22 紫光
ベルベティーンがギルドに訪れてから、魔物の復活はたびたびあった。しかし、その復活が習慣化し、一般人が武装してギルドに訴えてくるようなことは徐々になくなっていった。
「スレイズ、報酬のことなんですが…………」
「なしでいいです」
どうせこれからも魔物の復活するだろうし、最近では特訓がてらに楽しんでやっているところもある。
マスターからの報酬の話があったが、俺は断った。そのことはメンバーも了承してくれた。
そうして、俺たちが報酬なしで復活した魔物を討伐していたため、彼らに信頼してもらえるようになった。
そんな生活をしていたある日。その日は他のクエストも受けていなかったので、俺は街をうろちょろ。
すると、背後から声を掛けられた。
「スレイズの兄ちゃん、今日も相変わらずヒョロヒョロだな」
振り向くとそこに立っていたのは、先日言い合いになったおっさん。心が安定しているのかおっさんはいい表情を浮かべていた。
初めて会った時は少しムカついたけど、普段はこのおっさんも普通にいい人なんだよな。
よほど畑が荒らされたことにムカついていたのだろう。
俺は右手を軽く上げ、挨拶をした。
「どーも、おっさん」
「よっ、スレイズの兄ちゃん。お前さんは本当にヒョロヒョロだな」
「それ会うたびに言われているような気がする」
「そりゃあ、そうだろ。弱弱しそうなお前が魔物を倒しているなんて、こっちは考えられねーんだよ。よっしゃ、俺がおごってやる。たくさん食べろや」
うーん。これでも食っている方なんだが。
やっぱ、シュナみたいにたくさん食わないといけないか? アイツは身長のために食べているところはあるけど。
おっさんに誘われ、俺たちは飯屋に向かうことに。
「ところでおっさん、どうしたんだ? こんなとこに来て」
おっさんの家は王都といえど、街から離れた場所にある。何か用がない限りここまでくることはそうない。
「いや、魔物のことに関してなんだがよぉ」
「また復活したのか? 起きる間隔が短くなったな。それで、どこで起きたんだ?」
「いや、違うんだ」
「ん? 魔物の復活のことじゃないのか?」
と聞くと、おっさんは首を横に振る。
「いや、魔物の復活のことではあるんだがよ。魔物の復活が起こる前の夜によ、いろんなところで紫の光が見えるらしいんだ」
「紫の光?」
「ああ。そりゃあ、禍々しい色の光だったよ。夜なのによ。でも、光が出ている所を見に行こうとしたら、光が消えているんだ。不思議だろ」
「それは確かに不思議だな」
おっさんは先ほど買っていた新聞を取り出し、大きく広げる。そして、彼はある記事に指をさした。
「ほら、この新聞にもそのことが書かれてある。魔法省も捜索中、やっと動き出したのか。ありゃ? 獣族の子どもが失踪しているのか…………これはまた大変だな。あそことは仲良くさせてもらっているのにな」
これは確かめに行った方がいいかもな。もしかしたら、魔物の復活の件が片付くかもしれない。
そう考えた俺は夜にナターシャたちにおっさんの話を説明。ナターシャたちも少しだけ聞いていたようで、了承してくれた。
次の日、おっさんの話を手掛かりに、紫の光が見えると言われた場所へ。
「何もないね…………」
「そうだな」
光が見られた場所全てに足を運んだが、特にこれといって変わったものはなかった。
「もしかしたら、夜に誰か来るのかもしれないわ」
5回ほど光が見られているという、麦畑の道。俺たちはそこを見張るため、許可を貰い麦畑に潜伏することにした。
見張りは交代で1人ずつ。何か起きれば、他の3人へ知らせるという形になった。
Ⅳ級の潜伏魔法を使っているから、よほどの魔導士じゃない限り、気づかれることはないだろう。
「起きて。誰か、来た」
ナターシャの番の時、彼らは来た。
彼ら全員は黒いコートをまとっている。大人が5人と子ども1人いるのは分かった。
子ども…………一体何をしようというのか。
「う゛ぅ…………」
「さっさと歩け」
大人に促され、子どもは渋々歩いていく。じっくりを観察すると、子どもは手錠をされていることが分かった。
彼らは魔法陣が描かれた敷物を敷くと、その中央に子どもを座らせた。
大きなフードで見えなかった子どもの足には、先ほどまでなかった足枷。
これはまさか…………。
紫の光が出現するとともに、俺は飛び出し魔法陣へとスライディング。そして、子どもを抱え、魔法陣を離れると、紫の光は消えていた。
俺は自分の体を確かめた。紫の光を少し浴びたが、体に異常はなさそうだな。
「お前! 何者だ!」
「ロットノット」
上級風魔法を唱えると強風が巻き起こり、その風は大人たちに向かって行く。大人たちは柵を貫き、麦畑へと吹き飛んでいった。
俺はその瞬間に、3人に指示を出す。
「他の光の場所へ向かえ! 子どもを助けろ!」
「敵はどうしたらいい!?」
「身動きが取れないよう捕まえてくれ。最悪の場合にはやつらの手足を切ってもいい」
コクリを頷き、瞬時に動き出すナターシャとシュナ。
しかし、彼女だけは動いていなかった。
「どうしたんだ? メイヴ?」
「いや、私さっきの光にはあんまり近寄りたくないな、なんて思ってさ」
近寄りたくない?
「怖いのか?」
「…………うん、まぁ」
メイヴはなんとも言えない返事をする。
怖い…………か。
怖い物なんてなさそうなメイヴにも怖い物があるとは。
「分かった。なら、お前はさっき吹き飛ばしたやつらを捕まえていてくれ。やつらには後でじっくり話を聞かせてもらいたいからな」
「了解」
メイヴは、大人たちが吹き飛んでいった麦の畑へと走っていく。
俺は他の紫の光が出現している所へ向かいつつ、抱いている子どもを見る。子どもは一言も声を出していなかった。
死んではいないよな? ぬくもりは感じるし。
「おい。お前、大丈夫か?」
と声を掛け、確認のためフードを外す。
現れたのは少女の顔。泣きじゃくったのか目は赤く腫れ、茶色の髪も大きく荒れていた。
「…………」
そして、少女の頭には猫のようなかわいい耳が付いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます