31 もらっていくにゃん

 「いやぁ、お見事! お見事!」


 その声とともに拍手が響き渡る。

 俺はそれが聞こえる方に顔を向けると、燃え盛る建物の屋根だった。

 あそこに誰かいるのか?

 

 目を凝らして見る。

 すると、そこにいたのは猫耳パーカーを着た1人の少女。

 そして。


 「アル先輩と…………シュナ?」


 そして、アル先輩の隣に立つシュナ。

 シュナはらしくなく、呆然としていた。いや、放心か? 

 とにかく彼女はもぬけの殻みたいになっていた。


 きっとギルドが燃えていることに動揺しているのだろう。

 ていうか、先輩なんてところに立っているんだ。

 屋根上にいたアル先輩は、風魔法を使ってか、ふわりと地面に降り立った。

 担がれていたシュナは解放。それでも放心状態のままだった。


 「いやぁ、遅れてごめんにゃーん。あ、シュナちゃん借りていたにゃん」

 「……………………あ、はい」


 隣にいたシュナはアル先輩をただならぬ目で見ていた。


 「おい、シュナどうしたんだ?  そんなもぬけの殻みたいになって」

 「いや――、よくあんたはアルテ――アル先輩にそんな態度が取れるわね、と思って」

 「え? 態度?」


 「そうよ。その失礼そうな態度」

 「いや、俺はいつもと同じ態度で先輩に接してるんだけど。むしろお前の方が失礼だと思うぞ。酔った時のお前はアル先輩にケンカ売りに行ってたじゃねーか」

 

 毎回思うことだが、あんなふうになるのなら、飲むなよと思う。

 と俺が言うと、シュナは目をキョロキョロさせ、


 「まぁ、確かに今までの私はそうなんだけれど…………」


 とはっきりしない返答をした。

 それにしても、大変なことになっている時にこの2人はどこに行ってたんだ。


 そのことをアル先輩に尋ねると、『まぁまぁ』と言われるだけ。

 答えを濁されてしまった。本当に何をしていたんだ。


 アル先輩はナターシャを確認すると、うんうんと頷き。

 そして、王子とパトリシア、そして俺とシュナを囲むように、黒いドームを作り始めた。外の景色は当然見えなくなっていく。


 「アル先輩、これ何してるんですか」

 「ちょっと見られないようにしてるにゃん。いやぁ、それにしてもかなりボコったんだにゃんね、スレイズくん」

 「まぁ、はい…………」

 

 「でも、ファーガスこのクソにはこのくらいしても足りないぐらいだと思うけどにゃん」

 

 王子の前に立つと、アル先輩の雰囲気は一気に変わった。

 ――――――――――――なんだこの威圧感は。


 「ファーガス、あなたはこれで王位継承権は剥奪となりますね」


 そう言うと、アル先輩はなぜか、2人に回復魔法をかけ始めた。

 うーん? 一体先輩は何をしようとしているんだ?

 

 先輩のことだから、この2人を逃がそうとはさせないだろうけど。

 そういや、エリィサはどうなったんだ? ギルドと一緒に燃えたのか?

 そうして、ある程度までかけると、2人は話せるようになっていた。


 「お、お前は、まさ、か、アルテ―――」

 「今更、私にお気づきになりまして? 私はずっとこのシルバーローズにいたのですよ……………………ったくあなたはどうしようもない人ですね」

 

 いつもとは違う話し方のアル先輩。

 これ、アル先輩? さっきまで語尾に『にゃん』とつけていたふざけた先輩?


 俺はシュナの方に視線を送るが、ふいっと目を逸らされた。

 シュナアイツ、何か知ってる。絶対知ってる。

 

 しかし、誰も教えてくれる様子はない。

 俺を置いて、アル先輩は話し続ける。

 

 「禁忌に指定している黒魔法の使用、それらに関する機密情報の漏洩。また騎士団の私情での使用…………確認しているだけでもヤバいものしかない」


 アル先輩はそんなことをぼやきながら、王子とパトリシアを担ぐ。

 いや、よくあんな小さい体であの2人を担げるな。


 「コイツは私がもらっていくにゃーん」

 「え? もらっていく?  どういうことですか?」


 しかし、アル先輩は俺の質問は無視。

 よく分からない行動をする彼女はくるりと回り、黒いドームを解除。


 「あ、そこにいるウルフハウルのやつらは、警察に引き渡しておいてほしいにゃーん。そいつらの後の処理は私がしておくから、安心してほしいにゃーん。それじゃ!」

 

 それだけ言って、どっかに消えてしまった。

 あの人、今…………。


 「処理って…………え?」


 ――――――――――――アル先輩は一体何者なんだ?

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