第40記:饂飩と湖底
シャットダウン確認後、身支度を整えた。主電源を切りざまに、自室を出た。最後のカギをかけてから、アパートを離れた。腹が減っていた。我が胃袋は「うどん」を求めている。頭上に冬の曇天が広がっていた。
赤信号が青信号になった。横断歩道を渡り、市民遊歩道の入り口に足を進めた。相変わらず、人気(ひとけ)が全然感じられない。実際、利用者の姿は一人も見えない。いよいよ俺の専用歩道と化してきたようである。
学校近傍の食堂の暖簾をくぐった。壁際の卓席に座った。他の席は全て埋まっていた。卓上にビール瓶が並んでいた。皆さん、昼間から酒盛りである。まったく羨ましいことだ。お茶を運んできてくれたおっちゃんに、天ぷらうどんとライスを頼んだ。
店内に設置されたテレビが、マラソンの中継番組を映し出していた。なんとなくそれを眺めていると、常連風のおっちゃんが「にいちゃん、読むか」と云って、スポーツ新聞を差し出してくれた。軽く頭を下げ、新聞を受け取った。
芸能面を開くと、今年で引退する(らしい)タッキーのインタビューが載っていた。話題は大河ドラマ『義経』だった。いわゆる「撮影秘話」は俺の大好物である。熱心に読む。
饂飩と丼飯が来たので、俺は新聞を閉じ、遅めの昼餐を始めた。この店のうどんを食べるのは(意外にも)今日が初めてだが、なかなかいい味である。日替わり小鉢は、胡瓜の漬物と大根おろしであった。
食後、店を出て、駅方面へ歩いた。ビルの中にある貸し円盤(DVD)屋に足を進めた。何を借りるか、事前に決めておいたので、さして、時は要さなかった。映画3枚と動画1枚、計4枚をセルフレジに持って行き、手続きを済ませてから、千円札を機械に食わせた。即座に釣銭が吐き出された。その後、隣りの書店に行ったが、欲しい本は売っていなかった。〔2日〕
乗車口の扉が閉まり、電車が動き出した。同時に読書を始める。今週の持参本は、平井和正の長篇SF『サイボーグ・ブルース』と柴田哲孝の短篇集『日本怪魚伝』の二冊である。
平井作品は何冊も読んでいるが、柴田作品を読むのは今回が初めて。怪魚伝、第2話「縄文の壺」を読み始める。大湖の帝王、ビワコオオナマズが登場する。なかなか面白い。丹念な描写の積み重ねが、脳裏に映像を描き出してくれる。同話を読了した時点で、俺は本を閉じた。
職場到着。売店に行き、朝食を買った。休憩広場の卓席に座り、キャラメルクリームパンを齧りながら、熱いコーヒーを(半分程度)飲んだ。
食後、残り半分を飲みながら、ラジオの情報番組を聴いた。今日の話題は「再宅配の減少を目的にしたある試みについて」であった。その後、ラジオを切り、第二章「サイボーグ・ブルース」を読み始めた。
午前の仕事が終わった。職員食堂に足を進め、販売機でBランチの食券を購入した。今日のBはまあまあ美味しかった。魚の名前と魚の味が一致していた。いつもこうだと良いのだけど。食後、水分を補給した。
休憩室に行き、第二章の続きを読む。その後、約十分仮眠。眼を覚ますと、隣席で見慣れぬ顔の職員が、不規則な寝息を立てていた。皆、疲れている。昼寝部屋は今日も大盛況だ。席を離れ、午後の仕事に向かった。〔3日〕
[シンカワメグムさんのコメント]
古代魚闇塚氏が、お仲間を勉強しておられる……!!(笑)
柴田哲孝氏ですか~日本怪魚伝は読んでないなあ~
自分はKAPPAとTENGUを読んだことがあります~(/・ω・)/
なんかすごい人みたいですね。パリダカで走ってたかと思ったら、
アマゾンで釣りしたり。冒険小説家って本当にイルンダナア……(・∀・)
ノンフィクションもやってるせいか、これ、本当にあった事では……?
と、読んでて不安になってしまうほどの描写力です。惹き込まれます。
闇がある話が好きです!絵も小説も闇があると安心します!(≧▽≦)笑顔。
[闇塚の返信]
俺も『怪魚伝』を「迫真の釣りレポート」だと思い込んでいました。第2話まで読んでみて、そうではなく、怪魚を題材にした「小説」であることに気づきました。
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