23 裏切り者
「お前…………獣族なのか?」
「…………」
俺が尋ねても、少女は声を出す様子はない。しかし、コクリと小さく頷いてはくれた。
そういや、おっさんが買っていた新聞に獣族のことが載っていたような。この子たちのことだったのか。
そうして、俺たちは全員子どもを救出し、全ての大人たちを捕らえた。
さて、大人たちから話を聞かせてもらいたいのだが、子どもたちはどうしようか?
放置しておくわけにもいかないしな。見ていてもらわないといけないが…………。
俺はシュナとメイヴに子どもの面倒を見てもらおうと思っていたが、シュナに断られた。
子どもは私をバカにするから嫌い、だそうだ。きっと身長のせいだろう。
獣族の子どもたちをナターシャとメイヴに任せ、大人たちの方へ向かおうとすると、後ろから服を引っ張られた。
振り向くと、最初に助けた少女が。
「ねぇ…………お兄ちゃん。さっきは助けてくれてありがとう」
「おう」
「ヒョロヒョロなのに力持ちだね。すごいね」
「あ、ああ…………」
「子どもにヒョロヒョロって言われてる、フフフ」
「…………」
シュナめ…………笑いやがって。
笑ったシュナを連れ、俺は離れた場所にいるその大人たちの所へ。
大人たちは全員不気味な仮面を被っていた。彼らが所属する組織のトレードマークなのだろうか。
子どもたちもいるので、さっそくシュナとともにリーダーらしき人物に迫ることにした。
「おたくら、何者だ?」
「…………」
「おい、答えろ」
「…………」
「あんたたち、黙り決め込む気?」
「…………」
シュナは腕を組み、彼らの周りを歩き出す。話を聞きだすのに慣れていそうだな。
「ハッ。それは永遠にはできないわねぇ。隣にいるコイツはまだ未熟者だけれど、大抵の魔法を使えるの」
まぁ、確かにそうかもな。
「一方、私は闇魔法専門魔導士。あんたたち、黒魔法を使っていたからには分かるわよね? 闇魔法がかつて拷問時に使われていた魔法ってぐらい」
そう言って、近くにいた男を蹴るシュナ。
「ほら、さっさと吐きなさいよ。あんたたち、拷問されたいの?」
うん。何も知らなかったら、シュナが悪党に見えるんだろうな。
大人たちは一時黙りこんでいたが、シュナが闇魔法を使おうとすると、あっさり吐いてくれた。
「へぇ…………あんたたちが『アドの火』ねぇ」
「お前、知ってるのか?」
「ちょっとね」
元暗殺者のシュナいわく、『アドの火』という組織は裏の世界では有名らしい。黒魔法にはしょっちゅう手を出し、他の裏の世界の人から依頼を受けることもしているとか。
魔法省も『アドの火』を調査中らしいが、情報が少なすぎるため指名手配もできないらしい。
まぁ、コイツらはどうも『アドの火』の中でも下っ端のようだが。
「それで、お前らに依頼してきたやつらはどこのどいつだ?」
「…………言えない」
リーダーの男が小さく言った。
「言えない? なぜ?」
ここまで話したんだから言えばいいのに。
「い、言えば…………俺たちは死ぬんだ。そういう契約をさせられたからな」
「ほぉ」
相手も抜かりないということか。
「その時の契約はどんなものだったんだ?」
「…………は?」
「だから、契約内容はどんなものだったんだ? まさか契約内容も話すなという契約をしているのか?」
そんな契約されていたら、こっちはお手上げだ。
「いや…………されていないが、契約内容を言えばいいんだな。ど、どうか闇魔法拷問はしないでくれ。依頼主の名前は伏せさせてもらうぞ」
「ああ、それでいい」
契約内容は黒魔法でもなんでもいいから、魔物の復活を行うこと。依頼主の名前は決して
そんな物騒な契約だった。
依頼主の名前は言わない、それが契約なら大丈夫そうだな。
「じゃあ、お前らがその依頼主の名前を口にしなければいいんだな」
「え?」
