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 雨が止むまでいることになった。

 クラスメイトの家は予想していた通りの、小綺麗なマンションだった。

「どーぞ」

 鍵を開けて入る部屋は暗く、人がいる気配もない。

 道すがらにクラスメイトが俺に言ったのは、家には誰もいない、ということだった。当分誰も帰る予定がないのだと。

「あーびしょびしょじゃん、ほら拭けよ」

「ああ…」

 先に入ったクラスメイトが奥から戻って来て、俺の頭にバスタオルを被せた。ふわりと香る花のような匂い。

 さっき、女子のひしめき合う店で、彼のフォークの先からパンケーキを食べたときも、その指先から同じ匂いがしていた。



 雨はなかなか止まなかった。

 結局夜になり、夕飯にデリバリーのピザを取ってふたりで食べた。テレビのドキュメンタリーを適当に流しながら他愛のない話をした。

 でもそろそろ帰る時間だと、俺は腰を上げた。

 雨はまだ降っている。どしゃ降りの音が家の中まで聞こえていた。

「…帰るの?」

 ソファに座っているクラスメイトが俺を見上げた。

「もう遅いしな」

「いいじゃん、もうちょっといれば」

「そういうの駄目だろ」

「……」

 ふと見ると、クラスメイトはまるで途方に暮れたような顔で俺を見ていた。

 展覧会の入り口で、雨の中にいる俺を見ていたときと同じ目をしていた。俺は聞いた。

「…なに?」

 ずっと何か言いたそうにしていた。あのときからずっと。店にいても、ピザをふたりで食べていても。話をしていても、どこかずっと上の空だった。

「雨まだ止んでない」

「あー、うん」

「おまえのコートまだ濡れてるから」

「ああ…まあな」

 窓の下に掛けた俺のコートはまだ色が変わったままだ。

「……それで?」

 外に出れば濡れていることなんて気にならなくなる。

 でも俺はそう言わずに、腰を下ろして俯いてしまったクラスメイトの顔を覗き込んだ。

「それで? ほかは?」

 彼は浅く息を吸い込んだ。

「雨、怖くて」

「うん」

 膝の上の手が小さく震えている。

「好きだけど怖くて、夜も怖くて、眠れないから──だから」

 俯いたクラスメイトの目から、ぽたりと雫が落ちた。

「…帰んないで」

「いいよ」

 ため息のような呟きに頷いて、俺は手を伸ばして目の前の柔らかな髪を撫でた。

 

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