第38話
「じゃあ、これであなたの用事は終わりね」
「いいえ、まだ一つ大事なことが残っています」
ライラがマスターに声をかけると、彼は手を合わせて満面の笑みを浮かべた。
「昨日言いましたよね、お礼に食事でもって。もうこんな時間ですが、ここにいる皆でお昼でもどうですか?」
マスターの突然の誘いに室内の者たちが全員が戸惑っている。
ライラは顔を歪めると、速攻で誘いを断った。
「いいえ、新米冒険者がマスターと同席なんて恐れ多いので失礼しますわ」
「お礼ですからライラさんがいらっしゃらないと困ります。もちろん私の奢りですよ」
ライラは面倒くさいことになりそうだと慌てて部屋から出て行こうとする。
すると、マスターがすぐに傍へやってきて引き留めるように腕を掴んだ。
「……細いですね。ライラさんはもう少し肥えた方が良いと思います」
マスターがぼそりと呟きながら至近距離でじろじろと見つめてくる。その視線が嫌で、ライラはマスターの腕を振りほどいて後ずさった。
「じゃあ、肉がいい!」
イルシアが大きな声で言った。
「肉が食いたい。腹減った。早く行こうぜ!」
「そうですか。イルシア君がそう言うならおいしいお肉屋さんに行きましょう」
「だから、私は行かないってば! そんなにお肉が食べたいならみんなで行ってきたらいいじゃないの」
ライラが再び食事を断ると、今度はファルに腕を掴まれた。
「そうですね。私もお肉が食べたいです。お肉がいいです。行きましょう!」
「ええ、私もそれで構いません」
ファルと軍服の男までそう言うので、マスターがにこやかに笑って頷いている。
「ちょっと待ってよ。私に対するお礼っていうなら私にお店選びの選択肢はないの? まあ、行かないけどね……」
「ここは年長者として若者の意見を聞いてあげましょうよ。さあ、参りましょうか」
「だから、私は行かないってば!」
断り続けるライラをファルは離さなかった。
結局、ライラは強引に昼食に連れていかれた。
まだたくさん食べられるわけではなかったが、それでも皆で食事を取るという雰囲気を味わうことができた。
人と食卓を囲むことの楽しさを思い出すことができた出来事だった。
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