第28記:代行屋

 発車と同時に読書を始めた。山田(忍者)小説と池波(映画)随筆を交互に読む。どちらも面白い。自作の栄養にしたい。気がつくと、行程の半分を過ぎていた。俺は本を閉じ、続いて、眼も閉じた。

 こうしていると、数分程度の眠りに落ちてしまう場合もある。だが、不思議なことに、終点が近づくと、自動的に眼が覚めるのである。そういう仕掛けになっているのだ。頭のどこかが「起きている」のかも知れない。


 職場に着いた。売店に行き、菓子パンとコーヒーを買った。休憩広場はガラガラに空いていた。どの席に座ってもかまわないわけだが、座るところは決まっている。俺はいつもの席に腰をおろし、菓子パンを食べた。

 食後、ラジオの情報番組を聴きながら、コーヒーを飲んだ。今日の話題は「退職代行サービスについて」であった。そんなサービスが本当に存在するのか?と、俺は半ば驚き、半ば呆れた。でも、本当なのである。利用者も確実に増えており、商売として立派に成立しているのだという。


 同社の社長が、番組の取材に答えていたが、相当な切れ者さんらしい。彼自身が、複数回の退職を経験しており、その度にイヤな思いをしたという。普通なら、泣き寝入りで終わりだが、彼の凄さは「それ」をビジネスに変えてしまったことである。世の中には賢い人がいるものだ。

 同社長は「もって五年でしょう」と冷静に分析していたが、このサービスは「真の働き方改革」として作用する可能性を有している。

 ブラック企業、ブラック上司に悩まされている人たちにとっては、まさに救世主…とまでは云わぬが、いつでも(楽に)辞められるという選択肢は「最強のカード」に成り得る。又、違法行為や人権侵害を平然とやっている奴らへの牽制球としても機能し得る。着眼の勝利だ。〔14日〕


[シンカワメグムさんのコメント]

むう。忍者の話気になります。くノ一だといいな!(笑)


ふぉお~…そんな職業があるんですね~!

ブラック企業を相手に交渉なんて、どんな鋼のハートの持ち主なのか…。

弁護士とかの司法の資格を社長さんが習得したら、本格的になりそう。

労働組合って、あんまり役に立ちませんものねえ~…

退職代行サービスの需要は多いでしょうね~増える一方ではないかと。

社畜とか言われない時代が来て欲しいですな~日本人には無理かあ~(笑)


[闇塚の返信]

昨年読んだ『くノ一忍法帖』も傑作でしたね。面白かったです。


依頼者に代わって、意地悪上司に怒鳴られることも業務内容に含まれているそうです。30分怒鳴られた記録があるそうです(苦笑)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る