろん。だがそれは理想だ。王都で鐙が流行した場合、諸外国にも情報が流れるだろう?外国人の入国を完全排除でもしない限り。だったら真似されて作られるよりはこちらから売り付けて少しでも利益を確保した方が良いと思わないか?」


「あ」


「それとも王都で流行させながら情報統制を完全に制御して諸外国への影響を遮断できるか?」


「それはさすがに無理でしょう。数ヶ月程度で良ければともかく、情報統制を継続するのは難題です。それに情報統制は我々の管轄ではなく政治で決める話です」


「だからな、売るにしても質の悪いやつを売って、国内の数倍の値段をつければいい。……とは言うもののもしかしたら国王や直轄軍から諸外国への販売は禁止されるかもしれないけどな」


「政治的な理由ですか?」


「我々だって自国で独占出来た方がいいと思っているのだ。国王陛下や宰相が同じように考えても不思議じゃないだろう?」


「確かにそうですが」


「結局結論は粗悪品を諸外国に、良品は国内にしかならない。外国への販売が禁止されたらそれを理由に高くトリスタニア国に買ってもらうか。といっても鐙が採用されるかどうかは」


「王都の政治か軍事次第ですが」


「まぁ、ローラント地方で軍馬の数だけは買うから不良在庫の山にはならないぞ。とりあえず一度王都でアプローチをかけて拒否されたらローラント地方軍で独占、採用されたら二倍の値段で売る」


「結論はそれですな」

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