27 あんたの体がおかしい

 騎士団の制服の男たち。

 彼らは警戒してか、俺の方に剣先を向けていた。


 「あんたたちが騎士団だか、なんだか知らないが、そこを通してくれないか」

 「これは警告だ! 罪人からすぐに離れろっ!」


 騎士団と名乗るやつらはちっとも俺の話を聞く様子はない。

 ちょっとは話を聞いてほしんだがな。


 それにしても、ベルさんが罪人とは……………………うん、きっと何かの間違いだろう。

 周囲を横目で確認する。牢屋にはベル以外の人はいなさそうだった。

 王子の管理下にあるというのも嘘の可能性が高いな。

 だがもし、それが本当であったとしても、きっとコイツらも誰かにはめられている。


 だったら。


 「悪いな」


 俺は魔法を唱え、騎士団の男たちを眠らせる。一応のため、その男どもを牢屋に入れておいた。 

 これが本物の騎士団だったら、後で問題になるかもしれないが、マスターに相談すればなんとかなるだろう。


 ボロボロになった彼女の顔を見る。ベルさんは安心したように、スヤスヤと眠っていた。

 

 早く帰ってマスターエステルに話さないと。王子の管理者となると、エステルが関わっている感じがする。

 何も言わずに出てきたから、ナターシャたちも心配していることだろう。

 

 そうして、俺はベルを抱え、階段を駆け上っていった。




 ★★★★★★★★



 

 スレイズがベルを助けに行っている頃。

 ナターシャたちはまだ宿にいた。

 起きると、ナターシャたち3人は獣族の子どもたちともに朝食をとっていたのだが。


 「あれ? 1人いない…………」

 

 ナターシャは子どもが1人いないことに気づき、もしやという思いで彼の部屋へ。

 スレイズの部屋に向かうと、いたのは獣族の少女。彼女はベッド上におり、起きたばかりのようだった。


 「やっぱりいた」

 「おはよう。お姉ちゃん」


 ナターシャは周囲を見渡す。しかし、部屋には少女以外の人間はいなかった。


 「おはよう…………あの、お兄ちゃんがどこに行ったか知らない?」

 「お兄ちゃんなら、起きたらいなくなってた」

 「え?」


 ナターシャは思わず素っ頓狂な声を出す。そして、うーんと考えこみ始めた。

 すると、少女がナターシャに抱き着く。


 「ねぇ、お姉ちゃん。お兄ちゃんはどこに行ったの?」

 「…………うーん。散歩に行ったのかも」


 そうして、ナターシャたちは朝食を終えると、獣族の子どもたちを連れ、彼らの家族が住むとされる場所へと向かった。

 そこは城下町から離れたひっそりとした場所。地方にある村のように見えた。


 ナターシャたちは子どもたちを親に引き渡し、事情を説明する。

 すると、獣族たちからはまだ獣族の子どもの何人かは戻ってきていない、という話を受けた。

 その帰り道、ナターシャはふと呟く。

 

 「今日返した子たちが誘拐された子全員じゃないってことは…………」

 「…………死んだのよ。『アドの火』のやつらのせいで」


 シュナの返事に、ナターシャは俯く。3人は重い表情を浮かべていた。


 「私たちが早く復活のことについて捜索しようとしていれば、獣族の子どもたち全員を助けることができたのかな…………」

 「…………過ぎたことよ。もう私たちにはどうしようもないわ」

 「…………そう、だね。過ぎてしまったこと」


 顔を俯けていたナターシャ。彼女はそう呟くと、顔をグイっと上にあげる。


 「だから、私たちは『アドの火』と繋がっていたウルフハウルに問い詰めないと」

 

 そうして、3人はそのままスレイズがいそうなギルドへ向かうことにし、街中に入る。

 すると、


 「ねぇ、お嬢さん」


 と、ナターシャが1人のおばあさんに呼び止められた。

 

 「?」

 「そうだよ。そこのお嬢さんだよ」

 「どうかしましたか?」


 ナターシャがそう尋ねると、おばあさんは近くにあった1つの木箱を指さす。その箱には何本かのビンが入っていた。

 おばあさんはフードを深くかぶっていたため、顔は見えなかったものの、困った様子だった。

 

 「悪いんだけれどねぇ、少しこの荷物を運ぶのを手伝ってくれないかい?」

 「はい。大丈夫ですよ」


 ナターシャは当然即答。しかし、メイヴとシュナはそんな彼女を止める。


 「え、ちょっと、ナターシャ。昼からはクエストに行くんだから、そんなことをしている場合じゃないわ」

 「シュナの言う通りよ。ナターシャの気持ちを分かるけれど、どこかをほっつき歩いているスレイズも探さないといけない」


 「でも…………」

 「おばあさんには悪いけれど、他の人に当たってもらいましょ」


 しかし、ナターシャは横に首を振る。


 「大丈夫、すぐ終わると思うから。おばあさんの荷物運び終わったら、すぐ行くから!  2人は先に帰って準備してて」


 そうして、ナターシャはおばあさんの荷物を運ぶことに。

 おばあさんの家は大通りから少し外れたところにあった。

 

 「お礼と言ってはあれだがね…………お茶を飲んでいかないかい?」

 「お茶ですか…………」


 ナターシャはちらりと時計の方に目を向ける。まだ時間がありそうだった。


 「お急ぎ?」

 「いえ…………いただきます」

 「少しの間そこに座っていて。あ、どこの椅子に座ってもいいからね」

 

 そうして、おばあさんはニコリ笑い台所の方に歩いていった。

 ナターシャは近くの椅子に座り、じっと待つ。数分すると、おばあさんがティーカップとティーポットをのせたお盆を持って歩いてきた。


 「これはとっておきの紅茶でね。はい、どうぞ」

 「いただきます」


 ナターシャはティーカップを手に取り、紅茶を飲む。


 「!」


 ナターシャは目を見開き、動きが止まってしまう。


 「おばあちゃん…………この紅茶…………」


 ナターシャがそう呟いた瞬間、おばあさんはニヤリを笑みを浮かべていた。


 「ああ…………そうさ…………その紅茶はね」


 すると、ナターシャはバッと立ち上がる。




 「この紅茶スパイシー! 凄いスパイシー!」

 「へ?」




 興奮しているナターシャはキラキラと輝かせた目で、おばあさんに訴えた。

 一方、おばあさんは正気か? とでも言いたげ表情を浮かべていた。


 「とんでもなくスパイシーなの! 今までに飲んだことのないタイプなの! 紅茶飲んでピリッとするなんて初めて! …………あ、すみません。急に立ち上がったちゃって」


 ナターシャは申し訳なさそうに座り直す。

 しかし、おばあさんは目を見開いたままフリーズ。


 「ピリッと? それだけ?」

 「え? はい、そんな感じがしたんですけど、もしかしてスパイシーなお茶じゃなかった? あら? 私の舌がおかしいんですかね?」


 おばあさんはがっくりした様子で、額に手を当てていた。


 「いや…………それは舌じゃなくて、あんたの体がおかしい…………」

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