第5話 出発

 出発の日になった。いや、そう決めたのは自分だから出発の日にしたという方が正確か。それにしても馬車10台、護衛100人は多くないか?


「何をおっしゃいます。兵士ならまだしも今回は総司令官として任命されたのです。ある程度の見栄は必要です」


 グレバトスは力説した。現地到着までに盗賊や敵兵に襲われてケガでもしようものなら問題になるし、当然と言えば当然か。今この馬車には自分と執事のグレバトスとなぜかメイドのレザレスが乗っている。



 ルークスは理解していないがグレバトスは大層驚いていた。顔にこそ表れていないが内心ではひっくり返りそうな勢いである。



(素直に了承した!? 馬鹿な。癇癪を起こして逃げ出すものばかりだと思っていたのに……?)




 色々と考えてしまうグレバトス。それも仕方のない事だ。長年仕えてきたグレバトスはルークスの性格を熟知している。いや、今までのルークスの性格ならそうしている。


 今のルークスは不自然なほど落ち着いている。とても戦場に向かう人物とは思えない。……例え普通に真面目な人物だとしても戦場に向かうならもう少しそわそわしてそうなものだ。


 まさかゴルゴダルラ軍と内通?いや、しかしそんな策略に長けた人物なら学園追放などあり得ないし、そもそも内通みたいなことを考えているならもっと焦るだろう。少なくとも今までのルークスは演技などできる性格ではなかったはずだ。今までの癇癪をすべて演技だと考えるのはさすがに無理がある。


 レザレスはそのために来ていた。ルークス宛に手紙が届いた場合先に読んで内容を把握するように命令されていた。もっとも最近はルビン商会とのやり取りしかルークス自身はしていなかったが。


 グレバトスだけではなくレザレス自身も内心戸惑っていた。今までルークスはレザレスに好色的な視線を向けていた。学園を追放されてからそれが一切無くなったのでどういうこと?と思っていた。ただ今まではグレバトスや父親の目が届く範囲だったのでルークスがレザレスに手を出したことはなかったが。


 もちろん今現在のルークス自身はレザレスに好色の視線などを向けている余裕はない。休憩の度に周りの地形を確認し、地図を見る。そして作戦を頭の中で考えていた。作戦の失敗や戦闘の敗北は即、死に繋がる状況なのだ。少なくともルークス自身はそう考えている。


 そんなわけで三人とも表面上は取り繕っていたが内心穏やかではなかった。移動中は口数が少ないまま時間が過ぎていった。

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