俺はその男の拘束を解除する。そして、木の棒を彼に投げた。
「地面に依頼主の名前を書け」
男は契約を恐れたのか、ゆっくりと文字を書いていく。しかし、男に変化は訪れることはなく、無事書き終えた。
「アイツらか…………」
地面にはウルフハウルの文字。
すると、隣からカチャという音がする。横を向くと、シュナが短剣を構えていた。
かなりいらだっているようだな。それはまぁ、俺も同じだが。
「よせ。コイツら、切ったって意味はないぞ」
そう言うと、シュナは意外にも素直に剣を収めてくれた。
黒魔法を使った事実は変わりないから、コイツらは警察送り。魔法省が調査している『アドの火』の連中となれば、報酬ももらえそうな感じがするしな。
そうして、俺たちは『アドの火』の連中と獣族の子どもたちを連れ、街へ帰ることに。
その帰る途中で、ナターシャが尋ねてきた。
「でも、不思議だよね」
「不思議? 何がだ?」
「魔物の死体がないと、復活しないんでしょ?」
「そう…………そうみたいだな」
魔法陣には小さなものであったが、魔物の部分的な遺体が置かれてあった。
復活のためには魔物の死体も必要だったと考えられる。
すると、ナターシャが困った表情で、俺に問いかけてきた。
「その死体を『アドの火』の人たちはどこで手に入れたんだ、とは思わない?」
確かに。
魔物の死体はギルドへの報告のため、俺たちがいつも回収していた。
これまで何度も復活しており、そのたびに俺たちは死体を回収。そして、ギルドに引き渡していた。
……………………。
「子どもたちもいるしな。明日にしよう」
俺は子どもたちにちらりと目を向け、ナターシャにそう言った。
上手くいけば、俺1人で片付けれるだろうから。
「そうだね」
ナターシャも理解してくれたのか、そんな返事をした。
今は子どもたちの方が優先。でも、今日はどうしようか。
街へ帰ると、家から漏れてる光は無くなり、静かだった。俺たちは大人たちを警察に引き渡すと、宿屋へ。
保護した獣族の子どもたちだが、親の元へ返すと言ってももう遅い時間。子どもたちも疲れ切っている。
本当にどうしようか?
そこで、宿屋のおばちゃんに頼み込んだ所、俺たちと同じ宿に泊まることになった。
宿屋のおばちゃんが「仕方ないわね」と言って部屋を用意してくれたのだ。急に頼んだので、おばちゃんには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
おばちゃん、ごめんな。ありがとう。
そして、次の日の朝。
「うわっ」
起きるとベッドにはあの獣族の少女がいた。少女は俺に抱きついてスヤスヤと寝ている。
他の部屋で寝ていたはずなんだがな…………。
少女に抱き着かれていた俺は何とか抜け出し、1人ギルドへ向かった。
ギルド内はまだ朝であるせいか、人が少ない。しかし、受付にはいつもの人がいた。
「あ、スレイズさん。おはようございます。今日は1人なんですね」
彼女はいつも通り俺に挨拶をしてくれる。でも、昨日のナターシャの言葉を聞いてから、彼女を同じギルドの人間として見れなくなっていた。
「なぁ、あんたなんだろ?」
「…………はい?」
こういう時はストレートに聞いた方がいいよな。
「――――ベルさん、魔物の死体をウルフハウルの連中に渡すなんてどういうつもりだ?」
本当はこの人がやったなんて思いたくはなかった。
でも、他に思い当たる人がいない。
ウソでもいい、違うと言ってくれ。
しかし、俺の思いを裏切るように、ベルはニヤリと笑みを浮かべた。
「随分と気づくのが遅かったですね、フフフ」
そこにいたはずの優しい受付嬢は消えていた。
「ねぇ、スレイズ――――――――――――クランさん?」
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