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 クラスメイトが差し出したそのチケットは、おれが行きたいと思っていたデジタルアートの展覧会のものだった。

「え⁉ わ、わ! なに、なにこれ! え、なんで、なんでっ?」

 信じられなくて大声を上げた。ものすごい人気で即完売だったのに!

 ほら、と手の中に押し付けられる。

「そういうの好きか? 俺の親が会社関係でもらってきてさ、よかったら…」

「行くっ!」

 相手が言い終わらないうちにおれは言い切った。

「いくいくっ、やった! ありがとう!」

 もちろんおまえも行くよな、と言うと、クラスメイトはぽかんと一拍間を空けて頷いた。

「昼メシ奢るからさ」

 それが木曜日の昼休み前のこと。


 

 そうして楽しみにしていた、土曜日。

 展示会は見るものすべてが綺麗だった。

 美しく、壮大な世界。からっぽの箱が無限に変化する。

 真っ暗な部屋の中に浮かび上がる星空が、足下から湧き上がっていく。

 浮遊感。

 宇宙の中にいる気分だ。

「すごい!」

「ああ、ほんと…」

 下から上へと昇る無数の雨粒。

「な、すごい! 来てよかっただろ? な?」

 そう言うと、クラスメイトはおれの顔を見て微笑んだ。

「ああ」

 妙にどきりとする。

 学校以外で会うのは初めてで、なんか新鮮だった。

 私服だと印象が変わる。濃い目の細いデニムに薄い紺のコート、白いシャツ、革靴。全体が紺色でまとめてあってよく似合っていた。大人みたいだ。おれなんかもこもこしたぶかぶかのトレーナーといつも穿いてる黒スキニーに履き古したブーツだし。

 トレーナーなんか着過ぎて肩抜けそうで、下にTシャツ着て誤魔化したし。

 …なんか。

 落ち着かない。

「お茶でもするか?」

 会場を出るときに振り向かれて、おれは頷いた。

 甘いものが食べたかった。

 胸焼けするくらい甘いものが。

「あ」

 外に出たとたん、頬に冷たいものが当たる。

 見上げると、ぽつぽつと暗い空の隙間から雨が降り始めていた。


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