17 閃光
次の日。
討伐のクエストのため、パーティーで宿を出ようとした時、俺はメイヴから声を掛けられた。
「ねぇ、スレイズ」
「なんだ?」
「私のステータスのことなんだけれどさ、なぜか結構上がっていたんだよね」
「え? ウソ」
「いや、本当」
すると、メイヴは俺の肩をポンポンと叩く。
「やっと私のことを信じてくれるようになってくれたんだね、スレイズ」
話を聞いていたのか、ナターシャはメイヴに尋ねた。
「メイヴのステータスはどのくらい上がったの?」
「うーんと、そうね。シュナほどではないかも。でも、前よりずっと上がった。まぁ、完全に信頼はしてもらえていないみたい」
「え? 俺信頼してるよ? かなり信頼してるよ? なんだったら、シュナ以上に…………」
「なんですってぇ? 今、スレイズの口から聞き捨てならないことが聞こえたのだけれど」
すると、ナターシャが「あ」と呟く。
「どうした? ナターシャ」
「メイヴ、あれ話してないから、スレイズに信頼されていないのかもしれないよ?」
ん? あれ? あれってなんだ?
俺が首を傾げていると、メイヴは珍しく嫌そうな顔をし始めた。
「…………ナターシャの言ってるのって、あのことでしょ?」
「え? あのことって何?」
「うーん、あれはちょっと話せないな。できれば誰にも知られたくないことなんだよね」
「え? 話してくれないのか?」
その後、俺が何の話なのか何度尋ねても、メイヴは「ごめんね」と言うだけ。
いや、そんな風に話されたら、気になるやつじゃん。
クエスト終わりにでも、後でナターシャの酔っ払い事件とともに話してもらおう。
うん、そうしよう。
そうして、俺たちはSSクラスのモンスターを討伐すべく、街から外れた森にやってきていた。
以前ベルベティーンたちにあった森とは違う森。
マッドアイボールは昼間この森の奥の池周辺にいるらしく、俺たちは先へ進んでいく。
そして、数分後、やつを見つけた。
「やつがターゲットか」
巨大な目玉やろうは大木の下にいた。
いや、厳密に言うと、大木の下にある穴から出てきた。
しかし、俺たちが静かに近づくと、すぐに気づき、外に出てきた。
まるで餌が来るのを待っていたみたいだな。
「このマッドアイボールは、それぞれ状態異常系の魔法をかけてくるの! 離れて!」
マッドアイボールは状態異常系の魔法を使用し、獲物の動きを小さくしたり封じたりするらしい。
厄介なやつで、さらに個体によって魔法が異なるため、どんな魔法を使用するのか分からない。マジで厄介なやつだ。
「とりあえず
シュナにポンと蹴られ、俺はこけそうになりつつも、敵の前に出る。
「この前の罰として、魔法をかけてもらいなさい」
「えぇ――!?」
「シュナちゃん、そんなことしたら、スレイズが」
「スレイズは覚醒持ちでスキル持ち。ステータスは化け物なみなんだから、そう簡単にしなないと思うわ。安心して」
俺の意見は言わせてくれないんですね、シュナさん。
敵を目の前した俺は手を上げ、マッドアイボールの気を引く。
「仕方がない! こっちにこいやー!」
コイツがどんな魔法を使うか、さっさと分かった方が攻撃を仕掛けやすいだろう!
それに俺が魔法をかけられても大抵はなんとかなる!
多分!
すると、禍々しい闇の玉が飛んでくる。素直に魔法をかけてくれるようだ。
その闇の玉は俺の体に当たる。
あ、これは…………。
いくら動かそうとも、腕や脚は動きそうもない。
体の動きを封じる魔法だったのか…………。
目と口は動くようで、石とかにされたわけではなさそうだ。
マッドアイボールは動きを封じた俺を食べるつもりなのか、下にある口をパクパクさせていた。鋭い歯もちらちらと見えている。
さっさと動かないとまずいな。
「オールアウェイク」
と俺は小さく呟く。
そして、状態異常魔法を解除すると、マッドアイボールの下に素早く滑り込み、
「ほらよっ!」
口の方へ剣を勢いよく放り込んだ。
すると、マッドアイボールは思わず耳を塞ぎたくなるような、奇声を上げる。
ちょっとはきいたか。
まぁ、SSクラスの魔物が剣一つでやられるとは思わないが、剣ぐらいはプレゼントしといてやろう。
剣を敵の口の中に放り込んだ俺は、いったん敵から離れる。そして、他の3人に大きな声で話しかけた。
「あの闇の玉は体の動きを封じる魔法のようだな」
「みたいだね!」
「でも、スレイズは状態異常魔法を自力で解除したの?」
「ああ、そうだが?」
すると、ナターシャは「はへぇー」と驚きの声を漏らした。
一方、シュナは俺に細い目を向けてくる。
「ナターシャ。驚くこともないわよ。コイツ、化け物みたいなものなんだから」
「……………………はいはい、そうですね。俺は化け物、シュナちゃんは幼女おばさん」
「な、なんですってぇ!!」
俺の一言に、シュナはキレたが、無視。
「まぁ、とりあえず、あの玉に当たらないように」
「りょうかーい!」「…………はいはい」「おっけい」
ナターシャは元気に返事。シュナは不服そうに、メイヴはいつも通り返事をしてくれた。
リーダーってこんな感じでいいのかな?
