12
好きだった雨が怖いと思うようになったのは、いつからだっただろう。
よく覚えていない記憶。おぼろげにあるのは、従姉妹のお姉ちゃんがしてくれた怖い話だ。今思えば他愛のない話だったが、子供のころに刷り込まれてしまった怖いと思う気持ちは、高校生になった今も消えない。
髪を撫でる手が優しい。
でも死ぬほど恥ずかしい。
今まで誰にも言えなかったことを言ってしまったことが恥ずかしい。
ひとりでいるのが怖い。
雨の日に、雨の夜に、なんでもない日でも、ひとりきりは嫌だ。
寂しくて寂しくて、隠しておいた秘密も話してしまいそうになる。
「…おまえは、なんか、怖いのとか嫌いなものとかないの」
「俺?」
撫でていた手がゆっくりになった。
「蜘蛛が嫌いだ」
そうなんだ。おれは大丈夫。
じゃあ、と呟いた。
「今度、蜘蛛が出たら…おれが追っ払うから」
「ああ」
ソファの上で膝を抱えた。抱え込んだ膝に顔を埋める。
「ほかには?」
「ほか? んーそうだな…」
「…なんかないの」
「なんで?」
「だって…」
だって、嫌なのいっぱいあったら、いっぱい一緒にいられる。おれがおまえの嫌なのとか苦手なの全部引き受けて、全部大丈夫にするから。だから、だから、雨の日には一緒にいて欲しい。おれといてよ。雨じゃなくても、普通の日でも、傘を持っていなくても。
いつもいて欲しい。
それはどんな名前の感情だろう?
「だって…」
「だって?」
「だって…好きだから」
抱えていた膝から顔を上げた。
隠し事はいつも下手だった。
優しい目がそこにあって、驚いたようにおれを見ていた。
好きだから。
「好きで…、だから」
目が合った。それだけなのに、たったそれだけで──おれは、彼にキスされると分かった。
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