11
雨が止むまでいることになった。
クラスメイトの家は予想していた通りの、小綺麗なマンションだった。
「どーぞ」
鍵を開けて入る部屋は暗く、人がいる気配もない。
道すがらにクラスメイトが俺に言ったのは、家には誰もいない、ということだった。当分誰も帰る予定がないのだと。
「あーびしょびしょじゃん、ほら拭けよ」
「ああ…」
先に入ったクラスメイトが奥から戻って来て、俺の頭にバスタオルを被せた。ふわりと香る花のような匂い。
さっき、女子のひしめき合う店で、彼のフォークの先からパンケーキを食べたときも、その指先から同じ匂いがしていた。
雨はなかなか止まなかった。
結局夜になり、夕飯にデリバリーのピザを取ってふたりで食べた。テレビのドキュメンタリーを適当に流しながら他愛のない話をした。
でもそろそろ帰る時間だと、俺は腰を上げた。
雨はまだ降っている。どしゃ降りの音が家の中まで聞こえていた。
「…帰るの?」
ソファに座っているクラスメイトが俺を見上げた。
「もう遅いしな」
「いいじゃん、もうちょっといれば」
「そういうの駄目だろ」
「……」
ふと見ると、クラスメイトはまるで途方に暮れたような顔で俺を見ていた。
展覧会の入り口で、雨の中にいる俺を見ていたときと同じ目をしていた。俺は聞いた。
「…なに?」
ずっと何か言いたそうにしていた。あのときからずっと。店にいても、ピザをふたりで食べていても。話をしていても、どこかずっと上の空だった。
「雨まだ止んでない」
「あー、うん」
「おまえのコートまだ濡れてるから」
「ああ…まあな」
窓の下に掛けた俺のコートはまだ色が変わったままだ。
「……それで?」
外に出れば濡れていることなんて気にならなくなる。
でも俺はそう言わずに、腰を下ろして俯いてしまったクラスメイトの顔を覗き込んだ。
「それで? ほかは?」
彼は浅く息を吸い込んだ。
「雨、怖くて」
「うん」
膝の上の手が小さく震えている。
「好きだけど怖くて、夜も怖くて、眠れないから──だから」
俯いたクラスメイトの目から、ぽたりと雫が落ちた。
「…帰んないで」
「いいよ」
ため息のような呟きに頷いて、俺は手を伸ばして目の前の柔らかな髪を撫でた。
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