と攻撃を仕掛けようとした瞬間、「スレイズ」とナターシャに呼ばれる。
「言い忘れていたんだけれどね…………」
「なんだ?」
「この敵――――――――――――」
その瞬間、俺とナターシャの間に1つの光線が伸びる。風がぶわっと吹き、俺たちの髪を大きくなびかせた。
光線は一時すると収まり、俺はナターシャの方を見る。
「この魔物、瞳孔からビーム出してくるから…………」
「…………」
うん。
知らなくとも、まぁ避けることはできたと思う。
だが、知っていて損はない。早く教えてほしかった。
「あとね、マッドアイボールの瞳孔は小さい瞳孔に分裂するの」
「…………」
「先に説明してなくて、ごめんね」
「…………」
SSクラスは攻撃がワンパターンじゃないところは、やっぱSSクラスの魔物だな。
うん。
それにしても、早く言ってほしかったよ、ナターシャ。
何も知らずに突っ込むところだったぜ。
呆れ顔を浮かべていると、
「マッドアイボールの知識を持っていないスレイズが悪いのよ」
とシュナが鋭い声で言ってきた。
俺は助けを求めるように、メイヴに視線を送る。
彼女は苦笑いで、
「マッドアイボールぐらいは知っておいたほうがいいかもね」
と言った。メイヴもシュナの肩を持つのかよ。
マッドアイボールなんて初めて会った敵だし、SSクラスの敵とまともに戦ったことがなかったんだよ。
まぁ、これも経験だ。
マッドアイボールについて知ったことだし、さっさと倒してやろうじゃないか。
マッドアイボールの光線は一定間隔で放っており、連続では出来なさそうだった。
これなら、光線が放射されたときに、闇の玉を避けて、瞳孔をさせば行けそうだな。
「なぁ、シュナ」
「なに?」
「剣1本貸してくれないか?」
「はぁ? 予備の1本も持ってきてないの? なんで敵に放り込んだのよ」
「いや、氷魔法で剣ぐらい作れるかなと思ったんだけどさ、俺、炎系の魔法が使いやすいんだよ」
「そんなの知らないわよ。剣がなくたって、炎で剣みたいなものぐらい作れるでしょ? ほら、さっさとやらないと厄介なことになるわよ」
マッドアイボールは瞳孔をさらに増やし、四方八方に小さな瞳孔があった。
「これは4人でやった方がいいな。いけるか?」
そう聞くと、3人はコクリを頷き、ちょこまか動く闇の玉を避けながら、マッドアイボールをすばやく囲む。
俺はシュナの言われたように、炎魔法で剣を作ってみる。すると、意外と簡単に作ることができた。
炎で剣なんて作れないと思ってた。やってみるもんだな。
俺は炎の剣を何本か作ると、その剣を空中に浮かせ、1本は自分の手に取った。
これで複数の瞳孔をやれるだろう。
「次のビームが来たら、一斉にやるぞ!」
大声で、メンバーに声を掛ける。
すると、瞳孔が黄色く光りだした。
――――――――――――来た。
そして、次の光線が来た瞬間、俺たちは同時に走り始めた。
★★★★★★★★
私、ナターシャは仲間とマッドアイボールを倒すと、一息ついた。
スレイズとシュナちゃんがかなりぶっとんだことをしてたから、一時はどうなるかなと思ったけれど、意外と早く倒せた。良かった。
周囲を見渡すと、バラバラになったマッドアイボールの体。
うぅ…………臭いがきついなぁ。
自分の服にはマッドアイボールの液体がふっかかり、強烈な臭いを放っていた。
顔を上げ、他のメンバーの様子を見る。
スレイズは…………自分の剣を回収してるね。うんうん。
あ、シュナちゃん、めちゃくちゃ顔をしかめてる…………やっぱり臭いよね。
え? なんで、メイヴはそんななんともない顔ができるの? すごいなぁ。
と3人の様子を見て、安堵していると、少し離れたところの草むらが揺れた。カサカサと音を鳴らしている。
もしかして、魔物?
小さい魔物ぐらいは余裕で1人で倒せる。
警戒し小さな剣を構えていると、そこから現れたのは人だった。
あれ?
……………………パトリシア…………ちゃん?
先日会ったパトリシアちゃん。彼女はほとんど昔と変わらない姿だった。
しかし、今の彼女の瞳は赤く、そして、頭には角が生えていた。
確かにぱっとみた容姿はパトリシアちゃんだけれど……………………よく見ると、魔物のようにも見えちゃうなぁ。
「あ゛んたなんか! あ゛んたなんかっ!」
2本の剣を持つパトリシアちゃん。
彼女は叫びながら、真っすぐ私の方に向かってきていた。
え?
これは私を狙ってる?
ウソ。
どうすればいい?
私の脳内で2つの選択肢が浮かぶ。
とりあえず攻撃する? ――――――――そんな。パトリシアちゃんを傷つけるなんて。
攻撃せず防御? ――――――――でも、この前みたいに、一方的にやられてしまうかも。
どうすればいい?
「ナターシャっ!!」
その瞬間、私の名前を呼ぶ声がした。
スレイズが氷の剣を、パトリシアちゃんに向かって投げていた。
しかし、彼女は華麗に避け切り、走り続ける。
やるしかない…………のね。
その瞬間、目の前に閃光が走った。一瞬だった。
いつの間にか彼が立っていた。彼の体の周囲にはビリビリと電気が走っている。
前方を見ると、遠くにいたのは吹き飛ばされたパトリシアちゃん。ぐったりと倒れていた。
………………………一体何が起きたの?
恐る恐る彼の顔を覗いてみる。そこにはギラリと光る赤い瞳があった。
「ナターシャに傷一つ、つけさせるか」
そんなスレイズの声が聞こえてきた。
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