6


 ぽたっ、ぽたっと、庇から雨粒が落ちてくる。

 それをぼんやりと見ながら、そっか、とおれは思った。

 保健室に来たっていう友達はこいつだ。

「…帰ろ」

 ドーナツが食べたい。



 眠れないのはなぜだろう。考えた事もない。

 家にいると落ち着かなくて眠れない。

 布団に潜って、包まれるようにするといつの間にか寝ていたりも出来る。

 しんとした夜の静けさが嫌だ。

 昼間の保健室が好きだ。

 あの遠くでざわざわと人が動いて、話している感じ。人の歩く音。誰かが何かをしているのを聞きながら眠るのがいい。

 家には誰もいないから、余計にそう思ってしまうのかもしれないけれど。



「えーと、あとね、ダブルチョコクランチと、そっちのいちごのやつ。それで、ふわふわホイップとー、チーズホットドッグ!」

「…なあそれ、おやつのレベルじゃなくね?」

「起きたばっかで腹減ってんの」

 お飲み物は? と聞かれてアイスティーを頼んだ。雨の日はクーポンで安くなるなんてお得だ。ふたつあるレジの隣では、クラスメイトがアイスコーヒーとバナナブレッドを受け取っていた。あ、おれもバナナブレッドにすればよかった。

 しまった。

「ごゆっくりどうぞー」

「はーい」

 ここのドーナツ屋のレジの子はすごく可愛い。いつもにこにこしてて、おれにも優しくしてくれる。好みじゃないのが残念だ。

 先に取っていた席に戻る。窓際の席、まだ雨は降っていた。

 トレーを置くと呆れた声が笑った。

「すげえな。それさあ、どこに入んだよ」

「え、おれの腹。見る?」

「うわ、ばかっやめろ!」

 ぺたんこの腹を見せてやるふりをしたら──ふりだけなのに、クラスメイトは物凄く焦った顔をした。はは、とおれは笑った。

「なんだよ変なの」

「おまえのせいだろ」

 耳まで真っ赤になるのが面白い。クラスメイトはぱくりとバナナブレッドにかぶりついた。それを見ながらいいなあ、と言うと、なんでと目で返された。

「おれもそれ、食べたかった」

「──ほら」

 差し出されて、思わずあーんする。

 かじったところを避けずに食べて、間接キスみたいだと、ふと思った。

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