30 王子なんかやめちまえ
俺が思いっきり殴ると、王子は吹き飛び、地面に倒れる。
しかし、王子は立ち上がった。
確かに殴ったはずにも関わらず、彼の顔には傷一つない。
目が赤いな…………コイツも黒魔法を使っているのか。
「お前! あの女がどうなってもいいのか!」
声を荒げる王子。
しかし、それでも俺は王子に近づく。
「――――――――――――お前、言ったよな。それ以上前に進んだら、ナターシャをやるって。でも、俺は前に進んでいない。むしろ、ナターシャから遠ざかった」
「何をふざけたこと…………」
「あんたが言い出したことだろうが」
俺がそう言うと、王子は顔をしかめた。
「なぁ、王子様よ。あんた、一度フラれた身だろ? とっとと諦めたらどうだ?」
――――――相手は王子。
「こんなことして、エステルがお前と婚約したい、なんて思うか?」
――――――だが、今はそんなことどうだっていい。
「あんた、一国の王子なんか似合わねーよ」
――――――不敬罪? ドンとこいや。
「王子なんてやめちまえ!!」
俺は全力で叫ぶ。
すると、王子はウルフハウルの連中に合図。
それなら、こっちも。
俺はテレパシー魔法を使い、メイヴに話しかける。
『メイヴ、お前ならナターシャの黒魔法を解除できるか?』
『…………できると思う』
自信のないメイヴの返答。
メイヴ自身もあまり黒魔法に触れたことがないのだろうが、俺よりかは経験がある。
『ナターシャの黒魔法を解除してくれ』
『…………分かった』
そして、俺はナターシャ奪還方法をメイヴに説明。
メイヴは俺に向かって走ってくる。
メイヴとハイタッチ。
移動魔法を唱え、メイヴをベルベティーンの前に瞬間移動。
瞬時に現れたメイヴに驚くベルベティーン。
メイヴは彼の顔を容赦なく蹴り、その瞬間にナターシャを奪う。
荒々しい方法だが、これでよかったのだろう。
メイヴはウルフハウルの連中を倒しながら、そして、ナターシャの黒魔法を解除しながら、こちらに走ってきた。
しかし、俺と戦っていた王子は勝てないと判断したのか、メイヴの方へ向かい始める。
クソっ!
お前は俺とやり合うんだろ!?
追いかけようとするも、ウルフハウルの連中に行く先を邪魔される。
このままだと、あのクソ王子がメイヴのところに!
王子を察知したメイヴ。
彼女はナターシャを守ろうと、攻撃しようとした時だった。
「殿下の邪魔をするやつは消えろ」
そんな声とともに、砂ぼこりが巻き上がる。
「くっ!」
すると、砂ぼこりの中から、メイヴが吹き飛んできた。
「メイヴ!? 大丈夫か!」
クソ。
メイヴがやられた。
しかし、吹き飛んできたのはメイヴ1人。
「うん。でも、ナターシャが…………」
ナターシャはどこいった?
――――――――――――まさか?
視界が徐々にクリアになっていく。
すると、2人の影が見え始めた。
メイヴを吹き飛ばしたやつだ。よほど強いのだろう。
砂ぼこりの中に立っていたのは王子。
やつの手元にはナターシャがいた。
そして、彼の前には。
「……………………パトリシア」
赤い目にあの長い角。
アイツ、また黒魔法を使ってやがる。角は前より伸びてやがるな。
俺が2人に攻撃を仕掛けようとした瞬間。
「これ以上動くな。近づくんなじゃない。お前が動けば、この女の命はないぞ」
王子はそう言って、ナターシャの首に剣先を近づけていた。
クソっ。
何度も何度もナターシャを利用しやがって。
短剣がナターシャの肌に当たりそうになった瞬間。
バチッッン!
電気が走ったような音。
何が起こったのか分からない。
ただ分かったのは、王子の手にあった短剣は吹き飛んだこと。
その音を聞いた瞬間、俺はいつもの俺ではなくなった。
後からメイヴに聞いた話だが、その時の俺の瞳は赤くなっていたらしい。
確かに赤色の瞳なんて俺らしくないな。
短剣が吹き飛び、動揺する王子。
俺はその瞬間を逃さず、しまっておいた剣をとり、王子に攻撃にかかる。
すると、パトリシアが王子の前に立ちふさがった。
魔法で仕掛けてこようが、物理攻撃をかましてこようが。
「どけ」
魔法を唱え、パトリシアの両目に容赦なく氷の刃を刺す。
俺の氷の刃はパトリシアが作っていた目視できないバリアも貫いていた。
「うがぁっ!!」
さらに邪魔なパトリシアの足を氷らせ、そして、俺は身動きの取れなくなった彼女を蹴り飛ばす。
やっとあいつに攻撃できる。
「くるなっ!」
ナターシャを盾にしようとする王子。
――――――――――――コイツ、本当のクズだな。
「くたばれ、クソ王子」
瞬時に王子の背後に移動。そして、やつの左肩に剣を刺す。
空いていた左手に光魔法を付与し、俺は王子の顔を殴った。
「あ゛あぁ―――――!!」
王子が絶叫している瞬間、俺はナターシャを回収。
ナターシャを少し離れたところにそっと寝かせ、俺はまた王子の元へ向かった。
そして、炎魔法を手に付与し、王子とパトリシアを殴り始めた。
エステルの分。ナターシャの分。
そして、黒魔法で死んでいった人の分。
何度も何度も殴って。
痛みを味合わせて。
それでお前らを――――――――――――。
「スレイズ……………もう……やめ…………」
ふと聞こえた弱々しい声。
ナターシャは目が覚めたのか?
振り返ると、ナターシャがこちらに向かって手を伸ばしていた。
『人は殺さないで。スレイズが殺人者になるのは絶対にいやなんだ』
クソ王子はかろうじて息をしているようだった。
ナターシャとの約束がなければ――――――――――――俺はお前らを殺していた。
「お前ら、よかったな」
クソ王子を一瞥すると、俺はナターシャの元へ。
メイヴがやってくれていたのか、あの黒魔法はなくなっていた。
こちらに手を伸ばしてくるナターシャ。
俺は彼女の手をそっと取る。
大丈夫だ。生きてる。俺の近くにいる。
そして、俺はナターシャをぎゅっと、ぎゅっと抱きしめた。
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