第49記:防止と最終章

 眼が覚めた。枕辺のアナログ時計が「朝の6時半」を示していた。洗面所に行き、顔を洗った。台所に行き、電気ケトルにミネラル水を注いだ。沸き立ての湯で、即席コーヒーを淹れた。手作りパンを食べながら、熱いやつを飲んだ。窓の向こうに曇天が広がっていた。

 二杯目のコーヒーを居室に運んだ。炬燵に入り、愛機を起動させた。メクるとぴよぶっくを呼び出した。後者を呼び出せるのも今月限りである。来月(来年)からは呼び出すこと、それ自体ができなくなってしまうのだ。


 ぴよぶっくの四年間が無駄だったかと云うと、そんなことはまったくなくて、多くの楽しみや喜びを与えてくれた。変な人にからまれる場面もなかったし、まことに快適な四年間だった。

 そのぴよが、跡形もなく消え去ってしまうのだ。寂寥感を感じるのは当然である。だがそれも、しばらくすると忘れてしまうのだろうか。


 シャットダウン確認後、露台に行き、物干し竿(伸縮式)を外した。外した竿を屋内に持ち込み、屋根裏部屋に片づけた。使わない日の野外放置は避けている。痛みを少しでも遅くするためである。又、風に煽られるのを防ぐ意味もある。過去に一度、落ちたことがあるのだ。幸い事故には至らなかったが、以後、注意している。危険の可能性は事前に消すべきである。


 収納後、身支度を整えた。最後の施錠を終わらせてから、家を離れた。雑用の類いをやっつけてから、駅前のデパートに行った。食品売場へ向かう途中、三つ子ちゃんだと思われる三幼児とすれ違った。揃いの赤い服を着ていて、何ともかわいらしい。天使に見(まみ)えたような気がした。〔16日〕


 扉が閉まり、電車が動き始めた。窓の向こうはまだ暗い。朝が夜を征服するまで、もう少し時がかかる。外套のポケットから、文庫本を取り出した。平井和正の『サイボーグ・ブルース』である。第五章「ゴースト・イメージ」の続きを読む。物語もいよいよ大詰めである。

 主人公ライトに忍び寄るクライム・シンジケート。闇の超国家とも呼ばれる大組織だ。いかなサイボーグと云えど、個人の力では対抗の仕様がない強大無比の難敵である。追われる者と追う者が緊迫の攻防を展開する。


 職場到着。売店に行き、朝食を買った。休憩広場に行き、空いている卓席に陣取った。ドーナツを齧りながら、コーヒーを飲んだ。

 食後、携帯ラジオの電源を入れた。残りのコーヒーを飲みながら、情報番組を聴いた。今日の話題は「マンホール(の蓋)人気の高まりと今後の課題について」であった。電源を切り、第五章の続きを読む。


 午前業務終了。食堂に行き、券売機でBランチを買った。今日のBはまあまあの味だった。満腹には至らないが、これぐらいの方が体には良いのかも知れない。食後、茶碗一杯分の冷水を飲んだ。今日は妙に喉が渇く。


 休憩ルームに行き、第五章を読了した。世界規模の大暗闘の始まりを予感させつつ、物語は幕をおろす。えっ、ここで終わっちゃうの?と、読む度に思う。俺は一旦本を閉じ、昼寝の支度を整えた。その後、巻末に収録されている星(新一)先生の解説を読み始めた。〔17日〕

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